第43話 不都合な真実
043 不都合な真実
特番の栗田建夫は、咲夜の従者として徹底的に鍛えられることになってしまった。
「辞めたかったら、いつでもやめなさい。兵学校を辞めれば、わが社で就職を斡旋してあげるよ」どうしても辞めさせたいのであろうか、なぜ僕ばかりがいじめられるのか。彼はそう思ったことであろう。
しかし、この程度のシバキはどこでも行われており、彼だけが特別という訳では全くない。
「君には本当に一流の軍人になってもらわないといけないと神の啓示を受けたのだ」
同じような被害者に、1号生の人物もいた。
1号(3年生)生徒は本来、1号になりさえすれば『神』(最高位)の位の生活を約束されているのだが、南雲1号生も同じような理由で、この死神に監視されているのである。
だが、死神に目をつけられることが全て悪いことかというと、案外そうでもない。
死神はどうも金持ちらしく、酒保に行くときは、気前が良く、なんでも好きなものを食えと懐の広いところを見せる。そして、事実なんでも好きなだけ食えて買える。
それに、死神の付き人なので絡まれることはほぼない。
彼に面と向かって意見を言える生徒は、井上成美だけだった。
「それは、不正義ではないのか」
「いいえ、違います」男(死神)はそういって必ず答える。しかし、井上がそういってくれれば、非道さが若干下がるのだ。井上2号生の価値はうなぎのぼりである。
後に、栗田は男に、なぜ井上生徒の意見だけは聞くのかと聞いたことが有る。
「栗田、私は、井上君には頭が上がらない。彼の頭脳のお蔭でわたしはここにいることができるからだ」栗田には、何をいっているのかわからなかっただろう。
その意味するところは、彼の頭の中の答案をテスト用紙に書いていたということだ。
彼は、頭がよく成り過ぎた、史実では、次席で兵学校を卒業するはずだった。
しかし、彼は、小さいころから努力の人であり、我が家の家庭教師と勉強したため、実質1位で入学するところであった。そして学内でも実質1位である。
私が邪魔をしなければ、次席で卒業することはできないのだ。
それを危惧した私が徹底的に邪魔をしているのである。
しかし、回答のほぼほとんどを彼に依存している私は彼に頭が上がらないのだ。
こうして、私と栗田は鍛え合った1年間もついに終わろうとしていた。
1号生になれば『神』となる。私の場合、『神の使徒』から『神』に昇格するということだろうか。
しかし、兵学校でも珍しい事件が発生したのである。
卒業間近の1号生徒有栖川宮栽仁王が盲腸を発症し、入室して療養していたのだが、腸閉そくを発症させ、危篤状態になったのである。
医者も手の施しようのない状態であった。
表面的には、まだ生きていることになっているが、すでに死亡していた。
たしかに、死んでいた。皇族であるため、諸々の手続き等のため伏せられているだけなのだ。
病室には、見舞いの家族もすでにおらず、白い布を被せられた遺体が寝かされていた。
前途有望の若者が無為に死んでいくのは耐えられないことではある。
しかし、それも運命というものだ。
だが、死んだ人間が皇族で金持ちであるなら話は変わってくる。
実験の価値があるというものだ。
かつてから実験は行われていた。
一人は老境に入った、維新の剣士。
一人は、白骨になった子供。
今までとは、状況に違いがある。
彼は死んで1時間しか経過していない。
肉体も存在している。
さあ、どうだろう。
どうなるのだろう。
好奇心はいや増すばかりだ。
廊下では物音がする。
それほど余裕はないだろう。
彼は、東京に向かわねばならないのだ。
薬包がどこからともなく出現する。
白い布をとると、若宮は眠っているように見えた。
口は少し開き気味になっているので粉を飲ませる。
コップに入れていた水を口に垂らす。
「グお!」
死んだはずの彼が唸り声を発した。
白目をむいた彼がガバリと起き上がり、「グエグエ」とエづいている。
「ぐおおお~~~」
喉を掻きむしるように苦しんでいる。
ついに!ネクロマンサーへの道を駆け上がるのか!俺!
実験体は、ついに咆哮を発し、口から肉塊を吐き出した。
びちゃりという音ともに、粘液か血が床に飛び散る。
これはヤバい!一体何を吐き出したんだ!
「ぐう~~~~」全身に物凄い力を込めているのか。
背中から黒い靄のようなものが大量に立ち昇っている。
これは、浄化が行なわれているのだ。
一体何を浄化しているのだろう。
白目が一瞬、黒目になり、私と眼があった。
「ぐわ~~~~」絶叫が死体のある部屋から迸る。
これはさすがに人が集まってくるだろう。
これは直ちに逃げる必要があった。
窓から脱出することにする。
そもそも、この窓から入ってきたのだから。
しかし、見たくもないその肉塊が見える。
気持ちが悪いのは、先ほどから変わらないが、今のそれはビクリビクリと脈うっている。
これをこのままにしてはおけなかった。Xファイルに載せなければならないような未知の物体。寄生虫なのか?
非常にまずいものなのだと直感した。
脈打つ何かを素早くつかんで、窓から飛び立った。
死神は診療室のある建物から影のように逃げ散ったのである。
その後、その建物の中では大騒ぎが発生した。
死んだはずの宮様が、青白い顔で生き返ったからである。
見舞いに来て、悲歎に暮れていた父宮と妹宮は大いに喜んだことは当然であったろう。
これで、お家断絶を回避もできたのである。
有栖川宮家は、宮家の中でも相当の歴史のある家柄なのである。
しかし、生き返った宮を診察した医師は、驚愕したが、決して口には出さなかった。
彼には心音がなかった。
生きていることは、瞳孔反射などで確かであり、驚異的なことに会話すら成立したが、心臓の鼓動だけはしなかったのである。
「神よ、許し給え!」医師は強くロザリオを握り締めた。
何を許してほしいのか。
それは、真実を語らないことをである。
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