第47話 任務完了

047 任務完了


現場(駅構内)は混沌としていたが、暗殺阻止作戦の概要はこうであった。


犯人は、伊藤の顔を良く知らないため、列車から出てくる、背格好が老人であれば、それを撃つであろう。


そのため、哈爾浜に住まう朝鮮人の老人を列車に乗せておき、まず彼を出す。それらしく送り出す。

無事であれば、その後本人が出るということにしていた。


こうして、犯人は、顔を知らないが髭のある老人を射撃したのである。

そして、そこで有無を言わさず射殺されることになる。


伊藤暗殺部隊(勿論、単独犯であるはずもない)も、逮捕されるべき犯人が仕損じた場合に、犯人が出てきた喫茶店の二階に狙撃の準備をしていたが、その拠点を強襲され皆殺しにされたのである。


そもそも、史実では、件の朝鮮人に撃たれて死んだことになっているが、死因は、ライフル弾であったというような話があったのだ。案外、この別の部隊が伊藤を射殺したのかもしれない。


恐らく、これは、日本を攪乱したいロシアとロシア寄りの朝鮮人の策謀であろう。

(このころ、朝鮮国内では、ロシア派と日本派で争っている。どちらに接近した方が良いかということで争っていた、答えはどちらとも近よらないである。)


列車の屋根に、特注ギリースーツを来た狙撃兵2名を左右に対応できるように待機させていた。

特に、ホームにある2階建ての喫茶店が最も、怪しい箇所と言い含めている。

狙撃兵が、喫茶店の壁ごと犯人を撃ち抜いた。

そう、対物ライフルを構えていたのである。

少々の壁などものともしない破壊力を発揮したのである。


その後多少の混乱が発生した。

犯人は射殺され、その後伏兵部隊も現れるが、これも射殺。

その際、ロシア兵も銃撃に巻き込まれる事態に陥った。


喫茶店の方は、さらに騒然となり、店内で激しい銃撃戦が展開される。

喫茶店内には、武装したロシア人が複数いた。

だが、八咫烏部隊は、そのような場所でも戦闘する訓練も積んでいるのでたちまち敵を殲滅した。


結局十数人の犯人グループが射殺された。

どうせ聞いても大したことは知らないだろうから、捕虜にはせず、殲滅する方針だった。


最期は都督の本物の兵が死体などの処理をしてくれた。

戦闘に巻き込まれ死亡した兵士に、本物の伊藤が弔辞を述べて、その勇気をたたえた。


「君の機転で助かった、本当にあんな馬鹿者がいるとは」

「閣下が、朝鮮を保護国(独立国)として助けようと頑張っておられても、こうなのです」

「よくわかった」

「たとえ、朝鮮が併合されても、必要以外に資本投下をしてはいけません。日本は何れもっと大きな敵と戦うことになります。そのために、他所の土地に資本を投下してはいけません。

それを閣下の力で是非とも食い止めてください」


「うむ」

「朝鮮の地は、ロシアに狙われればすぐに失陥します。その際には、全てのものの所有権は失われるのです」


「わかった。私が甘かったようだ。彼らに良かれとおもっていたのだが」

「そのような行ないは全く意味を持たないでしょう」未来を知るこの男は、ぼそりと呟いたのである。



この時、韓国の併合はすでに議会で決定されており、伊藤博文を暗殺したところで、それが覆ることはなかった。全てが、何のための暗殺であったのか。犯人の意図ははっきりとしていなかったのである。


「ところで、大事件になるところが、これでは、新聞にならないかもしれません。一筆、我が校長に何か書いていただけませんか」

「お安い御用だ。これから何かこまったことが有れば、なんでも言ってくれ。君は命の恩人だからな」


「ありがとうございます~う」奇妙な返事をして喜びを表す男だった。


こうして、明治の元勲は生き残り、男と堅い約束をする。

併合した朝鮮半島には、最低限の投資しかしない。併合とは植民地なのだから、決して平等ではない。よって、本国にできるだけ渡航させないように防御線を張るようにお願いした。

何故なら、敵性国民はすべからく、敵のスパイになるからである。


滔々と、施策らしきものを述べる男。

「これからは満州の時代です、閣下は満州に目を向けてください」

もともと、伊藤の目的は、それだったのだ。

「わかった、朝鮮のことは任せておきたまえ」伊藤は胸を叩いた。

「よろしくお願いします~~う」男は、喜びをそのように表したのである。


またしても、大変な大物の名前を繰り出してきた1号生徒が兵学校に帰ってきた。

伊藤元老が、襲撃された事件は日本でも新聞にのった。

関東都督府が見事に謀略を暴き、阻止することに成功した。

『関東都督府、見事な働き!』『不逞朝鮮人を返り討ち』という見出しが躍る。

この事件の解決の功績を関東都督に譲り、貸しとした。


その数日後に、『病状は回復しましたので、原隊に復帰します』とやってきたのだ。


「貴様が阻止したのか、本当は何もしていなかったのではないか」

「校長、私がそのような人間に見えますか」さわやかな顔つきが余計に胡散臭い。

そして、徐に懐から伊藤直筆の書類を差し出す。


「彼は日本の至宝、よろしく頼む」多少大げさに書かれているのであろう。

さらに言えば、日本の至宝なのかどうかは不明である。だが、死者を量産する機能だけは確実に有していた。


そのように、全てのミッションがコンプリートされ、ついに卒業を迎えることになるのであった。




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