第60話 無礼な男
060 無礼な男
エカテリンブルグ郊外の森。
隠しておいたオートバイの場所に、彼等は終結していた。
教祖が何をしているのか、知る者もいるが彼らの教祖が負けることなどあるはずもない。
たしかに、人間相手では、負けることはないだろうが、それ以外のものではどうであろうか。
世の中には、人智を超えたものが存在しているのだ。
激闘を制して、若返ったニコライ2世をつれて、教祖は帰ってきた。
予想外の激闘になった。
まさか、聖堂騎士『怪僧ラスプーチン』が降臨するなどとはさすがに考えていなかった。
精々今度は、マグロ怪人が現れて、大トロを提供してくれるのではないかと楽観的に考えていたといえるはずもない。
超能力など予想外も良いところだった。お前は、ユン〇ラーか!
それなら私にも使えるはず!今日から特訓に入ろうなどと言わずに合流したのである。
復活したニコライ2世はやはり大変無礼で、男のいうことなど全く聞かなかった。
流石に、命令しかしたことが無い人間だ。無礼にもほどがある。
すぐに、文句を言ったので、殴りつけた。
やはり犬を躾けるには、厳しくせねばならないのだ。
「おお、アリックスよ」嫁を見つけて大げさに抱き付く。
「娘達よ」若返った父親を見て驚いた妻や娘たちだが、それでも喜んで抱き合っている。
「さあ、私は約束を果たしましたよ、皇后陛下」と男。
「ああ、やはりあなた様は神の使いでしたのね」今度は、私に抱き付いてくる皇后。
皇帝は不快そうにその様子を見守っていた。
「この男は一体なんなのだ、無礼にも余を殴りつけたのだ」
「ああ、それは仕方ありません。この方は神の使いで、あなたのそして、私たちの命の恩人なのです、あなたの方が悪いのです」
皇后の中では、うまい具合に刷り込みが行なわれたようだ。
「さあ、あなた。この方に私たちの財産の半分をお支払いしてください。」
「何をいっているのだ、アリックスよ」
「あの地下室で全員が死ぬ運命だったのです。死ねば財産など何の価値があるでしょうか」地下室の恐怖が甦ってくる。
「しかし、これからあのボルシェビキどもを皆殺しにしてやらねばならん、そのためには金が要るのだ」と傲慢な男が言い放った。
「あなた、その復讐ですら死んではできなかったのです」なんなら、死んで呪詛になる方法を教えてもよいのだが?
「まあ、そうなのだが」と元皇帝。
「ああ、すいません。契約が不成立の場合は、元の状態に戻すことになりますが、貴重な神薬はもう使いたくありませんので、二度と生き返ることはできません。それと、皇后さまたちは、チェーカーたちに最高の値段でうりつけますので、お覚悟をお願いします」と何事もなげな感じでしゃべる男は、その事を簡単に実行するだろう。
人体実験、実験体7号(ニコライ2世)の所為で薬はもう3つしか残っていない。
しかも、使うと面倒なことが起こるのだ。
先ほどは、顔を立てて助けてやったというのに、もう恩知らずな言葉を振りまいている。
権力者とはことほど左様に恩知らずなのだろうか。
もともとの富の源泉たる人民が一体どれくらい飢え死にした上にできた財産なのか。
考えていたら、ボルシェビキの連中こそが正しいのではないかと思えてくるのであった。
沸々と怒りがこみあげてくる。
「貴様、無礼だぞ」
「元死人よ、貴様こそ命の恩人に対して礼の心が足りんのではないか」
「何を!」
ここで男は切れた。
そもそも、なんでお願いせねばならんのか。
金だけ手にして殺すことも可能なのだ。
貴様の命の生殺与奪は私が握っているというのにだ。
恐るべき怒りのオーラが立ち昇る。
悪魔的な色というべき可視のオーラである。(あくまでもスキル効果で特段物理的な効果は有りません)
その手には、心臓がつかまれている。図としては悪魔が心臓を掴んで見下ろしている風に見える。
「神の使徒として、生殺与奪を執行する」
その男の力があれば、そんなもの(ニコライの心臓)は一瞬で砕け散る。
力が加わる。
「ウ!ギャアアアアアアア~~~~」
魂消る叫びとはまさにこれのことであろう。
皇帝の絶叫が森に迸り、消えていく。
「汝らは、神の使徒に嘘をついたため、針千本地獄の刑である」
どこからともなく、一本の針が取り出される。
ここら辺の流れは、マジシャンのような手の動きである。詐欺師は手先も器用なのだ。
そして、その長い布団針を心臓に突き刺す。
「ッゴオオオオオオオオオ~~~~~!」
信じられないほどの痛みを感じて胸を掻きむしる。
たった一本でこれだけの痛みを与えられたら!
ニコライ2世は、あらゆる汁を垂れ流しながら震えあがる。
物凄い痛みに心が震える。
因みに、一本で即死できるのだが、使徒が治癒魔法で治していたりする。
痛みに全身の筋肉が過剰に力を入れて、痙攣している。
眼や口から、涙やよだれなど、水分を垂れ流している。
後数本もやれば、神経が焼き切れるだろうか。
恐らく神経が耐えきれず、狂ってしまうだろう。
「さあ、神の怒りはまだ収まっていない、汝に罰を!」
キラリと光る針がまたしても出現していた。
前世ではマジシャンだったに違いない。
それほどの流麗な流れである。
「まだ、残り999本も残っているぞ、神の怒りをおもいしれ」本当は自分の怒りである。
人間の魂が1000回もの死に耐えきれるのか、実験せねばなるまいて。単なる興味本位だった。
「助けて!」
「汝は、傲慢で嘘つきである。神が許しても、私が許さぬ!」
「お待ちください、どうか父をお許しください。私にその針を刺してお気持ちを静めてください」先ほど、突然キスをした若い娘であった。何番目の娘なのかは知らない。
目が潤み、唇が少し開いて、嫣然とした様子が漂ってくる。
ちょっとヤバい状態になっていた。
「どうか、神よ私が、罰を受けます」
どうも彼女はその気がある性格のようだった。
流石にうら若き娘に無体なことをするわけにもいかない。
「そうだ、私が神なのだ、娘よ」あくまでも自称『神の使徒』のはずだが、この男は流れに乗る詐欺師的性格を有していた。
「はい、神様」
この娘は男の噓八百を信じ込んでいるようだった。
欺瞞に満ちた話し声は、暗い森の中へと吸い込まれていく。
いかにも怪しげな自称『神』と艶やかな美しい娘は見つめ合ったのだった。
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