第38話 試験

038 試験


何故、私が仙台に生まれたのか、それは、彼と仲良くなるために計画されたことである。

彼とは、最後の海軍大将井上成美。


故に、家も近くに設定されているのだ。

これは、計画的犯行なのだ。


それゆえ、海軍兵学校に一緒に進むことも計画通りである。

誰が計画をしたのか?

勿論、私だ。


生まれ年と場所は、任意で設定可能だったのだが、私は、ここを選らんだのだ。

海軍の良心ともいうべき孤独なる男のすぐ傍を。


彼は、正論を吐く。故に友が少ない。

しかし、言っていること自体は間違いではないのだろう。


米国と闘うなど、愚の骨頂。確かにそうだろう。

しかし、様々な事象により、不可避なのであればそれはやむなきことであり、軍人であれば命令があれば戦わざるを得ない。


彼の戦術眼は確かなものである。

それを利用させてもらうことを考えているのだ。

私は、あくまでも歴史上のモブなのである。


モブにしかなれないので寄生するしかないのだ。

私が、山本元帥に成れれば問題なかったのかもしれない。

しかし、システムはそれを認めなかった。


あくまでもモブとして自由にやってよいというシステムなのだ。

寄生対象として選ばれた井上君は可哀そうだが、そうするしかないのだから仕方がない。


故に、最大限に利用させてもらわねばならない。

だから一緒の学校にも通わずにはいられないということだ。


中学5年生を終える前に、兵学校入学試験を仙台市で受ける。

ともに学科試験を合格、次の日に進み、面接試験を受ける。


これも難無く合格した。かなりな難問であったが、問題はないのだ。

既に、このころになると自分の能力を超える難問が押し寄せてきていた。

しかも、カナ混じりの文は読みづらい。

そこで、優秀な井上君の答えを丸写しすることにしたのである。

これは、仕方がないのだ。

私は、とにかく、井上君にダイヘンを頼み、各地を転戦していたので、勉学の方が少しばかりおろそかになったための救済措置である。


井上君の回答は何故か、私には見えたのである。

『神の使徒』ならではの視野の広さが生きた瞬間であった。


1906年(明示39年)11月、中学校を中退し兵学校に通うことになる。

海兵37期入学である。


仙台駅では、我々やそのほかの入学生を送る一団が見られた。

その中に、生まれたばかりの玉兎(ぎょくと:前世では、デン)が母の腕に抱かれて見送ってくれた。

その横に、父親のように、ニコラ・テスラが並び、可愛そうな父さんがひっそりと手を振っている。


出発までの日程はあわただしいものとなった。

母親が出産したからだ。

十月十日、人間の子供が生まれるまでかかる日数といわれている。

しかし、その出産ははるかに早かったのだ。


早産?そうではなかった。彼は普通に人間の赤子ように生まれてきたという。

茶髪、黒目の子供で、およそ日本人らしい平板さがなく、彫りの深い顔立ちだった。

妊娠発覚から出産までおよそ6か月のスピード出産だった。


そう、ニコラ・テスラ氏と非常によく似ていたのだ。

こうして、ニコラ・テスラ不倫疑惑が、広まっていくことになる。

しかし、相手は、教祖の母親だ。滅多のことを言えば不作になる。

噂は、水面下でゆっくりと広がっていったのである。



・・・・・

そんなことになっているなど夢にも思わず。

「山口さん後をお願いします」と後を託す私。


「ああ、しっかりと学んで来い」山口はあれ以来、一切老化が見られない。生気にあふれている。ひょっとすると、本当に不死になったかもしれない。


井上家の人々も井上君に手を振っている。

井上君は、優秀な成績、192人中2番の好成績で合格した。

私は、適当に井上君の回答を書き写したが、なぜか1番で合格した。


本当は、こんな不思議な現象は起こらないだろう。

だが、私には、ある種の能力があり、正解でないものがわかったのだ。

だから、それらの中でわかるものを解いたのである。


これで、不正疑惑も起こらないのだ。

神の使徒たる私に成績など必要ないことだからこれ以上は言うまい。

この試験で示された力こそが、本当の正解を得るという神の力を発揮した場所となったといえばいいだろうか。

これ以上の力が必要であろうか?


汽車が征く。

煙を噴き出して。

私と彼が外の景色を見ていた。


「どのようにして、1位で合格したの」

「ああ、神の力で出題傾向を予測した」

「君は、不真面目で学校にはほぼ来ていないのに、どうして合格できたのか不思議だったんだよ」


「なるほど、井上君、よくわかったよ」

「何か不自然な感じがしたんだよ」

「そうかい、僕の成績は常に優なんだが」

「何とも言えないんだけど、僕の心が盗み見されているような感じを受けたんだ」

なるほど、鋭い観察だな井上君。

その通りだが、それは言えない秘密だ、『機関』と戦う私には様々な特殊能力が備わっているのだよ、言えないけどね。


「考えすぎじゃないかな」

「・・・」


「まあ、これからも頼むよ」

「態よくつかわれているだけにみえるんだけど」

「そんことはないよ、この前のロシアの土産は良かったでしょ」

「あんなお酒僕は飲めないよ」


ウォッカをシベリア鉄道で買ってきたのだが、まだ早かったようだ。

「じゃあ、今度こそ喜んでもらえるように頑張るよ」

「君はまさか、兵学校でもダイヘンを僕にさせる気じゃないよね」


「駄目なの?」

「駄目に決まってるだろ!」

彼らはまだ知らない。

寝る間もないほど忙しいことを。


しかし、私なら走りながらも寝ることも可能なのだった。

神の使徒に不可能などないのだから。








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