第125話 第13任務部隊
125 第13任務部隊
コレヒドール島要塞陥落。
連合艦隊第7艦隊の攻撃は熾烈を極めた。
巨大な爆炎は周囲を火炎で押し包み、周囲一帯の酸素をすべて奪いつくした。
要塞外の兵士たちは爆炎と衝撃波によりほとんどが壊滅した。
要塞内の兵士もその多くが焼き殺されるか酸素欠乏による、窒息死を強いられた。
艦隊接近の報を受け、フィリピンを脱出する準備をしていたマッカーサー大将も、運悪く、洞窟内で酸素欠乏により死亡した。
敵の抵抗が弱まったと考えた陸軍は、同島に上陸し攻略を開始し、すぐに占領した。
生き残った兵士たちは、すでに全員が戦意を喪失した状態であった。
兵士たちは、あまりの恐怖に心を砕かれていた。
帝国陸軍の本間中将ですら内心、震えあがっていた。
あんな兵器を撃ち込まれたらどうしようもない。
あれは一体何だったのか。
帝国陸軍兵の中にもPTSDを負った兵士は少なからず出ていたのである。
すでに艦隊の姿はない。
最初の艦砲射撃で要塞を無力化し、近海10Kmまでに近づきさらに射撃を浴びせたのである。
最期の仕上げに、艦載機による空爆をとどめで実行する徹底ぶりに、陸軍すらドン引きする始末であった。
だが、この無慈悲な攻撃のお蔭で、米比軍の大半は死亡し、『バターン死の行軍』は回避されることになるのだが、照和の本間中将はそのようなことを知ることはない。
昭和の彼はその罪を問われ死刑判決を受ける。
一方の第7艦隊は、コレヒドール島要塞を血祭に挙げて、一路、ミッドウェーを目指していた。
「これでフィリピンは独立を勝ち取ることができます」参謀がそういった。
「ああそうだな」帝国が占領した国家は、植民地体制を打破して、自立した国家(日本向きの)になることができるのだ。
大東亜共栄圏構想である。
しかし、その男は、頭の中では別のことを考えていた。
フィリピン独立は、議会で承認されており、年限が過ぎれば米国から独立国家に成れたことを知っていたのだ。
だから、彼ら(フィリピン)は米国と一緒に戦っていたのである。
仕方がないことなのだ、米国寄りのフィリピンがいれば、日本の領海に危険が及ぶ、ここで抹殺して、絶対防衛圏を構築しないとならないのだ。
「そうなのだ」男は、もう一度そう呟くのだった。
・・・・・・・・・
サンフランシスコのアラメダ基地から戦艦ワシントンが出港する。
いく先は、真珠湾基地である。
空母サラトガが随伴している。
彼等は、これから行われる作戦の韜晦を目的に真珠湾基地へと向かう。
日本海軍の眼をこちらに引き付ける役目を負っているのである。
サンフランシスコ、オアフ間には、帝国海軍潜水艦隊が待っている。
多くの輸送船が撃沈されていた。
対潜哨戒が機能していないのか、未だに撃破確実な潜水艦は数隻という有様である。
そしてそれらの艦は、帝国海軍の潜水艦であった。
某国製の潜水艦は、水中速力の速さと静粛性において格段に優れているために、いまだ損失艦はない。
それに、某国製の潜水艦隊は、輸送船のみを狙うのだ、無駄に戦闘艦に襲い掛かるような無謀は犯さない。
その後に、空母ホーネット、ヨークタウン、ワスプを要する第13任務部隊がアラメダ基地をひそかに出港する。
第13任務部隊を率いるのはフレッチャー中将である。
「一体なぜ、このような不吉な番号が使われているのだ!」パイプをふかしながら、いら立っている。十字教において13は不吉な番号である。
日本人にとっての4などと同じようなものである。
「確かに、本来は第16任務部隊であったはずですが」
いつの間にか、書類の数字がすり替わっていたのだ。
フレッチャーは今回の任務に嫌な予感しかもっていなかった。
まず初めに、すかした陸軍野郎が乗り込んできているのが気に入らなかった。
なんでも、水上機の競争でトロフィーをとったなどと自慢する嫌な野郎だ。
自己顕示欲の塊のような奴である。
そもそも、ミッドウェーを爆撃したところで、相手は何ほどの痛痒も感じないだろう。
だが、大統領は決断したのだ、選挙が近いのだ。
そんな時、政治家は決まって勝利を欲するのだ。
馬鹿な話だ、こんな愚にもつかぬ作戦に何の意味もない。
それにこの番号だ、神は決してこの作戦に加護を与えてくれそうにない。
それでも、軍人は命令に従わねばならないのだ。
愚か者どもめ!
その頃、この作戦を指令した、ローズベルト大統領は打ちのめされていた。
フィリピンの最後の砦が陥落した知らせを受け取っていたのである。
そして、マッカーサー大将の戦死。
政敵に近い相手であるが、その衝撃は計り知れない。
日本を上手く戦争に引きずり込んだはずが、その罠が自分に刃を煌めかせているかのような錯覚に襲われていたのである。
真珠湾強襲攻撃による米国軍の戦死者は、数万に上る。
これは大失敗であった。
まさか、日本如きにこれだけの大戦力があるなど、どこからも報告はなかったのだ。
大戦艦の艦砲射撃がこれほどの威力があるとは、想像もつかなかったのだ。
しかも最悪なことに、こともあろうに空母が2隻も鹵獲されるなどあってはならないことだ。
この最悪の状況を打破するためにも、喧伝できる勝利が必要なのだ、何としてもだ。
「キング、絶対に成功させるのだ!」
流石のキング作戦部長も海軍が大失態を犯しているので、この無意味な作戦を許可するしか無かったのである。
だが、彼も顔色を変えた。
第13任務部隊が、アラメダ基地を出港した。レポートにはそう書かれていた。
「第13任務部隊だと!」
この作戦は神もが見放しているに違いない。
キング作戦部長の胸中の不吉な予感はとどまるところを知らなかった。
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