第135話 戦争責任

135 戦争責任


大日本帝国の攻勢でハワイ諸島は陥落した。

ハワイ王国の復権宣言。

世界に激震が走っていた。


特にオーストラリアにとっては生命線の大動脈が途切れたも同じである。

米国国内では、まだ情報操作が行われており、オアフ島で苦戦しているが、無事に奪回できるという風な情報が流されていた。


だが、現実は非常で、諸島内の白人はすべて財産没収の上収容所に詰め込まれていた。

そもそもが、この島内で白人は、侵略者なのである。

当初、穏当な意見がでたのだが、それを拒否した男が大きな力をもっていたのである。

「あなた方が、寛容な心で彼らを許そうとしていることには、驚きました」

男が、あらたなハワイ王に頭を下げた。

彼は帝国海軍の司令官の一人である。

「ですが、そのような寛容さにつけ込まれて、この島を失ったことを忘れてはならないのです。全員を斬首にしても足りないくらいなのですよ」

男の視線が、新王国の閣僚らを薙ぐ。


「まあ、統治は好きにしてもよろしいですが、真珠湾の使用権およびハワイ島の使用権だけはお願いします」

口調はお願いであったが、絶対に逆らうことができない圧力があった。

彼等にしても、まだ王国は復活したばかり、全てのものが不足している。

この島で、自給できるかといわれると難しい。


そして、今この瞬間も島民の食料は、日本軍の輸送船に頼っている状況であった。

日本軍の輸送船だとされている艦船はほぼすべてがある会社の輸送船である。


「将軍の言う通りにいたします」

閣僚が、幼い王の代わりに答える。

そのようにしても、この島では、いまだ自立などできる訳もない。

降ってわいた復活劇であったのだ。


一方日本政府でも、ハワイにできるのは少しばかりの援助程度であった。

今まさに、激戦を各地で繰り広げているのだ。

それらすべてを肩代わりして行っているのが、謎の艦隊であるなどと言うこともできない。


ハワイ島はビッグアイランドと呼ばれているの、ハワイ諸島最大の島である。

噴火が今もつづいているので、人口は少ない。

その溶岩台地を、ユンボやブルドーザーが砕いて整地を行っている。

まずは臨時の飛行場を作り、空輸でもミッドウェー経由の航空隊の進駐を行わねばならない。

港湾の整備は同時進行で進んでいる。

このような要塞化を最も得意としている、建設会社が存在していた。

島の東部、ヒロ周辺に巨大な滑走路を何本も作り上げ、その場所に次々と輸送機や爆撃機がやってくる。

空母も航空機の輸送任務を行っていた。


2つの巨大な火山の山頂に、レーダー基地が建設されていく。

その活動内容はあらかじめ計画されていたかのように、迷いがない。

そして、本来ならば、米海軍が徹底的にそれらを妨害しなければならないところだったのだが、空母も戦艦も全く足りなかったのでまともな作戦行動ができなかった。


時間がたてばたつほどに、要塞化は進行していく。

これは絶対的に邪魔しなければ取り返しが効かないところまで進みそうだった。



ハワイ陥落から三か月。

ついに、オーストラリアが和平提案を投げかけてきた。

ハワイ方面に展開していた『玄武』の部隊が全て、ニューギニア方面に進駐してきて、徹底的な爆撃を行うようになっていた。


海軍軍令部で会議が行なわれていた。

豪州の和平提案の是非についてである。

「連合艦隊としては、和平に賛同する」山本長官がこう答える。

「私はまったく反対です。豪州は、先住民の土地であり、ハワイ同様侵略者から奪還してやらねばなりません。我々の正義の道理にかなっているのです。ここで豪州との和平は、先住民たちの正義に適うことではありません」

「しかし、我々は米国との対決をしなければならないのだぞ」

「閣下、仮に米国が攻勢を仕掛けてくれば、豪州は、再度、我が国に宣戦布告をするのです。忘れてはなりませんぞ。我々は彼等からは、人類のなりそこない(黄色い猿)といわれていることを。彼らは契約は絶対と言いますが、その契約も人類との契約でこそ守られるのです。

はっきり言って、彼らは平気で約束を破るでしょう。と申し上げておきましょう」

なぜなら、猿との契約は契約には当たらないと当然言い張るからである。


「しかし、陛下は和平に乗り気なのだ」

と軍令部長が口をはさむ。


「それがどうしたのですか、我々は大東亜共栄圏、今や環太平洋共栄圏の為に戦っているのです。一国家の意思などで動いてはいけません、ハワイ王国が復活したように、アボリジニ共和国でも、新オーストラリアでも国家建設し、侵略者共を島の外に追いやらねばならないのです、そのために我々は戦っているのではないのですか」と第7艦隊司令官。


勿論そんな空想の為に戦っている帝国軍人はいない。

この男とて、こうはいっているが、豪州の鉱物資源を確保するために、このような理想論を掲げているにしか過ぎない。


「陛下の意に背くつもりか」

「確か、陛下は、大本営に参加しても、意見を言えなかったと記憶していますが、違うのですか」天皇とは、臣下が提出した案に賛成するか反対する位しかやれることが無い。

具体的に、ああしろ、こうしろということは無いのである。


「貴様何をいっているのだ」

「陛下が意見を述べているとしたら、今までの行為の責任もすべて陛下が負われることになるのですが、そういう判断で良いということですか?」


誰もがはてな顔をしている。

の世界では、天皇は戦争責任を負わなかった。

何故なら、統帥権こそ握っていたが、具体的な命令を行っていなかったために許された。

逆に言うと、側近たちが勝手に命令を行って戦争していたということになったからである。


今、天皇が実際に命令を下していたとするならば、戦争責任の全てが天皇に帰順することになるのだ。男がこだわったのはそこの部分である。


全ての戦争責任を負ってくれる人間が出てくれば、この男はすべてをなすりつけて逃げることも可能と頭の中で判断していたのである。


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