第194話 第三帝国のモルトケ
194 第三帝国のモルトケ
人数が絞られた総統執務室内
「で、ウーデッド君」総統が促す。
「私が聞いているところをお話したいと思います」
「うむ」
「連邦のところというか神聖皇国には、米国からの和平会議の要請が入っているのとの事でありました。それに基づいて、連邦側が、太平洋の現状を認める事、及びパナマ運河利権を皇国の物にすることを同意することによって終戦をすることも可能と条件を出してるようです」
「なんだと!」
太平洋の現状を認めることはつらいことだろうが、このままでは、独立戦争以前のアメリカに戻ってしまう。西部が侵略されている現状ではどうしようもない。
打開のための艦隊決戦も完敗したという情報は第三帝国にも入ってきていた。
「しかし西海岸はどうするのだ」
「私の知るところでは、インディアン共の国だけは、認めさせるつもりのようです」
「何!」不服そうな総統。
「何か問題が?」
「決まっているだろう、インディアンなど劣等人種ではないか」そう彼らの中ではそう決められているからである。かといって、別にドイツが難癖付けるいわれはないのだが。
「他の部分はどうなるのだ」
「はい、何もしないとのことです」
「どういうことだ」
「はい、何もしないそうです」
「つまり?」
「失礼しました。簡単に言うと、西海岸の支援を打ち切るということです、これにより残った連中は、米軍が掃討すればよいとのことです。また黒人に対する支援も中止するとのことです。こうすれば、米軍がそれを掃討します。しかし、その戦いで米国の戦力を消耗させる腹積もりのようです」
米軍は、侵入してきた敵の掃討にかなり力が必要になる。
西海岸に上陸した開拓兵はすでに100万人を超えているともいわれている。
パナマを実効支配するまでの時間稼ぎも入っているに違いない。
米国も言われるままにやられている訳にもいかないが、今はとにかくこの戦争を止める必要があった。それが核兵器の存在である。米国では今だに完成しておらず、さらに、豪州に到達できる輸送手段もない。
米国とすれば、今度はどこに落とされるかわかったものではない。
ニューヨークの被害は甚大だった。
マンハッタンは今や死の島と化していた。
「それで、それが言いたいことなのかね」
「いえ、その事ではありません。その流れで、英国内の爆撃機部隊は、ロシア国内の基地に戻されるようです」
「駄目ではないか!」
「はい、しかし、それは停戦条約が締結されてからということになります」
「う~ん、ヒムラーやはり無理にでも奪うしかなさそうだ」
「はい総統閣下、親衛隊がやって見せます」
「総統、奴らは相当にヤバい連中です」ウーデッドは本当のことをいう。
「貴様はドイツ軍人の誇りを忘れたのか!」
そもそも誇りある軍人は、人のものを強奪したりしない。
それに、ヒムラー貴様はナチス親衛隊でドイツ軍人ですらないだろう。
「閣下、私の話を最後まで聞いていただきたいのです」
「うむ、話せ」
「停戦条約終結後、彼らは爆撃機部隊を後退させますが、現状、戦闘は続きます。
パナマ運河を手放せば、取り返すことは非常に難しいと思われます。そこで条約締結はもめるでしょう。そのことは神聖皇国もわかっているため、圧力をかけ続ける必要があるのです」
「なるほど」
「ここからが、本題でございます」
ウーデッドは声を押さえて話始めるのであった。
「ルフトバッフェの重鎮でもある私は、彼等から信頼されています。ですので、彼らの新兵器についても、情報が流れてきます。どうやら、彼らはB1爆撃機(『飛龍』)の後続機B2爆撃機(後に『銀河』と命名される)を開発した模様です。彼らの新型兵器はどうやらプロペラ機でなく、ジェット爆撃機のようです」
勿論このころにはドイツ軍もMe262などが開発されていた。
しかし、ドレスデン爆撃などの歴史的イベントは米国の不調により発生していない。
故に、その効用もあまりはっきりとわかっていなかった。
ジェット機の弱点はその後続距離の短さである
その弱点はドイツでも解っていた。
「航続距離は1万キロのジェット爆撃機のようです」
「そんな馬鹿な!」
「ジェットエンジンになんらかの新たな革新が生まれた模様です」
所謂ターボファンエンジンがついに開発されたのである。
「何故、東洋の猿が先に開発できるのだ、お、そうかテスラ博士の発明だな!」
「それにしても、我が国の科学者共めまたして東洋の猿に後れを取るとは許し難い怠慢である」
「まことにもって総統のおっしゃる通りです。話を戻しますが、彼らはその新型機の試験を米国相手にやるつもりのようです。故に、その新型機が英国基地に到着してから実行すれば新型機も同時に手にいれることが可能かと思われます」
「何と!流石がモルトケの再来だ!ウーデッド君がドイツに居てくれて本当に良かった、ヒムラーそうだな」
「その通りであります、総統閣下」まさに掌返しの猿芝居である。
「そうなれば、タイミングと手引きをウーデッド君にやってもらうしかないな」
「承知しております。私が、総統の為に人肌脱ぎたいと考えておりました」
「何と、ヒムラー今の言葉を聞いたか、自分の不明を恥じるがよいぞ」
「申し訳ございませんでした」
「ウーデッド君に、謝り給え」
どうやら、ヒムラーはヒトラーにウーデッドの讒言をしていたようだ。
「ウーデッド上級大将、すまない、君のことを誤解していたようだ」
「いえいえ、親衛隊の責務であれば仕方ないと思います」
ウーデッドはそう答えた。
「私も総統の為に、この試みを見事に達成させるつもりであります」
「うむ、ウーデッド君は、まさに第三帝国のモルトケである」
「ハイル・ヒトラー!」ウーデッドはそういって、特有の敬礼を行うのであった。
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