第141話 空襲警報!

141 空襲警報!


1943年(18年)春。

平和を謳歌する大日本帝国であったが、度重なる凶作と不景気により、人々の顔からは笑顔が消えていた。このような状況は、戦中でも起こっったことがなかった。

某月神教の信者たちは、帝国の裏切りがこのような状態を招いたのであると、露骨にいうようになっていた。


シベリア戦線では、すでにロシア皇国が、オムスクを占領し、ウラル山脈に迫っていた。

圧倒的な、航空兵力は、数で劣る陸軍を十分にカバーしていた。

そして、ソビエトのウラルから西側では、ドイツ軍が次々と都市を落としている。

さらには、英国の半分もが占領される事態になっていた。


米国の支援も米国東海岸からしかできない状態。

さらには、ソビエトへの武器供与(レンドリース法)もロシア皇国が阻んでいた。

ドイツ軍は、反ソビエト人を上手く手駒とし活用したため、ソビエトは窮地に陥っていた。

ソビエトまでが、米国への支援を猛烈に要請している状況であった。

太平洋戦域での戦闘は一旦終了したが、うまく戦略が機能していない状態なのは明らかだった。

やはり、海軍戦力の半数を撃滅されたことによる被害は容易に回復できなかったのである。


「しかし、我慢もここまでだ!」

ローズベルトは車いすに乗りながらも、断言した。

ついに、新型航空母艦、戦艦が竣工してくる時期になっていたのだ。

そしてそれに合わせて、航空機の開発量産も行われていた。


兎に角、日本にダメージを与え、ハワイを取り返す。

さらには、豪州にも発破をかける意味合いもある。

反撃作戦が立案されつつあった。


人の好い日本人はもう戦争のことは忘れているような状況である。

石油とクズ鉄は充分輸入できたのだから、その他のことは関心が薄かった。

しかし、極度の不景気であったのだ。


満洲やロシア、ハワイでは活況を呈しているというではないか。

独立を果たした各国は同盟を結び軍備を増強しながらも、経済を満州、ロシアブロックと接合させ、うまく回っていた。

オーストラリアは相変わらず、内戦状態となっていた。

原住民の武装ゲリラが、国土のかなりの部分を制圧していた。

そして相変わらず、物資不足に苦しんでいたのである。


輸送船が、やってこない状況は続き、脱出する国民も多い。

頼りの本国は、今や、半死半生の状態となっており、カナダに向けて脱出するしかない状況であった。ただし、迂闊に輸送船にのっていると、ニューギニア島から発した潜水艦に雷撃される。


英国植民地インドでも独立戦争が起こっていた。

反政府ゲリラには、豊富な武器弾薬が船便や陸路によって輸送されてきていた。


中国は、未だに泥沼の内戦中である。

途方もない数の人間が死んでいた。

共産ゲリラにも、国民党にも武器を供給する勢力がいたので、戦いが終わることはなかった。


だが、そのような混沌の世界をついに一掃すべく米国太平洋艦隊がサンフランシスコに集結しつつあった。


「悪の枢軸を撃滅するときがきたのだ!」

ハルゼーが吠える。

長らく病院で治療を施されていたが、空母がやってきたことで大いに蘇ったのである。

「猿を皆殺しにするこの機会に、寝ていることなどできるわけがない!」


勿論、このような動きに関して、日本は察知していなかった。

ロシア情報部発の米国動静が同盟各国に流れ緊張が走る中、日本にこの情報が届くことは無かった。


だが、猿を皆殺しにするには、彼らの武器製造基地を爆撃しなければならない。

そして、それは本土爆撃しかないのだった。

不景気で平和な日本に、暗雲が立ち込め始めたのだが、人々はそのことに気づきもしなったのである。


4月18日

帝国連合艦隊司令長官山本五十六は、なぜか、悪寒を感じていた。

不気味な波動が押し寄せてくる。

このような不気味な波動はあの男しかだすことはできないと思っていたがそれに似た感じを受けて居たのである。


だが、予備役に編入され後に退役して以来、彼を見たことは無い。


「報いは自らの身で受けることになるでしょう」

予備役編入は、仕方がないことであった。

彼はあまりにも、上層部を批判しすぎたのである。


そして、その矛先は、陛下にまで及んでいた。

この国の国体を批判するなどあってはならない。


本来ならば不敬罪で逮捕されるところであったが、男がロシアの伯爵位をもち、先の戦争で大きな武勲を立てていたため、予備役編入で済ましたというのが本当のところなのだ。


何よりも、信者たちの数も問題であった。

彼を逮捕などすれば、たちまち反乱を誘発するのではないという恐れが軍内部にもあったのだ。


そして、今、報いという名の経済制裁は日本を不況へと叩き込んでいた。

満洲・ロシア・東南アジア・ハワイは一体となって経済発展を享受していたのにである。


周囲を潜在的敵国に囲まれた日本にはどうすることもできなかった。


長官室の電話がその時、鳴り始めた。

「私だ」

「閣下警戒レーダーが敵編隊を捕らえました。空襲警報が出されます。米国の艦載機だと思われます!」

「なんだと、講和条約を結んだはずだ!」

「敵襲です、騙し撃ちです」

「馬鹿な!」


空襲警報が帝都に嫌な音で流れ始める。


ダッチハーバーで給油を終えた米国機動部隊は、そのまま南下し、帝都へ向けて進軍していた。エセックス級空母がついに数がそろったのである。

エセックス級4隻とインディペンデンス級空母6隻、アイオワ級戦艦4隻が大艦隊を形成し、向かっていたのである。


日本各地に存在したレーダーは、旧式のままであった。

何故なら、最新型のレーダー機器を供給していたのは、テスラ電気通信社であったからだ。

そして、その維持管理もその会社がいままで受け持っていたのだ。


偶々、正常に動いていたレーダーが敵機の大編隊を捕らえたのであった。




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