第46話 謀略
046 謀略
「しかし、このままでいくと大変なことが起こる卦が出ています」
「貴様、先ほどからきいておれば、神の声だの卦だの、一体どういう了見だ」校長は激怒している。しかし、生徒は平然としていた。
そもそも、非合理的な発言を嫌う精神風土があるのだろう。
しかし、学校では、精神論が支配している。
「貴様、たるんどる」
「言い訳は聞きたくない」
「やる気があれば克服できる」等の発言である。
そう、人間というのは、その時々で自分の都合の良いほうに解釈する動物なのである。
「わかりました、ですが校長、私が休めなかったことにより、国家的な損失が発生した場合には、死んで国に詫びていただきたいのです」と突飛なことを言い出す始末である。
「今度は、儂を脅す気か」
「神の声を聴けということです。しかし、流石に校長にもお立場がある。私は決して遊びに行きたいわけではないのです。どちらかというと行きたくないくらいです。しかし、神の声は私にしか聞こえないのですよ!」
「さあ、責任を取って切腹すると、一筆いただきましょう」
軍人といえど官僚と同じで自分で責任を取りたいものなどは少ないのだ。
「国家的損失とはなんだ」やはり少しトーンが下がっている。
「国家的損失とは、そのままです」
「はっきり言え」
「これを口に出せば、世界線に影響するかもしれません、ましてや、機関が嗅ぎつける可能性も排除できません。決して他言無用に願います」ひそひそと伝える生徒。
「なんだと!」
校長の顔から血の気が引く。
「あくまでも、現在は可能性の問題です。口に出してはいけません」
「切腹しますか?」すでに脅迫モードに入っている。
「私、ハルビンなんか行きたくないんです、どうか切腹してください」
「ちょっと待て、お前、儂を殺そうとしてないか」
「いえ、そんなことはありません、しかし、私の邪魔をするなら死んでくれた方がありがたいくらいに思っても罰は当たらないでしょう」
物凄くわがままなことを言い放つ生徒。
「わかった、だが何もおこらなかったらどうしてくれる」
「そうですね、以前ここで、PMCのデモンストレーションを行ったのですが、その時のバイクを10台ほど寄贈しましょう。彼らも、いまからエンジンに親しんだ方が良いでしょう」
たしかに、短艇競争は、心や体を鍛えるにはいいかもしれないが、実戦ではほぼ役に立たない。自分の艦が撃沈した時に役立つくらいなものである。(沈没船から遠ざかり、救助を待つという意味)
其れよりも、オートバイに親しんだ方が何倍も有効だと思っていたのである。
自動車は、まだ輸入が始まったばかりであり、そう簡単には、手に入れることは難しい。
オートバイは自社で生産しているので簡単だ。
「わかった。必ず寄贈しろよ」
「いや、起こったとしても寄贈します。すぐに手配の手紙を書きますので、校長には、私が病気療養のために、故郷に帰る旨の辞令をお願いします」
こうして、取引を無事成立させ、私は、広島市内にもどり、今度は、博多を目指す。
そこから船で、朝鮮半島に渡るのである。
『八咫烏部隊』はすでに、別で現地入りしている。
釜山から大連に向かい、鉄路で奉天へとたどり着く。
乃木大将から紹介状を持ち、関東都督府(実態は陸軍の組織)を訪れる。
重機関銃の好評のお蔭で、スムースに話が進んでいく。
都督も日露戦争出征者であったので、非常に好意的に話は進んでいく。
「それでは、列車の警備は厳重に行います」
「はい、我々の部隊も、そちらの制服を借りて、各所に立たせます。協力をよろしくお願いします」
「部隊?」
「はい、我々は民間軍事会社『八咫烏部隊』です。日露戦争にも従軍した兵士たちであり、精鋭であると自負しています」
「なるほど、乃木大将からは話は伺っております」
陸軍佐官が、海軍兵学校生に合わせているのは異常なようにも思うが、陸軍にとっての兎印は、非常に重要な意味を持つ、兎印の武器、軍靴などは、陸軍全軍には到底供給されない。
予算が足りないからである。それだけ皆が首を長くして待っているのである。
今回の協力に対する返礼として、自動拳銃100丁を土産として提供している。
こうして、伊藤博文暗殺阻止作戦がスタートした。
哈爾浜駅には、関東都督の兵士が、あちこち見張りをしている。
この駅には、ロシア蔵相の一行も来ており、伊藤と会談を行っているのである。
犯人とされる朝鮮人は、その情報をなぜかウラジオストクで発行されている新聞を見て、張哈爾浜へとやってくるのである。
プラットホームには、都督の兵、ロシア軍の兵など複数いるのだが、犯人は、完全にスルー出来て、伊藤に発砲するのだ。
さらに、犯行の原因は、明らかに間違った情報を自分の意見として述べている。
伊藤が、朝鮮皇帝の妃を暗殺したとか、孝明天皇を殺したなどである。
妃の件はいざ知らず、孝明天皇(幕末の頃の天皇)を伊藤が殺す訳がないのである。
そのように、粗雑な情報を自らの信条とするところに、妙な疑惑が生まれる。
恐らく、態よくヒットマンに仕立て上げられたのであろう。
伊藤らしき白髭の老人が、列車から降りてくる。彼は、ロシア蔵相から居並ぶロシア儀仗兵に閲兵してくれと言われており、その前を進んでいく。
そして、その兵が途切れた場所に、件の朝鮮人が拳銃を手に飛び出してくる。
「ウラ―!」それはロシア語の叫びである。
銃声が交錯する。
白髭の老人が倒れる。
「アプダ!」とうめいている。
現場は騒然とし混沌としていた。
怒号と銃声、悲鳴が入り乱れている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます