第153話 好事魔多し

153 好事魔多し


スプルーアンスとその幕僚たちは、今回の海戦で敵空母三隻を撃沈、その他艦艇を複数撃沈大破させ、意気揚々とサンフランシスコへの帰路を進んでいた。


しかし、その航路上には、伏兵が存在したのである。

そもそも、大日本帝国は太平洋諸国同盟には参加しておらず、今回の米国側の攻撃計画を察知していなかったが、同盟サイドは、しっかりとサンフランシスコやパナマ運河などを警戒監視し、近々、米国側がなんらかの作戦を発動するであろうことは察知していた。


日本本土への奇襲がダッチハーバー基地を中心に行われたことから、日本側がやむなく、その基地を攻撃するであろう。そして、国内でもその情報があふれていた。

それは、当然米国側の知るところとなったのである。


『DH作戦』が失敗することは必然だった。

当然、戦果を挙げた米国機動部隊が意気揚々と帰路をたどるのであり、そこに油断が生じるであろう。同盟海軍はそう判断し、帰路と思われる航路上に複数の潜水艦を配備していた。


12発の魚雷は、航路まげて突進する。

彼(魚雷)等には、聴音ソナーが内蔵されており、スクリュー音を感知して、そちらの方向に転舵していく。(初歩的な自立式誘導魚雷。)

それが、テスラ式(テスラ・インスツルメント社が開発した製品)と呼ばれる由縁の装置である。

故に、魚雷は適当な方向で発射すれば当たる物は当たるのである。

さらに言うと磁気信管も採用されているので、艦底など金属が近づくと、爆発するのである。


ドド~~ン。

突如として起こる大爆発。

水柱は数十mも立ち昇る。

駆逐艦、巡洋艦が次々と被雷する。

一発の魚雷が、空母のスクリューが吹き飛ばした。


米軍側から見ればおかしいとしか言いようがない。

日本の潜水艦は潜望鏡により、狙いをつける必要がある。

しかしそ、の潜望鏡は、見張り員とレーダーによって見張られており、直ちに反撃に移る体制が整えられていたのだ。潜望鏡の反応は皆無だった。


勿論、潜望鏡を出さずに適当に狙いをつけているので、発見することはできないのだ。


それに、潜望鏡にはステルス素材の塗料(電波吸収材)が使われ、逆探知の装備も設置されているため、そう簡単にはいかないのである。


しかし、帝国海軍の潜水艦にはそのような装備が施されてはなく、潜水艦そのものは徐々に削られている。


空母を守る駆逐艦たちが死にもの狂いで走り回り、爆雷を投下していく。

だが、既に攻撃した潜水艦はその場を離れていた。


その夜には、その潜水艦から敵機動部隊の位置が通信により発信され、予測進路を司令部が察知した。そして、その進路が司令部より潜水艦隊に発信される。


多くの同盟潜水艦はその通信をキャッチし、その場所を変えていく。

次の日から、スプルーアンス機動部隊は次々と潜水艦から遠距離雷撃を受けることになる。

太平洋上には、数多くの同盟海軍の潜水艦が潜航しているのだ。


一撃離脱で次々と発射されるテ式酸素魚雷は猛威を振るい、次々と機動部隊の艦艇が被害を受ける。


どのように音波探信を行っても、発見することが出来ない敵。

そもそも、そのような短距離から攻撃している訳もなく、一撃後は潜航し海中の温度変化域の下に隠れてしまうので発見は至難を極めていた。


空母の鹵獲を恐れたスプルーアンスは2隻の大破したエセックス級空母を雷撃して自沈させる決断をするしかなかった。


こうして、サンフランシスコ基地にたどり着くころには、戦勝気分がすっかり台無しになっていたのである。


さらに言えば、このような北半球で激しい戦いが行なわれていた頃、南半球ではもっと壮絶な戦いが行なわれていた。

オーストラリア大陸に上陸した同盟軍は進撃を続け、艦隊による都市への艦砲射撃は熾烈を極めた。

また、大型爆撃機による絨毯爆撃による被害も甚大であった。

全ての東海岸の都市が灰燼に帰した。

聖絶とは、まさにこのようにすべてを焼き尽くすことに他ならない。

この戦いには、降伏はない。

聖絶とは、全てを燃やし尽くす。

人間も家も財産も家畜も一切合切を聖なる炎で焼き尽くすことを意味している。

この『聖絶作戦』は、言葉の意味通り冷酷に実施されていたのである。


オーストラリア政府の悲鳴は、英国本国、米国、日本に届いていたが、太平洋には、多数の同盟潜水艦が潜伏しており、全く救援に駆けつけることなどは不可能な事であり、特に英国本国では、ドイツ軍の上陸作戦(アシカ作戦)により本土防衛が風前の灯であった。


米国も救援や物資輸送を行う船のほとんどが撃沈されていた。

オーストラリアは、太平洋の絶海の孤島となっていた。


その激戦の最中に、降伏勧告が発せられた。

「法王猊下の広き御心により、汝ら大陸の侵略者(エイリアン)が、この地より出るならば助けることに吝かではない。汝らの罪を悔い改めて、この地より疾くいでよ」


最後通牒であった。

この機にこの地を離れなければ、全員が死ぬことになる。

既に、数百万人が、というか正確な数もわからないほど多くの人間が殺されていた。


この戦いにおいて、捕虜は存在しない。

同盟軍の兵士は、手を挙げて降伏を意図する兵士や民間人すら射殺していた。

特に、今まで虐げられ、狩りの対象ですらあったアボリジニ兵は容赦がなかった。

まさに狂気の沙汰で殺しまくっていたのである。


そして、この軍隊では、聖絶対象として戦っているため、このようなジュネーブ条約違反行為も全く問題としなかった。

何となれば、彼らはその条約に調印していないからである。


彼等は新しい宗教国家であり、ある意味その宗教指導者のいう通りに行動することそこ正しいことなのである。そして、軍隊の司令官レベルの人間はまさに、指導者を神のように崇めて育ったかつての子供たちであった。(孤児として引き取られ、間違った宗教観・道徳観を植えつけられた子供が育った状態の大人。すでに、出来上がった状態なので、更生は不可能である。)

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