第24話 日月神教

024 日月神教


日清戦争は1894年(明示27年)7月から1895年(明示28年)4月にかけて日本と清国の間で行われた戦争である。

結果的には、日本海軍が、清の黄海艦隊を撃滅し、旅順、威海衛を攻略すると、天津、北京が丸裸になり、講和が行われることになる。


このころ、日本の株価は戦争直後にかなり下落していた。

だが、私は、この戦争に勝つことがわかっていたので、底値で株を買いあさっていた。

この底値が、戦争で勝つとやっと上昇に向かい、その後急速に上げていく。


手持ちの資金25万円(正業で稼ぎ出したお金)をすべて買いに回し、上がらなければ破滅するくらいには、投資していたのだ。

その資金は、うまく増えて250万円になったのである。


そして、この戦争直後から、『月兎の軍靴』が陸軍で正式に採用される。

平壌城攻略に手を貸した代わりに、軍靴の契約を結ぶことができたのである。

一足12円の軍靴、利益は2円。

10万足の契約で20万円の利益が出ることになった。


しかし、台車のタイヤをわが社のタイヤに変えるという名案は葬られた。

帝国軍特有の輜重部隊への軽視が原因とみられる。


それよりも軍とのパイプができたのも大きい。

これにより、謎の連発式ライフル銃の販路も開拓できたという物である。


但し、これはそれほどの数を売ることはできない。

あくまでも、職人の手作業なのだ。こちらのライフル製造は、機械の償却のための必要数を売る。自分たちが使うだけでは、数十もあれば足りるため、職人の技術向上ができない。

それを解決する方法という訳である。


ところで、平壌城夜襲の功績は、陸軍に譲られた。

民間軍事会社『八咫烏部隊』は、陸軍の特殊作戦を引き受けることもあるのでよろしくと営業をしてきたわけである。

まあ、まだ戦闘員は2人しかいないのだが。


こうして、日清戦争は幕を引き、三国干渉が行われてくることになる。


日本は清から得た賠償金で八幡製作所を作ることになった。


私は、護謨、タイヤ、自転車、製粉、食品事業を順調に発展させていくことになる。

それに加えて、軍靴、銃砲製造もラインに加わり、新たに民間軍事会社も立ち上がった。


しかしこの会社にいついて、法的な部分でグレーなところもあるので、はっきりとさせていない。


だが、猟師とその弟子の丁稚が部隊員となるべく厳しい訓練を続けている。

次の戦いは、日露戦争になるのだろうか?


農業は順調だ。何せ不作がないからだ。

大量の米などを作っているが、社員への現物支給を行っている。


そんなころである、隣村の庄屋がやってきた。

「あんたんとこの田はいつも豊作だな、何か秘密でもあるのか?」

そう、すぐ隣にある田んぼが不作でも、私の所有する田んぼでは、豊作なのだ。

明らかに怪しすぎるというものだ。


この地域ではヤマセが起これば不作になる。

しかし、それは一般的にはということであって、私の場合は特別法の保護下に存在するので、権益は守られるのである。何を言っているのかわからない?

ああ、私もわからないな。それだけ特別だということだ。治外法権なのだ。


「隣村の庄屋さん、これはあなたには教えたくはないのですが」

父親ではなく、隣に座る子供が話だしたので、庄屋は驚いたであろう。

我が家の応接間では、上座に私がすわるのだ。


「咲夜さん?」

「庄屋さん、我が家の息子、玄兎は少し普通の子供と違います」

「そうでしょうね」普通の子供は大人の話に入ってきたりしない。

しかも上座に座ったりはしない。

躾けがなっていないのではないか、と思われて仕方がないところなのだ。(庄屋の家なら、殴りつけられるかもしれない)


「豊作の秘密を知りたいですか」と私が問う。

「はい、ぜひとも、わが村の田んぼでも豊作になってほしいと思っているのです」

咲夜家の田んぼは借りまくっており、隣の村にまで範囲を拡大中である。

この食糧で、食事のできない貧しい家庭の子供たちを、確保しなければならないからである。

簡単に言うと、軍事会社の未来の構成員を確保しなければならないのだ。


「なるほど、我が家の豊作の秘密を知りたいのですね」ともったいぶる子供。顔が怖い。

「はい、是非とも」庄屋は、恥も外聞もなく頭を下げる。

豊作と不作では、天国と地獄ほどの差があるのだから当然と言えば当然だ。


「頭をお上げください。秘密というほどの秘密はないのです、お教えできることもあると思います。しかし、それには、私共に従ってもらう必要もあるのです。それが庄屋様にできるでしょうか」子供はなにか、申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「是非ともお願いします」一時の我慢で豊作になるならば何の問題もない。


「そこまで覚悟をもっておられるならば、お話しましょう、しかし、ここで語られることは口外無用としてくださいね」


「わかりました」


「日月神教というものをご存じですか」

「じつげつしんきょう」庄屋は唸った。


庄屋は聞いたことがなかった、それはそうだろう。

今できたばかりの新興宗教の名称を知っているはずがない。

この男が今、ここで思いついた、はったりであった。


「月の女神、名前を語ることは許されておりませんが、その月の女神様を祭神としてお祭りする宗教でございます」

子供は、まるでそれが真実かのように語り始める。

名前を語ることを許されていない女神をひそかに祭り、帰依することにより人々の願いをかなえるというのである。


全く嘘臭い話もあったものである。



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