第129話 自沈

129 自沈


ドウーリトルの奇襲爆撃機部隊が全滅したころ。

それを発進させた第13任務部隊は東に向かって遁走していた。


夜明け前に直掩戦闘機を挙げる。

ヨークタウンには、90機に上る戦闘機が搭載されていた。

サラトガは通常の部隊配置を行っていた。


しかし、すでに雷撃により状況は悪化の一途をたどっていた。


不吉なことに、快晴で雲一つない状況だった。

空から見れば自分たちの存在が嫌でもはっきりとわかってしまう。

フレッチャーは今日ほど快晴を呪ったことはない。


だが、その祈りは無駄におわっている。

すでに、航空隊はこちらに刻一刻と近づいている。


ワスプ、ホーネットには魚雷がさく裂し、スクリューを何本か吹き飛ばされていた。

ヨークタウン艦上では、必死に防空体制を敷いている。

被雷した空母では速度が出ない。

舵でまっすぐ進むようにしているがどうしてもそれてしまうので速度がでない状況が続いている。

そして、修理をしている時間はまったくなかったのだ。


「敵機を捕らえました」レーダーがついに敵機の編隊を捕らえる。

南西から確実に迫っていた。

「全機を上げろ、全力で邀撃しろ、ホーネットの戦闘機、爆撃機も上げさせろ!」

「は!」


ミッドウェー沖の航空戦闘が始まろうとしていた。

連合艦隊第7艦隊のJG71、72、73、75は精鋭である。

一方の第13任務部隊のパイロットはそうではなかった。


戦闘機の数では、第7艦隊の方が有利である。

しかし、数自体はそれほどの差はなかった。

「戦闘71リーダーから全機へ、艦隊攻撃機は後方で待機、戦闘機部隊のみついてこい」

山口の命令が、全機に行き届く。

は非常に優秀だった。さすがはテスラ電気通信社製である。世界に先駆けて開発を行っている会社である。残念なことに、その優秀な通信機は、買うことはできないのだが。


「ロケット弾を一斉発射後、各隊は戦闘に入る」

「戦闘72了解」

「戦闘73了解」

「戦闘75了解」

紫電改の翼下には6発の5インチロケット弾がつられている。


「フォックスロット!」

「「「「フォックスロット!」」」」

1200のロケットが圧巻の乱舞を見せる。

空に無数の筋が入り乱れる。


圧倒的な無差別攻撃が第13任務部隊の航空機部隊へと襲い掛かる。

このような一斉射撃を受けたことのないパイロットたちでは、どのような対処をとるかを考える余裕がなかった。

編隊飛行を維持するためそのままでいる機がほとんどだった。

凄まじい爆炎の火球が連続して発生する。爆発が衝撃と鉄片を飛び散らせる。


半数以上の機体が爆発に飲み込まれ、そして生き残ったその半分も被害を受けていた。

編隊はズタズタで指揮命令系統も壊滅状況だった。


その光景は、50Km離れた海上からも確認できた。

凄まじい爆発の帯が空に広がり無数の航空機と爆弾の破片をまき散らして、黒い煙がたなびいていく。


残った戦闘機が適うような相手でないことは明らかだった。

第7艦隊の戦闘機には、明確な意思が存在していた。

『生きて返すな、彼らが生き残れば、我々の仲間を殺す。殲滅せよ。』

油断なく殲滅戦が開始される。


フレンドリーファイアの方が最も危険な敵だった。


戦闘機が全て追い払われた(逃げ延びた戦闘機はいなかったが)。

後には、艦攻『天山』の攻撃が始まる。

海面すれすれをすべるように滑空する天山、その動きも尋常でない腕前を感じさせる軌道である。

ヨークタウンの横っ腹に2発の魚雷が命中する。


空には、無数の攻撃機と爆撃機が不規則に動きながらこちらを見下ろしていた。

対空弾幕を打ち上げる巡洋艦と駆逐艦には、艦爆『彗星』が500Kg爆弾を叩きこんでいく。


それはまるで弱って死んでいく動物を待っているハゲタカの集団のように見えた。


「速度低下、修復には2時間以上かかる模様」

「もっと弾幕を張れ!」

しかし弾幕を張ると、そこに戦闘機が20mm機関砲を撃ちこみにやってくるのだった。


護衛の艦も次々と直撃弾を受けて居た。

第13任務部隊の速度は大きく低下していた。


「しまった!」フレッチャー中将は叫んだ。

そうなのだ、彼は気づいてしまった。


彼等は、こちらの死ぬのを待っているのではない。

味方を待っているのだ。


「空母を自沈させる!」

既に三隻の空母はどれもが、速度を低下させていた。

敵は、時間を稼いでいるだけなのだ。


「駆逐艦に雷撃させろ!」

フレッチャー中将は非常な命令を下す。

「しかし、空母にはまだ乗員が!」

「時間がない、敵に空母を渡すわけにはいかなない」


旗下の駆逐艦が、ワスプを雷撃するために動き始める。

しかし、その意思のある動きにすぐに反応があった。

彗星が一斉に、急降下を開始した。

直撃弾が艦橋を爆発させる。

そして、速度が落ちた瞬間に天山が雷撃体制に入る。


魚雷が直撃すると、駆逐艦は、大爆発を起こして、波間に消えていく。

一瞬の攻撃だった。


・・・・・・・

「米国海軍の諸君、私は、帝国第7艦隊司令の咲夜中将である。無駄なことはすぐにやめろ」

スピーカーから流暢な英語が聞こえてきた。

「もはや、君らは逃げられん。自爆、自沈は見事な心意気であるが、どうせなら、我々が到着してからにしてくれないかね」

「貴様!」

「君らの英雄的行為を、映像に納めて末代まで称えようではないか、よい映像になるだろう。フレッチャー提督は、米国の英雄となるに違いない」

真面目な口調で言っているのだが、明らかにあざけっているのだった。


「米国兵達よ、君たちの英雄的自決を我等がのこしてあげよう、後30分ほどお待ち願いたい」

すでに、30分の距離に来ているのだ。


「司令!」

「艦長!」

「弾薬庫に火をつけろ」

「司令!」

「艦長、私はニミッツ大将に誓約しているのだ、この艦をわたすような真似をするくらいなら自沈すると」

「しかし、それでは、搭乗員はどうすれば」

「残念だが、諦めてくれ」


フレッチャー中将の眼は座っていた。

本気なのだ。

「早くしろ!艦長~!」

フレッチャー中将の絶叫が艦橋に木霊する。


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