第62話 財産

062 財産


ウラジオストク市庁舎が現在のロシア臨時政府の庁舎となっている。

そこに、王家も護衛に守られて生活している。


厳しい身分チェックを受けて奥に向かう。

それにしても、名前は出すなといっておいたのに、もう明石大将にはばれている。

まあ、別にかまわないが。


「まあ、よく来てくれました」私を大歓迎で迎える皇后。そして娘達。

だが、皇帝は顔にこそ出さないが、機嫌が悪い。

ラスプーチン氏もこのような状況だったのだろうか。


彼と私の決定的な違いとは、私は、皇帝の命そのものを握っているということである。

機嫌がよかろうが、悪かろうが、そんなことを気にする必要すらない。

生殺与奪とはそういうことだ。こちらの機嫌を損ねれば、握り潰してやるだけなのだ。


「ところで、お呼びとか、できれば名前は伏せて欲しかったのですが」

「まあ、それはすいません。ですが今日はどうしてもお願いしたいことがございましたの」

皇后の眼付きは、すでに信頼しまくっているというような瞳である。

人妻にそんな顔をされても困りますな。


しかし、その隣の娘も潤んでいる。

どうしたものですかな。嫁入り前の娘がそのような表情をしてはいけないような気がしますな。


「こちらとしては、まだのお支払いを受けて居ませんので、それは確認したかったわけですが」


世界の富の10分の1を所有した皇帝家、300年にわたり蓄財してきたわけだが、多くの部分は革命により散逸してしまっているようだ。

生前、金塊や宝石は50トンももっていたという話もあるのだ。まあ、いまも生きているわけだが。


しかし、それ以外にも当然まだまだあるはずだ。

半分の支払いをのだ。


イングランド銀行には、100億ポンド(=1000億ルーブル=2000)が預金されているというが存在するのだ。

今迄、金の亡者のように言われながら、金儲けしてきたが、1000ともなれば桁が違う。


「さすがに急にはむずかしてくな」若くなったニコライ2世が言う。

命どころか、若さまで手に入れたのだから、1000億円を支払おうと全然元が取れるに違いない。

その代わり、娘達が老いて死んでもあんたはだろうがな。


「私の宝石を差し上げます」なんと潤んだ瞳の娘が言い出した。

「隠し持たれていたのですか」

「ええ」少し恥ずかし気にいう。

それは下着などに縫い付けられて隠されていたものであり、ある意味、で有難い宝石でもある。


大きなダイヤモンドがゴロゴロと出てくる。

流石、世界一ともいわれた資産家一家。


「それでお願いなのですが、」

「はあ」まんまと宝石で懐柔されたのは悔しくはあるが、まあ、そこは持ちつ持たれつである。私も、この急造の国を利用せねばならないのだ。


「息子を助けてください、夫を生き返らせるだけの力があれば、息子の病気も治るでしょう?」

その通り、彼の場合はまだ若いので、赤ちゃんになるだろうが治るに違いない。

(嘘です、赤ちゃんには戻りません)


しかし、あの薬は非常に危険な薬でまた数も残りすくない、そのような事情では、使うことはできないのである。

残り3。最後の一つは、私の為においておかねばならない。

そうすれば、残り2。無駄遣いはできない数だ。


「残念ですが、あの薬は使えません、あれは人を生き返らす薬なのです。王子はまだ生きておられるではありませんか」

これは、殺してみるかということであり、ついでに言うと、価格は、皇帝家の残りの財産をすべてもらい受けるという意思の表れである。


彼等も国土奪還戦争、彼らの言い方をすれば、ソビエト相手の大祖国戦争を行わねばならない。金はいくらあっても欲しいに違いない。それが本心であろう。


「ですが、息子は、跡継ぎなのです」

その通り、しかし、健康度合いから行くとニコライ2世の方が長生きすることは決定的になったのだ。


なるほど、少し微妙だ。ニコライ2世以外の方が操りやすいかもしれない。

ここは恩の売り時であることもまた事実であった。


「わかりました、私には、多少の医療の心得がございます。私が治療を施しましょう。まあ、決定的な寛解とはいかないでしょうが、今よりはましでしょうし。」まさしく、ラスプーチンに成り代わって私がというところだ。


「ありがとうございます」皇后や娘達が迫ってくる。


流石に、これでは国もあれるかもしれない。

一体どこの馬の骨かもわからい人間に物凄い好意を振りまけば、自国の貴族どもが良い顔をするわけもない。


勿論、私の場合、仙台藩士の家系で源氏の流れを汲む武家の次期棟梁なので、馬の骨などいわれる筋合いはないのだが。(設定上ではそうなっているらしい、少なくとも設定を受け入れている)


ニコライの息子アレクセイは血友病である。

こうして、私は治療という名の何か行うことになる。

そもそも、自分でも多少の怪我は自分で治すのだ。問題ないはずだった。


「かけまくもかしこみ〇〇の大神、・・・・・・・・・・」祝詞を捧げる。

「アレクセイ皇太子を癒し給え!」いきなり、光を出しても今一つインパクトがないため、それらしい、文句を唱えているだけなのである。


そして、光を放射させる。玄兎皇拳の光は金色で熱があるが、こちらは銀色で熱はない。

何故このような小技ができるのかは、わからない。(スキルに違いありません)


こうして、アレクセイは一時的にとはあれ小康状態を得られることになる。


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