第19話 報国部隊

019 報国部隊


護謨工場が、拡張され大きな長細い建屋が2つになった。

某商社の分の護謨の木も収穫されるようになったからである。


その中では、タイヤが製造されている。

欧米の有名なレースで連勝(タイヤサプライヤーとして)しているため、世界的に勇名を馳せている。

しかし日本人には、今一つ認知度が浸透していない。


「企業秘密を守るためには、警備隊は必須だが、どうしたらよいであろうか」と私が問う。

「そんなもの盗みに来るものがいるのかね」と山口。

「勿論だ、彼ら『機関』はいつも私を亡き者にしようとしているのだ」

「そんな暗殺者みたいな奴は見たこともないぞ」


「君ほどの達人でも気づいていないようだな」

「ああ。いないからな」


「チッ!チッ!チッ!」私は、口元に人差し指を立てて振る。

をなしにして話をすすめんのかね」あきれた表情を見せる山口。

「設定とは失礼な」


「まあ、と言い換えた方が良いかもしれんが」

「君のような一般人には知る由もないが、神の使徒には見えているのだよ」

「面倒くさいのでそれでよい、それで」


「実は、数年後に清国と戦争が起こる」

「へえ~」

「尊王の志士の君なら、お国のために戦いたいであろう」

「おい、私は佐幕派だったぞ」


「佐幕派の君ならお国のために戦いたいであろう」幕府は天皇に大政奉還したからそれでよいはずだ。


「いや、別に」

「・・・・」


彼は佐幕の志士である。

とある有名な組織に属していたのだ。


「実は、数年後の清国と戦争が起こる」

「さっき聞いたぞ」

「一つ儲け話に乗りたいと考えている」

「何故そんなことを知っているとか野暮なことは言わなが、かなり常識外れだな」


だと考えてほしい。いわば神の予言でわかるとか考えて欲しい」

「なるほど、あの薬も大概な代物だったしな、君がそういうならそうなんだろうとは思う」


「そこで儲け話の件だが、いくつか案があるのだが、聞いてくれるか」

「儂は、君の護衛として雇われたと思っているのだが」


なるほど、そういわれればそのような気がする。


「一つは、株式投資だ。これは相場をみて仕掛ける」

「・・・」

「もう一つは、武器の売却だ」

自転車工場では、せっせとライフル銃を作っている。

狩猟用と銘うっているが、そのように猟師がいるわけでもなし、全ての猟師がうちの自転車屋(片手間に銃の製造販売もしている)から買うとも思わない。


これは、兵器製造技術の向上のための演習なのである。

「もう一つは、家の護謨をつかった軍靴だ」

「ほう」初めて反応が得られた。裸足、草履が普通の世の中だ。


皮の軍靴に護謨底を採用した、現代的な半長靴である。

これを、試作していたのである。


「なるほど、それは良いものなのだろうね」

「勿論ですよ、神の信託を受けて製作したものですからね」

「ふ~ん、なんだか核心の部分になると途端に神頼み的になるよね」

「それは、『神の使徒』だから仕方がないとしか言いようがありませんね」


「まあ、それはおいておくとしても売れるのかね」

「そこなんですが」

こうしてまたも悪だくみが語られることになる。


「おいおい、自ら戦争に行こうというのかね、私は経験したがとんでもないところだよ、いかないに越したことない」


凄惨な殺し合い、空腹、不衛生、精神失調、様々な厳しい状況に追い込まれることになる。


「幸いにして私は、体の成長が早いから5歳くらいであれば問題ないでしょう」

「大いに問題があるとおもうのだが」満一歳にしてすでに5歳児には見える程度には成長しているので、満5歳にもなれば10歳くらいには見えるかもしれない。


「その際に、報国部隊を作って参戦するというのかね」

「はい、その際、家の銃の性能テストも行います」

「それで?」

「はい、それで陸軍に宣伝して、評判が良ければその次の戦争には、独占契約ということになるはず」


「まあ、そういう訳だから素人を戦場に送り込むわけにもいかないから、歴戦の山口さんが訓練を施してほしいのです」


「この前からちょくちょく出てくる猟師の話かい、どうなんだろうね」

はほとんどが出身なんだよね」

「それも?」

です」


こうして、若い腕の良い猟師20名が東北、北海道から集められることになる。

それと同時に、貧困家庭の三男四男が丁稚奉公という形で、40名ほど集められる。

彼ら年端もいかぬ少年たちは、この猟師たちの荷物もち兼見習いとして訓練を受けることになる。


何故東北北海道なのか、それは想定戦場が朝鮮半島になるためである。

寒さに対する耐性と知識をもっていなければ凍え死んでしまうからである。


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