第54話 別の戦い
054 別の戦い
結果的に大勝利に終わる経済戦争は、女神の使徒が直接手を加えたわけではなく、信徒たちが行なった結果である。
使徒自身は、別の戦いを強いられていた。
戦争の当初は、連合国側のANZACが渡欧するために、ドイツ軍艦から守るという任務で、オーストラリアに派遣される軍艦矢矧に乗艦していた。
だが、日本陸軍の特殊部隊のニューギニア島占領が影響したのか、それとも人種差別主義の所為なのか、護衛される方のオーストラリアからの要塞砲の歓迎を受けることになる。
巡洋艦矢矧の煙突を砲弾が掠める事件が発生、一触即発の状態になる。
全艦の砲門が、フリーマントルの港湾に向けられる。
「何という恩知らずどもめ、全員切り伏せてくれるわ!」どこから持ち出したのか、日本刀を振りかざす将校が日本艦の甲板に見られたということである。
しかし、兵員輸送任務はそれ以後も黄色人種差別主義観を丸だしなANZAC兵に怒りながらも終了した。
だが、この経験は、ある男に決定的な反感を植え付けることになったのである。
『ニューギニア島だけは、絶対渡してなるものか!貴様ら、絶対に殲滅してやるからな』
瞳に炎を宿して決意する使徒には、黒い炎のオーラが立ち昇っていた。
この後ニューギニア島統治は、国際連盟でもたびたび議題に登ることになるが、日本が譲ることは決してなかった。しかし、その行為は、英米豪新の不信感を増幅させることになる。
大戦は、4年間にわたり行なわれ、1500万人以上が死亡した。
これらの戦いで、国のシステム自体が破壊される国も多くあった。
膨大な財政出動、徴兵による経済破壊、物不足による物価高騰、食糧難、飢饉、疫病など、様々な試練が欧州に訪れていた。
結果としてドイツ帝国、ロシア帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国が崩壊した。
その間に、使徒は、大尉に進級していた。
そして、戦場にいたのだ。
ソンムの戦い。
フランスのソンムで行われたこの戦いでは、英仏連合軍、ドイツ軍の両軍で100万人の膨大な戦死者を出した。
戦死者では、英仏連合軍の方が多かったが、ドイツ軍の劣勢が明らかになりつつあった。
その戦場跡近くで、使徒は歩いていた。
一体何をしでかそうというのか?勿論、実験の被害者を捜し歩いていたのだ。
彼は、その被害者が、近くの墓地に埋葬されていることを知っていた。
そして、彼は目的の墓を発見する。
親衛隊員(神教青年奉仕団)が、その墓を掘り返す。
深夜に行われる悪魔の儀式であろうか、埋葬された者を掘り起こすなどとは!
彼は、神罰をも恐れてはいないのだろうか。
前回の復活劇では、悪魔のように変異した怪人が襲い掛かってきた。
彼はそのことをなんとも思っていないのだろうか。
それを天罰だと考えたりしないのだろうか。
自分が正義であると信じているため、それらの行為が悪魔により行われていると確信知っていた。
掘り出された棺桶。今回の場合は、まだ、肉の部分はあるだろうから、またしても怪人が現れるかもしれない。要警戒だ。
既に、死者への崇敬の心はそこになく、冒涜だけがある。
だが、棺桶の蓋を開け差せる男は、何も思っている風でもない。
懐からまたしても、例の薬包紙を取り出している。
腐敗臭が辺りにまき散らされるが、気にかける様子もない。
「このようなことになるのであれば、数珠丸恒次でも貰っておけばよかったかもしれん」
何とも、罰当たりなことを何気なくいう。
勿論その罰当たり発言は、キチンと聞かれていた。
男神がまたしても、爆笑している。
「行きなさい!ポセイドン!」十二単女神がギリシャ神に命を下す。
「おう!」
ぐつぐつと煮えたぎるような、肉片の発生が起こり、なんらかの形を取り始める。
きっと、『早く人間になりたい』系の生き物のようだ。
徐々に、人型のように成形されていくが、どう見てもそれは、人間には見えなかった。
「魚!」さすがに罰当たりな男も、その様子に驚きを隠せないでいる。
船の上でなら、蟹怪人もあっただろうが、こんな陸地になぜ魚人が出るのか!
「貴様、確か、あちらの神に従属するインスマス人だな!」
しかし、流石に男は、このような奇怪な事象に成れている。(慣れてきた)
あっという間に、敵の情報をつかみ、刀を抜く。
だが、この魚人はインスマス人などではなかったが。
裂帛の気合で一閃すれば、魚人はその鋭い爪の生えた手で受け止める。
「インスマスのなかなかやるな」
しかし、魚人はその時、強力な水噴射を口から放った。
男は、簡単に避けて離れる。
その時、魚人は飛んだ!
「なんだと!」
魚のくせに飛ぶとは一体何事だ。
腕と脇腹の間に膜があり、それを使って飛ぶことができるのだった。
「トビウオだと~」
高速で滑空する魚人対神の使徒の戦いは三十合もうち合うが決着がつかない。
空に登れば、魚人は絶対的エースなのだ。
そして、その鋭い爪が急所を襲う。
流石の罰当たりも、追い詰められるかに見えた。
だが、男はせせら笑う。
「なかなかによくやったな怪人トビウオよ、しかし、決定的な間違いが存在する、致命的な欠点だ」
その言葉がきっかけだったように、怪人トビウオが、胸を押さえ膝をついた。
『秘剣 朧切り』男の姿が一瞬で解け崩れるように消える。
怪人トビウオの首が飛んだ。
いつの間にか、彼我の距離は完全になくなり、容赦なくトビウオの頭が切り飛ばされて宙に舞っている。
「魚が陸地で生きることはできん」男はそういった。
トビウオの上半身が大地に崩れた。
もし海上であれば、彼は勝てたかもしれない。
しかし、ここは陸地、鰓呼吸では限界が有ったのだ。それが敗因となったのであった。
激しい戦闘の後でも、息一つ乱さない。
親衛隊たちは、「使徒様!」とひれ伏している。
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