第120話 絶海の孤島
120 絶海の孤島
開戦早々からニューギニア島の支配権が日本に奪われることになるなどと誰が考えたであろうか。
だが、現実にポートモレスビーは占領され、多くの兵士が戦死した。
ニューギニア島占領作戦が成功し、『玄武』の部隊は、ミッドウェー島へと向かう。
大艇『玄武』の航続距離は、7500㎞にも及ぶ。エンジンの性能とウィングレットの採用により、昭和の性能をはるかに越えてきたのである。
その『玄武』は、ミッドウェー島を根拠地に、『K作戦』を実行に移す。
K作戦とは、長距離水上爆撃機玄武によるオアフ島、マウイ島への爆撃作戦である。
オアフ島には本来数百機の航空機が存在していたが、先の真珠湾強襲作戦によりほぼその保有するほとんどの航空機を失っていた。
それでも、数機の戦闘機が迎撃に舞い上がる。
しかし、『玄武』は堅固で撃ち落とすことはできないのである。
武装も12.7mm機銃を複数搭載している。
米国の旧式戦闘機が銃撃しても何も感じないかのように飛んでいる。
反撃すれば、迎撃戦闘機がクルクルと落ちていく。
空飛ぶ要塞であった。
賽の河原のように、米兵が修復した箇所に爆弾を投下し木っ端みじんにしていく。
こうして、開戦当初の真珠湾強襲作戦に関連するすべての作戦が無事に終了したのであった。
ミッドウェー島、グアム島、ジョンストン島、ウェーク島と占領された従来の米国の島では、直ちに航空基地化及び要塞化工事が開始されたのである。
米国内では、戦死したキンメル大将の代わりに、ニミッツが太平洋軍の司令官に任命される。
空母サラトガは、サンディエゴにいたが、急遽、修繕を中止し、ハワイ救援に向かうため出港したが、それを待ち構えていた潜水艦隊の飽和攻撃を受け大破し、サンディエゴに引き返すことになる。
ニミッツは何度も司令官就任を固辞した。
しかし、ローズベルト大統領は引き下がらなかった。
それでも固辞したが、夢枕に神々しい何かが現れたのでニミッツは、それを引き受けることになってしまった。信心深い彼だから逆らうことができなかったのである。
ローズベルトからも「全力で君を支援する、君しかやれる奴はおらん」という言質を取ったので引き受けることになってしまったのだ。
だが、空母ゼロ、戦艦もほぼない状態でどのように、反撃できるというのだろうか?
サンフランシスコの太平洋艦隊司令部から、潜水艦でオアフ島に向かうニミッツの眉根には深いしわが刻まれていた。
しかし、我が米国の総力を挙げれば、今すぐには無理だが、必ず反撃を開始できるという闘志を秘めていた。
空母ヨークタウン、ホーネットを大西洋から回航してくる約束も得た。
湾内に沈没している戦艦を何とか修理できないか。
様々なことを考えつつ、潜水艦はオアフ島を目指して進んでいた。
真珠湾は相当酷い有様であったため、潜水艦は東部の港カネオヘへと到着し、接舷した。
ニミッツが到着と同時に、空襲警報が嫌な音で流れ始める。
「閣下早く、防空壕へお願いします」
「なんだこれは、」
「敵の空襲です」
「何を馬鹿なことを、一体どこからやってくるというのだ」
「早く!」
遠くの空に黒い点が見え始める。
対空砲火が少ない。
ニミッツが退避すると、ド~ンと爆発音が響いてくる。
800㎏爆弾が近くでさく裂したのである。
このようにして、敵水上爆撃機は毎日やってくる。
修理した箇所を破壊するために。
そのお陰で、真珠湾の復興は全く進んでいなかった。
「なんだと!」それを聴いたニミッツが怒鳴った。
重機や人員が足りない、そしてすでに食料も不足し始めていた。
日系人の多い土地柄である。不穏さを隠しきれていないそうだ。
「輸送船はどうなっているのだ」
輸送船は、西海岸からやってくる筈なのだ。
そして、その航路にこそ、日本の潜水艦が潜み、飽和攻撃を仕掛けてくる絶好の場所になっていたのである。
「馬鹿な!対潜哨戒はやっているのだろうが」
しかし、有効な手段にはなっていないようだった。
敵潜水艦は非常に巧妙な通信を行っているようで全く姿を見せないのだ。
しかも、カムフラージュが得意で、次々と新兵器を投入しているという。
疑似潜望鏡や気泡を発生させる魚雷などである。
それにつられて爆雷を落としている駆逐艦が次々と酸素魚雷に葬られているという。
まるで姿を見せない幽霊のように行き来しているらしい。
「何故見つからんのだ」
「わかりません」
スクリューの形状が大きく違うため、音の捜索域が違ったのである。大型の複雑な形のスクリューで静穏性に優れている。決して輸出してはならない工作機械で製作されていたのである。
そして、水中速度に対する誤解、日本艦はかなり早い、米国潜水艦の基準で物事を考えているので、適切な対応ができていないのであった。
さらに、レーダーの発達が遅れているために、本物の潜望鏡を発見できていないことなど様々な理由が重なさっていたのである。
「沈没した艦はどうだ」
「駄目です、彼らの爆撃はあらゆるものを攻撃します、沈没艦も海上に出ている部分に爆弾が投下され、完全に破壊されています」
其れよりももっと大きな問題があった。
湾口から出る狭い航路に沈没戦艦が横たわっていた。
これでは、真珠湾に入ることができない。
先ずもってこの沈没戦艦を解体することから始めねばならないのだ。
「陸軍の手助けはないのか」
陸軍も相当な打撃を受けて居た。
2万の将兵が駐屯していたが、すでに半数が戦死、その半数が負傷していた。
医薬品が大きく不足しており、また、本国に送り返す船は雷撃で撃沈される始末であった。
ニミッツは、説明を聞いて吐き気を催した。
明らかに、奴らはこれを狙って実現したのだ。
ハワイはすでに絶海の孤島となっていたのである。
「南方から支援を受けよう」
オーストラリアには、米軍が駐留していたのである。
「閣下は聞いていないかもしれませんが、そのオーストラリアこそ危機感を持っているのです」
「何のことだ」
「はい、ニューギニア島がすでに陥落し、オーストラリアとこのハワイの連絡線は非常に脆いものになっています、それと、そのニューギニアから発進する潜水艦は、オーストラリアへの物資の供給線をも破壊しつつあります。」
オーストラリアは食料や工業製品の多くをアメリカに頼っているのである。
昭和のFS作戦ではないが、潜水艦にこのラインを切断されれば瞬く間に物資不足が生じるのだ。
初手からそれを見越してニューギニア島が占領されており、すでに島の北部は要塞化されている。ちょっとやそっとの戦力で奪還することはできない難攻不落の地と化していた。
そのことを彼等はまだ知らない。
雑な計画に見えて、要所は確実押さえられていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます