第196話 夜襲

196 夜襲


ドイツ第三帝国領イギリス・ロンドン郊外の航空基地


「やはり、敵の機械科部隊が周囲をかこんでいます」

「うむ、やはりそうか、今夜頃が山になりそうだな」

「はい、殺気が満ちていますからね」

「皆、聞いての通りだ、今日の深夜が山になりそうだ。作戦の通り皆で本土に帰ろう」

「ハ!」全員が敬礼する。


ここにいるのは、皇国の陸戦の兵士ばかりである。

パイロットたちは、この日の為に徐々に帰国していた。


残ったパイロットが最小限で爆撃を展開しているように見せかけていた。


その夕刻に件の新型ジェットB2『銀河』が基地に到着してきた。

それは整備のためにハンガーに入れられる。

基地内には、20機以上のB1『飛龍』が個別駐機している。

他にもC130も数機駐機している。


ナチス親衛隊SS装甲師団の一部が近くの森に潜伏している。

昼であればいざ知らず、夜になると、熱で発見されてしまう。

基地内には、夜間偵察機も配置されているのだ。


そしてついに、タイガー戦車のエンジンに火がともる。

ブオンブオン、轟音が森に轟く。

ついに、ドイツ軍の『爆撃機奪取作戦』が開始される。


飛行機の場所などは、ウーデッドから報告を受けて居る。

SS装甲師団の隊長、フレーゲルはできるだけ駐機を無傷で鹵獲することを命じられている。


ウーデッドからは、今日の祝い(新型機到着祝い)にと大量のドイツワインが基地に運び入れられている。

奴等は、それを飲んで、既に寝ているだろう。

フレーゲルはSS装甲師団で戦ってきたが、既に敵は、パルチザン程度しかなく、不満だった。これでは、出世できないではないか。もっと敵はいないのかと。


数十両の戦車が突進していく。

しかし地雷原が当然あった。

爆発が起こり、戦車が吹き飛んだ。

「恐れず進め‼我が精鋭たちよ!」


警報が基地内に鳴り響き、直ちに監視塔から、機関銃がうなりを上げる。

バタバタと兵士が倒れていく。

まるで見えているかのように正確な射撃である。


戦車が発砲して、金網を突き破り、基地の建物が爆発する。

探照灯が周囲を照らしだし、照明弾が打ち上げられる。


昼のような明るさが周囲を照らす。

猛烈な機銃掃射が戦車をガンガン叩く。

周囲の兵士はその跳弾により、次々と倒されていく。


戦車がまたしても発砲し、トーチカに直撃弾が生じるが、そこからRPG7が発射される。

ノイマン効果を利用した対戦車用ヒート弾である。

ドイツ軍のパンツァーファーストよりもはるかに高性能のものである。

次々と戦車が破壊されていく。

兵士たちも次々と倒れていく。


圧倒的な武力で基地を壊滅させるはずだったのだが、ようやく監視塔の一つが爆発して倒れていく。しかし、各所にトーチカ、塹壕、有刺鉄線と、基地の防御は鉄壁のようにみえた。

しかも、その狙撃精度は圧倒的で、次々と死体を量産していく。

暗視スコープを装着しているので当然だが、狙撃は非常に精確なのだ。


ついに戦車が基地内に侵入し、機関銃による射撃を開始して建物に砲撃を開始、しかしその直後にヒート弾を受け爆発。


フレーゲルは恐怖を感じて援軍を要請する。

そもそも、フレーゲルの部隊は、自分達だけで十分と、大見えを切ってやってきていたのだ。


敵軍を侮った態度であったが、それが大間違いであった。

敵は、陣地を構築しており、兵器もドイツ軍よりも優れていた。

このころになると、兵器は、『気づき』さえあれば開発できるものだったが、そういう点で法王はすべてを知っている人間であり、当時の技術で必要な兵器を次々と開発していた。


公にはされていないが、コンピュータも開発されている。

コンピュータは、砲の弾道の計算をするために開発された経緯があった、初めは、巨大な物であった。部屋中を埋め尽くすほどの巨体であった。

しかし、真空管をトランジスタに置き換えられたそれは非常に小さくなっていた。


今、コンピュータを売りだせば、世界的企業になるのは、TI(テスラ・インスツルメント社)である。戦争を続けながら、次世代の製品も開発し、経済戦争でも圧勝しようと狙っているのである。


基地の周囲には、フレーゲル少佐以外にも別の部隊が潜伏していた。

ナチスではなく、ドイツ陸軍の部隊である。

こちらは、フレーゲルの部隊などよりもはるかに大きかった。


「フレーゲル少佐、依頼により、救援に参った」ワーゲンを降りてやってきたのは、何と空軍の将官である。エルンスト・ウーデッド上級大将。


「空軍が何用か?」

「今、救援を依頼しただろう、少佐!」

「親衛隊に救援を依頼しただけである」

「黙れ、この無能が、総統が私にこう言った。敵の航空機を無傷で手にいれよと。貴様のような輩が大暴れで突っこんで死ぬのは構わん、だが、爆撃機を鹵獲できずに破壊されればこの作戦の意味がなくなるわ!」ウーデッドが若造を怒鳴りつける。


「しかし!」

「しかしもかかしもあるか!」ウーデッドはフレーゲルを殴り飛ばす。


「これからは私が指揮を執る、親衛隊はおとなしく私に従え!」

無線でウーデッドは宣言した。


四方に潜んでいた部隊が圧倒的な威容を示し、基地に近づいていく。

「基地内兵士に次ぐ、直ちに降伏せよ」

無線は基地内とつながっている。


「基地内の兵士に次ぐ直ちに降伏せよ、私はドイツ空軍上級大将エルンスト・ウーデッドである。降伏後の身柄の安全は私が保証する」


「ウーデッド将軍、我々が貴国の為に行ってきた作戦行動を台無しするのか、しかも闇討ちなどと、人間の風上におけん所業だ。事ここに至っては全員、討ち死にして猊下に殉ずるだけである。その前にすべての爆撃機を破壊する」


「早まるな、君らは降伏すれば、すぐにでも祖国に帰ることが出来るのだ」

「猊下の新型爆撃機をむざむざ渡すことなどできる訳があるまい。今まで貴様ら国の為に戦ってきたものを、お前は我が皇国に対する重大犯罪者となるだろう、きっと裁きが訪れるだろう」皇国のスパイは第三帝国に存在している。暗殺に対する示唆であった。


「勝敗は兵家の常。時として裏切りも謀りも必要なのだ。許せ」

この基地の兵員とは仕事上、ウーデッドは知り合いなのである。

「問答は無用、最後の一兵まで、戦い切る所存である」


「君たちの忠誠心は確かだが、果たして法王はそのような事を望むかな。私は彼を知っているがそのように、人々に死を望むような人物ではない」

「黙れ、たった一機でも猊下の爆撃機を渡すなどもっての他である」


「撤退してくれるなら、こちらは追わないと約束しよう」

「勝手な、交渉は許さん!」その時フレーゲルがウーデッドに掴みかかった。



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