第20話 猟師と丁稚

020 猟師と丁稚


仙台市の郊外にかなり大きなタイヤ工場がつくられている、その敷地の中に、宿舎が建てられた。

そこに猟師たちは集められた。彼らは、東北・北海道地方の腕の良い猟師たちである。

高給につられてやってきたのである。


そして、彼らの下には、弟子たる貧困家庭から出された丁稚が付けられた。

この工場の守衛も兼ねることになる猟師たち。


しかし、基本は狩猟を行う。

狩猟には、関連会社の開発したライフル銃を使用する。

武器に関する使用実験も彼らの職務の一つになる。


雇い主の子供がなぜか頻繁に表れる。

小さい子供だが、なかなかに利発であり、聡い子供である。


「まずは、我等の領土に侵入するを抹殺せよ」

簡単に言うと、養蜂の蜂蜜を狙うを退治しろということらしい。

子供の警護についているという若い男が翻訳してくれる。

その男は尋常ならざる気配をもっている。きっと只者ではない。

ある程度の修羅場も経験した猟師たちは直感した。


その若い男は、丁稚たちに剣術の手ほどきもしている。

丁稚というのは、店で見習いをするもののはずだが、ここではそうではないらしい。

勿論、猟師について山に入ることもないのだ。


まあ、猟師たちに否やはなかった。彼らは今までの仕事をここで行うだけである。

ついでに、丁稚たちに狩猟の基礎を学び取らせれば良いのである。


しかし、その安穏とした生活もすぐに変化の兆しが見え始める。

自分たちも、剣術や柔術の基礎訓練を行うようになっていく。


それでも、仕方がない。給料が良いので仕方がない。

今更辞める訳にもいかない。給料の大半を実家に送っているのだから。

皆が貧しい世界なのだ。


猟師の良いところは自由であるところだが、悪いところは、良い生活を送るには収入が足りない。季節により影響を受ける。獲物にはもっと影響を受ける。

ここでの暮らしは、衣食住が十分に用意され、獲物が無くても給料が支給される。

首になる基準は、腕が悪い場合のみである。


翌年には、猟師の数が倍になり、丁稚の数も倍になった。

そして、2年の修行期間を終了したのか、別の丁稚が元丁稚の猟師の元にやってくる。


会社の警備にしては、かなり無駄に感じる。人が余っているのだ。そもそも、タイヤ工場など侵入するものがいるのだろうか。自動車がないのだからタイヤも要らない。


それに持ち山の熊や猪、鹿はほぼ狩りつくされている。

後は、趣味のように狩りをするだけである。

しかし、丁稚の修行のために、週5で山に入るのである。


丁稚たちは、別の宿舎におり、勉強と武術の練習それと狩猟をさせられているらしい。

彼らは、きっと商人にはなれない。

ここにいる丁稚のほとんどが商売を教えられていない。

奉公明けに金をもらい里に帰ればよいのだろう。


「本日、新型実験銃を配布する、射場において説明を行うので総員ヒトサンマルマルに射場に集合の事」またしても、子供が現れた。


射場とは、これも工場の一角に作られた銃の射場である。

はじめのころの銃はほぼ不良品に近かったが、駄目だしを続けた結果、ようやく使えるようになっていた。

精度もいまいちだったものが、これも集弾率も大きく改善されてきた。

それにしても、狩猟で新型銃とか全く無駄である。

軍払い下げの銃の砲が安いし性能が良いに決まっている。


何故、そんなに猟にこだわりがあるのだろうか。


猟師同志は、夜に宿舎で酒を飲むたびにそのような話になる。

変な疑問さえ持たなければここは本当に良い場所だった。


食料も、白米を腹いっぱい食べることができる。

なんでも自社の田んぼがあり、収穫されるらしい。

ゆえに、彼らはその恩恵にあずかることができる。


丁稚たちは、いつものまにか、少しおかしい呼び名をするようになった。

彼らは、雇い主の子供を『御使い』様と呼ぶようになっていた。

なんでもその『御使い』が祈れば必ず豊作になるのだという。


「可哀そうに、何らかの手妻によって騙されているんだろうな」

手妻とはマジックの事である。


詐欺師が手品を使い人を騙すことが有る。

人生経験のある彼らは、何も知らぬ子供が引っかかって騙されたのだろうと考えていた。


「これが、新型実験銃である」

いつもの子供が、射場にやってきた。

小さな子供が銃について語り始める。なんとも世も末である。

「そして、これがスコープである」筒のようなものを手に取り説明する。


「東京のガラス会社に頼んで作ってもらったものである」

それは、品川にある会社に特注して作らせたものであるらしい。


「では早速装着する」

新型銃には、マウントが用意されており、スコープ(竹の筒ほどの太さがある)を取り付ける。

光学性能が劣るため口径が大きくならざるを得ないのである。

しかも、性能自体もまばらである。日本の工業製品のレベルいまだ相当低いのである。


しかし、これらの知識の蓄積がやがて本当の実力に繋がると信じて作らされているのであった。だが、その品川のガラス製作所はその後すぐに潰れてしまうことになる。


スコープという物は、なるほど便利なものだった。

しかし、距離を合わせる必要があり、その適正距離が変更されると、目盛りを回したりして適正にする必要があった。

猟師には、その辺を勘で修正するので、問題なかったのだが、ここでは大きな問題になった。


射程1000mも先を射撃するためにどうしてもそれらをうまく調整する必要があった。


そういう場合は、丁稚たちの方が若い分だけ頭が柔軟ですぐに慣れていくようだった。




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