第140話 意外な接点 その2


「そりゃそうだセイメー、だって兄貴は霧華にフルボッコされて書士クビになったんだからよ」


「うっ……六未、余計な事を」


「六未の言う通り、兄貴が司法書士やってた頃の不正を全部暴いて業界から追放したのが霧華さん達だ」


 二人の話によると学生時代の竹之内先生そして彼女の姉と義理の兄によって詐欺や恐喝紛いの仕事をしていた四門さんは追い詰められ最終的に廃業し、この仕事に転職したらしい。


「まあ、あの女弁護士より真に厄介だったのは、あのガキだけどな」


 あのガキ? 気になる所だけど結果的にムツゴローコンビの説得で話は上手くまとまった。しかも料金も適正料金にまで値下げしてもらい情報も俺の家にゴローさんが直接、届けてくれる手筈になった。




「まさか同門だったとは……」


「もしかして俺の弟の香紀って知ってますか?」


 聡思さんの呟きに思わず俺は義弟の香紀を知っているのか気になった。だが返答はある意味で予想通りだった。


「いや知らないな、あの二人は道場でも上位者で、たまたま名札が近い場所の俺を知ってたんだと思う」


 そして聡思さんも元は空手ではなく合気道つまり護身術から始めた口で二つの武術を習っていたらしい。


「二つも習ってたんですか」


「まあな、でも高校からは空手メインであんま行って無くてな」


 だから今はブランクが有るらしい。だが中学までで既に上位の実力まで持っていた聡思さんを兄弟子に当たるムツゴローコンビは気に掛けていた。つまり、それだけの実力が有ったようだ。


「咲夜が自慢する訳ですね~」


「実際、俺達を助けてくれた時も須佐井を簡単に押さえてましたしね……そう言えば、あの時に須佐井を離したのって、もしかして?」


「ああ苗字に驚いてな……あっ、もう時間だ!? じゃあ二人とも今日は助かった、情報が来たら連絡頼むな!!」


 それだけ言うと聡思さんは他にも用事が有るからと急いで駅の方に向かった。俺たちも今日は他にすることも無いから久しぶりに二人だけで夕飯の買い物と放課後デートをしようという話になった。


「夏休み明けから今日まで忙しかったしね」


「う、うん。今夜は特別メニュー行っちゃう?」


 特別メニューそれは今夜の夕食のことだろう。そして食後の話に違いない。自然と頬も緩むが繋いだ手は逆に強く握っていた。


「楽しみだよ」


「アタシも、はりきっちゃうよ!!」


「へ~、何をですか先輩方?」




 不意にかけられた声は聞き覚えの有る声で振り返ると同じ高校の制服の女生徒が居た。そいつには俺も綺姫も見覚えが有った。


「……あの時の」


「小谷さん?」


 そうだ綺姫の言葉で思い出した。一年の小谷、実行委員で放課後いきなり俺を誘惑して来た女だ。そして俺の綺姫をバカにした女でも有る。


「わっ、こっわ……ほんと聞いてた以上に恐い人なんですね先輩って」


「前も言ったが関わり合いにはならない方が双方のためだ、あれから委員会にも出て来ないから辞めたと思ったが?」


「いえいえ、あの日だけ無理やり交代してもらっただけですよ、葦原先輩を生で見たかったんで」


 まるで芸能人扱いだなと苦笑すると綺姫が芸能人なんかよりもカッコいいと言ってくれて少し溜飲が下がった。


「それで、小谷さん何の用? アタシ達これからデートなんだけど」


「え~っと、実はある人から二人を連れてくるように頼まれてて」


「今は忙しい、今度にしてくれ」


 今度なんて永遠に来ないけどなと心の中で付け足し無視しようと踵を返した俺達の背に向かって小谷は少し大きい声で予想外な言葉を口にした。


「そんな~、酷いじゃないですかぁ……?」


「っ!?」


「え? 何で小谷さんが!?」


 その呼び方それを知ってる人間は限られている。あの街の関係者だ。夜の街で歓楽街『値ノ國ねのくに通り』での俺を知ってる人間だ。


「私も意味までは知りません。でも呼び出してる人が逃げるなら、そう言えって、本当に私は伝言係なんですよ~」


「俺だけじゃダメか?」


「それはダメみたいですね、二人とも連れて来いって……特に天原先輩に用が有るみたいですよ?」


 綺姫に用が有る? 俺の関係者なのに綺姫に用が有る人間なんて限られるが変だ。そういう関係者はジローさん達で、あの人なら回りくどい手なんて使わない。他の関係者もジローさんの顔を潰すような真似は出来ないはずだ。


「ちなみに、それでも行かないと言ったら?」


「その人が言うには葦原先輩の過去を暴露するって言ってます」


「もう一つ聞きたい。お前とその人物の関係は?」


「私と美里お姉ちゃんの関係? ま、身内てか従姉妹同士です」


 新しい情報に俺は更に混乱する。俺の知り合いに美里お姉ちゃんなる人物など居ない。一つ分かった事は呼び出した人物は女だ。全く身に覚えが無い呼び出しに安易に応じるのは危険だと俺が躊躇している間に綺姫が口を開いていた。


「行こう星明、キッチリ話を付けよう」


「でも綺姫、危険だ」


「あ~、正解です。危険かも知れません、だいぶ気が立ってたんで」


 どうやら小谷の従姉は相当お怒りらしい。だが綺姫は止まらなかった。むしろ俺の手を握ると微笑んでいた。


「小谷さん、その人って一人?」


「はい、私も二人を連れて来たら帰れって言われてます」


「分かった、その女のとこ連れてって!!」


 悩んだ挙句、俺は最悪の事態を想定しジローさんと四門さんに連絡を入れた上で誘いに乗る事にした。そして案内されたのは個室の中華料理店だった。内緒の話をしたいのは本当なようだ。


「じゃあ先に私が入りますんで呼んだら来て下さい」


 それに頷くと小谷が入ってすぐに入室の許可が下りた。そして中に居た人物に驚かされた。


「しつれっ……って……レナ、さん?」


「ええ、久しぶりねセイメーそれと泥棒猫ちゃん?」


 夜の街のナンバーワン、そして俺が中学の頃から世話になっていた女性、レナさんがそこに居た。恰好は夜の街とは全然違って地味目だがオーラが微塵も隠れていない。まさに夜の蝶の最高峰だ。


「あぁ……そう言う事、アタシ分かったかも星明」


「理解が早くて助かるわ小娘、じゃあ私のセーメイ返してくれない?」

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