第103話 空戦

103 空戦


パイロットスーツにゴーグルをぶら下げ、機体へと走る隊員たち、敵機来襲まで時間がもうあまりない。


「どうだ!」

「問題ありません、本機は仕上がっております」若い整備士が答える。

「よし!」

山口は、颯爽とコックピットに乗り込み計器をチェックしていく。

エンジン点火!

バババ!点火プラグはテスラ製、エンジンはディーゼル製、機体設計は、シコルスキーだ。

エンジンパワーがあるためすでに4支プロペラである。


エンジンが轟音を響かせ、吹き上がる。

防弾キャノピーを締める前に、整備士にサムズアップを送る。


「管制から、戦闘71へ。敵機は渤海方面から侵攻している。迎撃せよ!」

「71リーダー了解」


「全機、続け!」

次々と滑走路へと動き始める第71戦闘航空団の各機。


山口の真っ赤な紫電改が舞い上がる。

次々と深緑の紫電改が続く。


瞬く間に高高度に遷移した戦闘71大隊は、48機である。

(4機編成1個小隊、4個小隊で1個中隊、4個中隊で1個大隊となる。)


紫電改の武装は20mmブローニング兎機銃4門である。

最大戦闘速度は620Kmである。


高度6000から下方を見下ろしているとほどなく、海上に黒い点のような敵機が飛来してくる。

「全機、これは実戦である。今までの訓練を思い出せ、貴様らなら出来る」

「「「「「了解!」」」」」」

航空無線は非常にクリアに聞こえた。

テスラ社が開発した無線機は非常に優秀だった。

全機に搭載されている。


「全機順次交戦開始、アタック!」

真赤な紫電改が急速に旋回して急降下を開始する。小隊の残り3機も遅れじと降下していく。


ゴオオオオオオン!なんとも言えない高温を響かせながら降下していく戦闘機は、敵の真上を採っていた。

たちまち、光学照準器に敵機の姿が大きくなっていく。

もはや外すはずもなかった。


ダダダダダッ!20mm機銃弾が、敵機のキャノピーを打ち砕いた。


砕かれた戦闘機の残骸が飛び散る隙間を縫って飛びぬけていく。


敵機には中国の国旗が書いてあったが、明らかに米国製戦闘機しかも、パイロットも外国人であった。


壮絶な急降下攻撃は、敵を大混乱に落とし入れた。

最初の攻撃で10機以上が砕け散っていた。

そして、真っ赤な機体は敵の後方に早くも周りこんでいた。


鈍重な米国製P40 では振り切ることはできなかった。

次々と、強力な火砲の餌食となって火の玉になって落ちていく。


そして、格闘戦でも自動空戦フラップのついた紫電改、しかも、精鋭のパイロットの前では何もできなかったというのが本当のところであった。


そもそも、攻撃する前に、しかも海上なのになぜ発見されていたのか、敵機の隊長は考えていたが、それは永遠に中断されてしまう。


「逃がすな!全機撃墜せよ!」

すでに命中弾を浴びた機体が、ユラユラと逃げ延びようとしていて天津方面に向かって逃げていた。

しかし、非常な命令が下される。


戦闘71の第2中隊長、長尾大佐の命令であった。

彼は、若くして神教に入信し、山口と一緒のリヒトホーフェン航空学校1期生である。

山口の場合は、暇つぶしの側面があったのだが、長尾の場合は全く違う。


猊下げいかの為に、敵なるすべてを殲滅せん!我は毘沙門天の化身なり」

と宣う、所謂ヤバい奴であった。


毘沙門天の化身がなぜ、金の亡者の化身にかしづいているのか全く不明だが、総じて子供のころに入信した信者には、このような反応を示すものが多かったのである。


山口には、無意味な戦いに見えたが、意見はしなかった。

長尾を怒らせると危険だし、例の男は、自分に歯向かう者には決して容赦はしないからだ。


逃げていた戦闘機は残らず撃墜された。


基地に帰り着いた山口は各員の機体を見て回った。こちら側は奇襲の成功もあり全機が無事だった。

しかし敵機銃で翼に穴が開いていたり、風防に銃弾が食い込んだりしているのを見て、長尾の考えが正しいことに思い至った。


これは武士の仕合ではない。殺し合いなのだと。

翼(インテグラルタンク、防漏護謨仕様)には、燃料が搭載されているが、防火装置がその火を沈下させたのである。


武士は切り殺すところまでいかなくても相手は逃げる。

しかし、銃器は逃げながらでも簡単に人を殺せるのだ。


そして、キャノピーを直撃した銃弾は、防弾仕様により弾を止めていた。

「神教精鋭の戦闘機なのだから防弾ガラスは必須である」男は金を惜しまず生存率を上げる努力を惜しまない。


山口は大隊長である自分が敵を甘く見ていたことに気が付いた。

一人でも、多くの部下が欠けることなく返してやる必要があるのだ、そのためには、敵を確実に仕留めねばならない。


山口は深い反省に入っていたが、例の男はそんな部下のためを考えていたわけではない。

男にとっては、戦争とは、いかに敵兵を多く殺すことでしかない。


部下にはできるだけ生き抜いて、敵を多く殺してほしいのだ。

だから、金を惜しまないのだ。

敵を殺させることに対して金を惜しまないのであって、部下を思っているわけではあまりなかったのである。


それでも、彼等ロシア太平洋艦隊、空母艦載機部隊の防御装備は、この時代の最先端を突き抜けていたことは事実であった。


修理と調整のために整備兵達が、あちこち走り回っている。

次の攻撃は待ってくれない。彼らは全力を尽くすのであった。

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