第23話 日本鬼子

023 日本鬼子リーベングイズ


こうして、軍との一万円の契約を成し遂げた私は、作戦計画を練る。

簡単にいうと、城門の上の兵士を狙撃して殺すだけの仕事である。

但し、城壁の擁壁部分から隠れて撃ってくる人間を低い位置から撃つ場合には、角度的に無理がある。

戦では、やはり高い位置の方が強い。

「やはり無理があるのではないか」

「ああ、大丈夫ですよ。狙撃に向いていないだけなので、潜入工作して破壊すれば問題ありません」

「潜入するつもりか」

「はい、狙撃では、擁壁に邪魔されますからね」


「危なくないか」

「まあ、危ないかもしれませんね」

「お前なあ」なんとも言えぬ顔をした山口。

「誰が突撃隊員だ?」

ここには、10数名が軍夫として雇われて来ている。

「私、一人です。逃げるのも簡単ですから」

「儂も行こう」あまり気が向かないが、ここは護衛の出る幕かもしれない。

「大丈夫ですよ」

「だが!」


「神の使徒の力を信じてください」


こうして、夜間奇襲攻撃はたった一人の子供が担うことになる。


辺りが闇に染まる頃、黒装束の子供が一人、日本軍陣地から出ていく。

それはたとえて言うなら、忍者装束である。

だが、忍者刀はもっていない。

顔には、黒のグリースが塗られている。


日本軍伝統の夜襲である。

月が隠れているうちに、闇の中から中へと這い進む異形。

門の上には、かがり火がたかれているが、狙撃を恐れて、城外に顔を出すものはいない。

たやすく、城壁までたどり着く。

懐から、鍵縄を取り出す。

ヒュンヒュンと回すと、素早く上に投擲する。

鉤のかかりを確かめると、少年は素早く登り始める。

まるで、壁が垂直でないかのような身軽さであった。


城壁の上に入り込んだ男は、擁壁の影に身をひそめる。

彼の任務は、城門の爆破。


忍び込むという計画ならということで、狙撃ではなく爆破に変更されてしまった。

アイテムボックスには、爆弾が入っているということだ。

アイテムボックスの容量制限がかけられているといっても、250Kg爆弾程度は簡単に入る性能はあるのだ。


「さあ、早く仕事終わらさないと」

さっそく、城壁上に爆弾を置く。

折角だからいくつか予備の爆弾をもってきたのだ。


「そこのお前何してる!」中国語で誰何すいかされる。

ちゃんと城壁にも兵はいたのだ。

今、たる爆弾を置き終えた瞬間である。


そこには、真っ黒に塗られた顔があり、白目の部分だけがわかる人間が立っていた。

「お前は、日本軍か!」

そんなことは当たり前だろうが、そんなことを聞く清兵。

「違うな、儂は、日本鬼子(リーベングイズ)よ」まるで中国人のように中国語を話す小鬼。

「貴様!敵し・・・」

その叫びは途中で止んだ。

黒装束の小鬼が、日本刀で首を切り飛ばしていたのである。

それでも、兵士たちが他にも表れる。


「何だ、あれは!」

「暗殺者だ!」

その二人も途中で声を止めた。

ナイフのようなものが、喉に突き刺さっていた。


「侵入者だ!」その時になって初めて大きな声が上がる。

黒装束は、すでに、近くの家屋の屋根にダイブして、転がりながら地に落ちる。


「敵襲だ、侵入者を探せ!」呼子が吹き鳴らされる。


民家から民衆が出てきて、小鬼を発見する。

「死にたい奴からかかってこい」

黒装束の小鬼がしゃべった。それは中国語だったので、周囲の人間にはわかならなかった。住民が朝鮮人であることに気づいていなかったのである。


しかし、この小さな日本人をうち殺せば褒美がもらえそうなので、農民は農具で襲いかかる。


剣光が煌めき円周を描けば、周りにいた農民たちが血しぶきを舞い散らせながら倒れ伏す。

「円月殺法、『満月』」


「あそこだ!」中国語が飛び込んでくる。

清兵の集団が青龍刀をもって現れる。


日本鬼子は、脱兎のごとく逃げ始める。

「追え!」


別の方向からも捕り方が現れる。

「『羞花閉月』」懐から取り出した撒菱を後方の捕り手に投げつける。

恐ろしいほどの速度で飛来する撒菱が、捕り手たちを血肉の塊に変える。

日本鬼子の腕力がおかしいのか、頭がおかしいのか。

明らかに撒菱が別の役割を担っている。


「やあ!」前方の捕り手の青龍刀が音を立てて切りつけるが、鬼子はその男の肩を踏みつて大きく跳躍する。

そして、又も民家の屋根に飛び上がり、疾走を開始する。

闇夜の中で、この鬼子を追うのは並大抵ではない。


その時、城壁の上部で爆発が発生し、火柱が立つ。

たる爆弾がさく裂したのである。


結局捕り手は、消火のために追跡を緩めるしかなかった。

だが、それは、鬼子を自由にさせてしまう。

まんまと影の中を這い進み問題の城門に近づいてしまう。

懐の中から樽がまたも出てくる。

危険な男だった。

樽自身は、あちらこちらに存在するので、不信さがない。

だが、鬼子の樽には、火薬が詰まっており、導火線に火がついている。

影の中で作業をする鬼子を見つけることはほぼ不可能である。

鬼子は、<隠形>を身に着けており、気配を完全に消すことができるのだ。


たる爆弾の設置を完了すると、今度はまたも別の場所で騒ぎ始める。


「はあ!」剣法を習ったであろう兵士の剣もたやすく躱す。

多対一の戦いの中において、鬼子は気安く切り結んでいる。

日本の戦闘ではあまりみられない、拳や蹴りを織り交ぜた戦いを行っていた。


捕り手の剣が一斉に鬼子を突き刺そうと突き出されるが、鬼子は軽く跳ねてその刀の交差部分に乗る。

剣が引き戻される瞬間に鬼子は、トンボを切って宙に舞う。

「『羞花閉月』」謎の名の技がさく裂する。

しかし、それはショットガン並みの破壊力を持っている。

鋼鉄の撒菱が清兵を肉塊に変える。


「再見!」


鬼子はそういうと、又も屋根に飛び上がり疾走を開始して、瞬く間に城門の上に駆け上がったと思うと、そこから何のためらいもなく、宙へと飛び出したのである。

城壁の高さは10mほどもあるのにだ。


たる爆弾が猛烈に爆発し、城門とその周囲を破壊する。


その瞬間を待ち受けていた日本軍の夜襲が平壌城に対して開始された。



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