第178話 平和外交
178 平和外交
英国の精鋭空母4隻を加えた米国第5艦隊(太平洋艦隊)が、ニューヨークを出港する。
英国もカナダに空母を置いていても何の役にも立たないことは百も承知していた。
それゆえに、4隻の空母を快くではないが、送り出したのである。
モンタナ級戦艦モンタナ、オハイオ2隻、アイオワ級戦艦4隻、エセックス級空母6隻、英国イラストリアス級4隻を主力に、巡洋艦、駆逐艦などを要する大艦隊が出港していく。
正に、乾坤一擲の大艦隊の出撃であった。
自由の女神よ!御照覧あれ!
復讐に燃える兵士がそういったかどうかは分からない。
敵は大日本帝国および属国の連邦(このころはそう思われていた)所属の機動部隊でそれと刺し違えるという任務である。
今でも、連邦は米国から見れば傀儡政権のように見えていた。
連邦艦隊には、大和型の戦艦(超大和級)もいるため、そのように勘違いしていても仕方のないところがあった。
時は少し遡る。
日本には連邦からの特使がやってきていた。
連邦の特使ギーレン・ザビーネ枢機卿。彼は神皇国の外交をも担っている。
彼等が何をしにやってきたのか。
「武装解除だと!」
近衛文麿総理が叫んだ。
「左様、貴国はすでに相当の疲弊状態にある。石油は枯渇寸前、経済は崩壊一歩手前。このような状態では、いつ革命が起きてもおかしくはない」
銀髪をポマードで撫でつけた男が、鋭い瞳で睨んでいた。外国人であるにも関わらず流暢な日本語をしゃべる。
日本は、逆鎖国状態に置かれており、石油などは米国から届かなかった。
そして、今は米国とも戦闘状態である。
『DH作戦』では、味方機動部隊が半壊した。
もう一つ言うならば、日本には、潜在的に神教のスパイが複数潜伏しており、一声命じれば、本当に各地で武装蜂起がおこるのだ。
彼等は、特殊作戦の訓練を受けている。
たった一人でも、大きな戦いを起こすことが可能である。
それに、朝鮮半島からすぐにでも援軍がやってくるであろう。
朝鮮半島は満州国の領土であり、連邦にこそ加盟していないが、満州国の国家元首は、大東亜共栄の為に、日本が協力しなければならないと信じていた。
「統帥権に関する決定は、私にはできない」
「では、統帥権の持っている方に、聞いてくるがよい」
「しかし、いくら何でもそれは・・・・」
「貴国の天皇は平和を望んでいるのであろう、そう猊下から聞いておるぞ!我が連邦が太平洋の平和を守ってやろう。そして、日本は非武装永世中立を宣言すれば、連邦から石油を輸出してやろう。平和であるから武装などは必要あるまい」
「そんな馬鹿な!」
「貴様に決定権は無いのであろう、疾くと聞いてまいれ」
ギーレンに遠慮などはない。彼の忠誠は、神に捧げられているのだ。日本の首相ごときには、敬語すら必要なかった。
日本が望んだ物、『平和』がそこに転がっているという。
しかし、武装解除してもよいものか?
それは、どこかの国の憲法9条のように世界から日本を守るという護国の法なのであろうか?
何のことは無い。
連邦の首魁は、戦艦大和、武蔵などをコレクションに加えるために、このような使者を送ったに過ぎない。弱体化した日本の海軍など、今の連邦艦隊に適うはずなどない。
嘗て日本国民だった者が、帝国攻撃に二の足を踏んでも、今や多国籍出身の兵士が艦隊を操ることが出来る。
いつでも、大日本帝国を容赦なく攻撃可能なのである。
大和・武蔵を手放せば平和国家として守ってやろうというのは、本当である。
連邦の超大和級はすでに、大和などより相当強かった。
そもそも、航空戦ばかりで戦艦による砲撃戦が起こることはもはや無いだろうが。
そういう意味では、DH作戦で戦艦が生き残ったのは僥倖であった。
本当は、天城や赤城などもコレクションしたかったのである。
男は歯噛みして悔しがったのは、別の話である。
男の贅沢な趣味は艦隊〇レクションであった。
航空機や戦車なども実物をコレクションとして集めていた。
まさに兵器博物館でも開けるほどに。
結果として、日本は武装解除に応じる。
「臣民の生活を慮ってやらねばなるまい」という広い心がそれを決定させたのである。
こうして、平和国家永世中立非武装国家『大日本帝国』が誕生したのである。
それにしても、帝国を唱えながら平和国家を希求するというのもなかなかに論理が破綻している。帝国とは、帝国主義を表しているのではなかったか?
だが、日本には平和と約束された石油が届けられた。
武器以外の工業製品は輸出入可能となった。
周囲の連邦国家との交易が可能となったのである。
まるでココム規制法のようだが。
こうして、武装解除のために鹵獲された艦船がハワイ真珠湾などに回航されてくる。改造工事を請けるためである。一部はマニラ湾、シドニーにも回航された。
戦争は未だ続いている、戦闘艦はまだ役目を終えているわけではないのだ。
大和・武蔵・紀伊(大和型三番艦)には、集中的に手が入れられる。
対空装備の充実、レーダー機器などの改装、武装の換装、電源装置、ダメージコントロールの強化などである。
米国艦隊は、アルゼンチン、ブエノスアイレス港にて補給をうけた。
大戦時において、アルゼンチンは中立を保っていたが、ほとんどナチスに傾倒していた。
ナチス信派でも大艦隊を前に、反対するわけにもいかなかった。
艦の主砲はいつでも、首都を攻撃できるように狙いをつけていた。
そして、その知らせは、ナチスを通じて連邦に届いていた。
米国艦隊は、まずは米国西海岸の上陸拠点を攻撃する。
その後、連邦艦隊と決戦に臨む腹積もりであった。
その際、連邦艦隊と刺し違えるのである。
だが、そのようなことがうまく運ぶこともないのもまた事実であった。
「私自らが、敵を殲滅し、この世界を救うであろう」
月読神国首都サンクトゲントブルグ(シドニーのこと)の大教会で法王はそう語ったのである。
「猊下自らが、御親征なさるなどは、もってのほかでございます」
「ザビーネ、決着の時は近いのだ。世界を導くために、私はやらねばならんのだ」
「・・・不肖ザビーネ、猊下の肉の盾となってお守りします」
「うむ、すまんな」
ちょっと格好をつけてひどい目に合わねば良いのだが・・・。
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