第17話 神罰
017 神罰
「では試してやろう、お前たちの山は、私の山の隣にある。その山の100本を貸してやろう。その100本をキチンと世話できるなら、それをお前たちの物にすればよい。その木からとれる種をもっていけばよいではないか」
それは願ってもないことだった。
新品種の護謨の木からとれる種であれば、どこでも栽培可能のはずである。
そうすれば、300本の苗の仇を取れる。
幹部はそう考えた。
「ただし、貸すだけだ、枯れたらお前達の隣の山を譲ってもらう」
「なんだと!」
「ただで人の物を借りようなどと、盗人猛々しい。心が汚いとやることは盗人以下の人間になってしまうのだな」
何かにつけて、心が汚い、顔が汚いとあてこすられた幹部怒り心頭である。
「山の権利書をもってこい」
「駄目ですよ、旦那、社長はそんなこと命令してなかった」
ヤクザの親分が幹部を
こうして交換条件の契約が交わされる。
10年間の交換条件が付される。通常、これくらいは普通に生きている木である。
しかし、その間に枯れた場合は、横にある山全体(苗を植えた部分は一部)を権利譲渡するとなった。
「お宅は、信用できないから、署名と血判を捺してくれ」
「約束を破れば〇〇女神から神罰を受けても後悔しない、と書かれているが大丈夫か?」子供は、全く平然とそんな戯言をほざく。
「そんなものが怖くて商売ができるか」
「恐れを知らぬ愚か者よ」
体こそ、子供だが、しゃべる内容は大人も真っ青な皮肉の塊であった。
「契約成立だ、キチンと世話をしてやってくれよ」
「お前等こそ、妙な真似はするなよ」
そのお目は、お前を必ず殺してやるといっているかのような呪詛により濁っていた。
だが、五日後にそれは突然起こった。
100本の木が枯れてしまったのである。
一夜にして。
綺麗に、計ったように同時に、彼らの木だけが。
「何をやりやがった!あのクソガキめ」
しかし、何もしていないことは明らかだった。
彼らの見張りもしっかりやらせており、山も監視させている。
そして、原因不明で、一夜にして枯らすには、どのような手段を用いるというのだろう。
ある訳がない。
ヤクザの子分がきちんと監視していたのだ。
何らかの工作が行われた場合は、捕まえて、無理やりにでも全ての護謨の木を奪取する予定だったのだ。『明示』の時代には、このような超空中戦も行われていたのである。
だが、妄想の中で、クソガキを呪詛していた商会幹部は、的を射ていたといえる。
その晩、確かにクソガキは、加護よ、切れよと命じていたのである。
護謨の木は、彼の加護なくして東北で暮らすこと適わなかった。
またしてもトラックにヤクザの兵達たちが、咲夜家に殺到する。
件の幹部が助手席に座っている。
「おい、貴様ら、出てこい!」
ヤクザが家の前で喚いている。
「どうかされたのかね」子供が堂々と出てきた。
「木が枯れてしまったぞ」
「ほう、それでは、その代わりに山を貰うしかいない」
「貴様らが何かしたに決まってる!」
「心が汚いと枯れるとしか言えんな」ここに至っても、子供はそう言い切るのだった。
「連れていけ、山で話をしようじゃねえか、只ではすまんぞ」
こうして、彼らは、山へと向かう。
全員が歩きで山に向かう。
そもそも、護謨の山は、人里から少し離れているのである。
無手の私とそれを背負う父、そして山口がヤクザに前後挟まれて山道を進む。
たしかに、枯れていた。
「約束通り、木の代金の山をもらうぞ」
「お前馬鹿か、ここまで来てそんなこといってる場合じゃねえだろ」
30人ものヤクザが周囲を取り囲んでいる。
「約束は守らねば神罰が降ることになる」
「自分の周りを見てからいいな」全員がドスやスコップで武装している。
彼らはヤル気だ。
「神罰がこわくないのか」
「私は怖いです」父がひっそりという。自分の身の上が案じられるのだろう。
武装したヤクザの殺気はただでは返さないことを物語っている。
生きている護謨の木を渡さなければここで埋められるかもしれない。
そのような雰囲気が醸し出されている。
「神罰だあ~、寝言は墓穴に入ってからいいな、護謨の木を譲らん限りは、生きて返さねえぞ」ついに商社の幹部は本性を現した。
「お前は、機関のエージェントだな!」
「何訳わかんねえこと言ってやがる」幹部までドスを抜いた。
「やはり、エージェントか」背負子の上から、捻りを加えて宙に舞う。
白刃が舞う。
「秘剣『弧月』」
幹部の首が遠心力を加えた剣により一閃されれば、頭がゴロリと落ちる。
一方、山口の手には、いつの間にか渡された、熊切安綱が抜かれていた。
左手の一閃突き。それはヤクザの首を貫いている。
それを抜いて、右左へと斬撃を放つ。さすがに、維新を生き残った撃剣。
ドスでは受けることすらできない。
「秘剣『朧月』」
スルリと地をすべるような動きで、動いた少年の剣は、次々と相手のみぞおちを刺し貫いていく。
「『満月』」剣を構えて一回転する。
数人の喉元が切り裂かれ、血が噴き出す。
一瞬の出来事で何が起こったかわからなかった。
生き残ったヤクザは、目の前で起きた事実を理解することができなかったに違いない。
光りの煌めきが確実にヤクザの命を散らしていく。
飛び散る血潮が、辺りを赤く染めていく。
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