第41話 展示

041 展示


島本校長は困惑していた。

何故、陸軍の乃木大将が、海軍兵学校の校長室で興奮しているのか。

早く、帰ってくれんかなと。


既に、陸軍の装備自慢が始まっていた。

そもそも、陸海軍は自分達の予算を限られた軍事費の中で取り合う相手(敵)である。

圧倒的に、人数の多い陸軍が有利であるが、海軍は艦艇に金がかかるのだ。


だが、いずれ航空機でも金を取り合う事態に陥るとはまだ誰も知らなかった。


「海軍は、あの軍靴をまだ取り入れていないのですか」

そもそも、あの軍靴とは、現代的な軍隊用のブーツのことである。

海軍艦艇のなかでそれほど有効かといわれれば甚だ疑問である。


「はい、残念ながら海軍では、採用されていませんね」

「そうなのか、では機銃はどうだろう」

「それもまだですね」

艦船とは、大砲を撃ち合う道具なのである。機銃は添え物程度の認識であった。


陸上戦闘を行う戦闘員を海軍陸戦隊とよぶのだが、このころはまだ、常設ではなかった。

そもそも、陸のことは、陸軍がするのだ。

では、太平洋の島々はどうなるのだろうか。

そう、誰も深く考えてはいないのだった。

日本では、そのような傾向が強い。

自分の範疇以外については、無視するのだ。勝手に、相手の範疇であると信じこもうとする。


思わぬ方向に火が回ってきた。

「島本校長、是非とも、兎印の製品を買うべきです。機関銃、軍靴、拳銃、ヘルメット素晴らしい品物です。まあ、我が陸軍も全員にいきわたらせるような計画はありませんが」


陸軍でも、従来品を愛好する性向が強い。

陸軍では、竹やりが大好きな人もいるくらいなのだ。

竹やり一万本の兵隊があれば、機関銃で一万の死体を量産できるに違いない。


「うむ、そうですな。海軍陸戦隊が結成されれば、有効かもしれません」

「校長、かもしれないではなく、有効なのです。203高地は敵の死体で埋まりました」

「咲夜、兵器の試射などは可能か?」苦し紛れに島本が聞く。


「校長、校長がいうのであれば、私が否やを言うはずもありません。さっそく、我が部隊を呼び寄せましょう」

「我が部隊?」

「おお、八咫烏部隊だな」

「その通りです」


こうして、海軍兵学校において、新型兵器の実射実験が行われることになった。


何とか、このようにして、乃木大将を撃退できた島本だった。


・・・・・・・・・・・・


その後、件の部隊は、3週間後に学校に到着した。

全員が、迷彩服を着こみ、ブーツにヘルメット、肩に突撃小銃という恰好である。

「第1小隊ただいま到着しました」一人だけ軍帽の隊員が、門前の咲夜に敬礼する。

「遠いところ御苦労だった。訓練は明日、展示してもらうので、今日はゆっくりと休んでくれ」

「は!」


兵学校の学生相手に、敬礼する若い隊員たち。

その姿は実に奇妙に見えたが、彼らが本物の兵士であることは一目でわかった。

猛烈な訓練を越えてきた自信が彼らには見て取れた。


八咫烏部隊と名乗っているが、日月神教青年奉仕団そのものである。

彼らは、第2師団所属特殊戦術大隊の教導隊でもある。ただし、民間軍事会社の社員ではあるのだが。


そして、その横には、乃木中尉が立っていた。彼は帝国陸軍の軍服を纏っていた。

「咲夜隊長、私も参りました、よろしくお願いします」

「乃木中尉も御苦労さまです」と海軍式の敬礼で返す。


翌日、練兵場で訓練が始まる。

爆音を響かせたバイクが、練兵場を走り回り始める。

ついにバイクが戦闘で使用されるようになったのであろう。

バイクで侵攻した兵士が、アクロバットな運転で、練兵場に轍を刻む。

そして、バイクから離れると、肩の小銃で的に向けて、発砲する。

彼らの訓練は、常に実包を使う。

空砲や撃ったなどという訓練は存在しない。


兵学校の生徒はだと考えていた。彼らは激しい衝撃を受けたことだろう。


次は、重機関銃だった。

分解した機関銃を数人がかりで、くみ上げて陣地を築く。

ダダダダ、凄まじい轟音を立てて、的を撃ちまくる。


恐るべき威力の実弾が標的を完全に粉砕する。


今度は、塹壕掘りを行う。

流れる汗をぬぐいもせず、円匙で掘る。

蛸壺を掘り終われば、手りゅう弾を投げる。

手りゅう弾が爆発する。凄まじい爆発と閃光と轟音。


何だこれは、見ていたすべての者がそう考えたに違いない。

そのような戦場は、陸戦だ。

しかも、陸戦でもこのような戦いを想定している人間などいないだろう。


「さすがに海軍陸戦隊でも、これくらいの戦闘を想定されているのですね」

乃木中尉が声をかけてくる。

我々は、部隊から離れた場所で見ていた。

勝手に、部隊がやっているだけで、そんな指示をしたことも無い。


「素晴らしいですね、しかし、あの自転車のようなものは何ですか」

「あれは、わが社で開発していたオートバイですね。まだサスペンションが少ないようですが、形になったのでしょう。あれで、偵察兵は前線に進出して敵情を探ることが可能になるのです」


「何と、それでは陸軍でも必要ではないですか」

「その通りです。今後開発予定の通信機で、遠くから敵の情報をえることが可能になるのです」

「通信機?」

「まだ、極秘です」

それは、テスラ博士が開発しているだろう。

無線通信は必ず必要になるのだ。


彼は今、お雇い外国人として東北帝大に雇われているだろう。

英語や科学を教えていることだろう。


兄が生まれたことにより、彼は非常に落ち着いた人間になっていた。

兄を育てるために、大学で働きたいと自ら志願したのだ。


素晴らしい変化こうふくが彼に訪れたようだった。




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