第44話 物体X
044 物体X
「これはどう見ても、あれだな」
勿論、寄生虫でも未知の物体Xでもない。
私は、ビクビクと鼓動を刻む肉塊を見つめていた。
死体復活実験はうまくいったようだが、これは一体何だろうか?
口から吐き出されたそれは、よくよく見ると、見たことが有るものに似ていた。
それは、実物は見たことが無いにも関わらず、直感的にわかった。
そう、『心臓』である。
ドクンドクンと脈うつ動き、その形状。
どう見ても、人体模型などでみる心臓だった。
『生殺与奪』この言葉、湧き上がってくる。
これは、死者が甦った影響なのかもしれない。
生き返らせた者がもう一度殺す。いや、元に戻すことができるということではなかろうか。
すると、これの本来の持主は、某宮様なのか。では、彼の心臓はどうなっているのだろう。
因みに彼を診察した医師は、宮家が呼んだ高名な外国人の医者だったようだ。
彼は、なぜか故国に急に帰らねばならなくなったと専らの噂である。
元の病人たる宮は、闘病後、その苦痛から来たのか、色素が抜けてしまったかのように、髪の毛や睫毛が白くなってしまった。
だが、心身は元気なようだ。そう、元気なのだ。
心臓がないこと以外は。
医師は、父宮に奇跡が起こったに違いないと宣言したが、その後、このことについてはもはや触れていたくないとばかりに、国に帰ると言い出したのである。
「これは、決して口外してはいけません。あなたの息子には、心臓がないのです」
医師は、父宮にそういって国に逃げるようにさっていった。さすがに、父宮にだけは話たのである。
だが、唯一の男子の若宮を失う訳にはいかない。
父宮はその秘密を胸にしまい。息子が奇妙なことをしないかどうか監視することにしたのだ。
校舎の屋上で二人の生徒がいた。今は自習時間である。自習時間といえども、班全員で自習室で自習をするのである。決して一人でプラプラしていてはならないのだ。
「あれは、君が行なったのか」
「あれは、私が行なったのでしょうか?私は、ある種の薬をもっています」と告白する。
「その薬の結果か」
「そうです、あの薬であなたはまさに生き返ったのです」
「私の心臓をもっているのか」彼は、自分の心臓が失われたことを父宮から教えられた。
「結果的にあそこにおいておくには危険だと直感しました」と端的な理由を述べる男。
「私の命は君次第ということか」
そう、その心臓を止めれば、彼を殺すことができるであろうことは、推論できる事象だ。
「端的に言えば、結果的にはそうなるかと存じます」
「どうしたいのだ」
「お返しできればしたいのですが」真摯にそう考えていた。
彼の心臓は今も、アイテムボックスの中で脈うっている。
「では返してもらおう」
「わかりました」アイテムボックスからそれを取り出す。その様は、何もないところからいきなり心臓をつかみだしたように見えた。
咲夜の観点からでは、それはピクピクと動くもので、しかも落とすと大変だと思うので、割としっかりと握っていたのだ。
一方、有栖川宮の視点からではそうはいかなかった。
高く掲げられた自分の心臓らしきものをしっかりと握られていた。
それは、貴様の命はわが手にあるといわんばかりに見えたのである。
「私の命は君に握られている、私はどうしたらよい。私自身はお国の為に、命を賭ける覚悟はもっているが、できればお家(有栖川宮家)は断絶したくはない」彼が死ねば家は断絶されることは確実である。
玄兎はそれを返そうと思っていたのだ。
簡単に敵を殺すこの男だが、人質を取って迄何かするというような悪質さはあまりないのだ。どちらかというと、正面突破で皆殺しにするような方法を好む。
「私を生きさせてくれるか」宮が頭を垂れた。
「勿論です」殿下には、大いに国の為に働いてほしいと考えていたのだ。
「ありがとう、国と家の為にならないこと以外であればなんでも君の言うことを聞こう」
只、返そうと考えていただけに、男の頭の中には、勿怪の幸いという言葉が浮かんだ。
相手は、天皇の親戚でその威光は辺りを払う相手、これを使わねば何を使う。しかも相手からの申し出である。
「承知しました、この命をどうしましょうか」どのように返還するか方法が自分でもわからないので、このような言い回しになったのだが。
「その命を君に預ける、存分に僕を使うがいい」
決然と有栖川宮は言い放った。
「わかりました、この命しっかりとお預かりしました」心臓は、アイテムボックスに消えた。
「これで僕も虎の配下ということか」宮は苦笑いをする。
「虎とはなんでしょうか」
「君のことだ。兎の名前を持つ羅刹。兎羅。1号生は皆君を恐れているのでそういう渾名がついたのだ」
「なるほど」
斯くして、咲夜と有栖川宮との友誼?(支配関係)は結ばれたのである。
しかし、死んだ直後の人間にあれを使うと心臓が飛び出てくるなんてなかなかに、スプラッタな経験だったな。
屋上に熱い風が吹きぬけていく。
夏が終われば、宮たち1号生は卒業していく。
そして、ついに、『神』の位、1号生に成れるのである。
入道雲が空に立ち昇っていた。
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