第163話 原因発覚? その1


「院長!! 静葉さん!? お客様が――――「失礼、入りますよ葦原院長? かまいませんね?」


 それだけ言って一方的に病室内に入って来たのは件の春日井さんだった。今日はメガネを外していた。三日前に会った前回とは雰囲気が違って見える。


「君か……他の者は通常業務に戻るんだ!!」


 ドアの前で俺と父のにらみ合いを見てしまった看護師らが慌てて立ち去るのを確認すると春日井さんがドアを閉め俺たち四人を見て溜息を付いた。


「さて、状況説明……していただけますか?」


「そ、それは……」


 静葉さんがチラリと俺と父を見て最後に綺姫を見て言うと春日井さんは困惑した後に「オーケー」と呟くように言って咳払いをする。そして再び口を開いた。


逼迫ひっぱくした状況のようで……なら僕から先に用件を言わせて頂きます。僕は君を監視しに来たんだ。去る人物からの依頼でね」


「監視? 俺を?」


 その言葉に口元に笑みを浮かべると俺達に向かって改めて自分の立場を説明すると春日井さんは語り出した。



――――綺姫視点


「つまり今の僕は千堂グループの社員、いやエージェントで有りながら同時に別な人物の依頼でも動いている状況なんだ」


「それって二重スパイって事ですか?」


 星明が言うと春日井さんが曖昧な笑みを浮かべたのを見て私は安心していた。実は星明が眠っていた三日間で今は居ない奥さんの狭霧さんと一緒に春日井さんは二回もお見舞いに来てくれて話もしていた。


「そういう仕事もするけどグループと依頼人の橋渡しがメインだ。ただ、その依頼人が今回は君の監視を頼んだという訳さ」


 そして狭霧さんいわく、この顔をしている時は普段モードだから信用して大丈夫だと教えてくれた。何でもクールモードと俺様モードなる多重人格のように口調が変わる時が有るらしい。


「なるほど、その人は誰ですか?」


「残念だが”彼”としか言えない約束なんだ」


 昨日、春日井さん夫婦から聞いた話では依頼者は悪い人では無く監視というよりは星明と私を見守る事が本来の仕事だったらしい。ところが星明の症状の進行を見て方針を変え積極的に動いたと説明された。


「まさか、政府の人間なんて言いませんよね?」


「政府……か、そんなレベルなら良かったんだけどね」


 星明が冗談半分で言った言葉に私は笑いそうになったけど大人三人の表情を見て思っていた以上に深刻みたいだと思い知らされる。


「分かりました。では俺を監視の理由は病気関係なんですね?」


「そうだよ。Ⅰ因子による暴走と破壊衝動を止めるのは僕らの、いや世界の急務だ」


 世界って……政府とか国とかじゃないってそういう意味なんだ。でも気になったのは一つの単語、恐らく星明の病名? みたいなのだ。


「あい、因子?」


「何ですか? それ?」


 私の言葉に続くように星明が言うと春日井さんも頷いた。静葉さんやお義父様も気になるようで春日井さんを目で促している。


「因子とは言うけど僕らはⅠウィルスとも呼んでいる。傾向としては基本的にはキャリアーの罹患者が多く発症例は過去に二件だけ」


「あ、あのぉ……春日井さん。意味が、分からない、です」


 半分以上何を言ってるか分からないから手を上げると春日井さんは『普通の女子高には少し難しいね』と言って破顔すると場の空気が和む。だけど今の私の言葉が気に食わなかった人物が一人いた。


「ふんっ、こんな事も分からんとは、やはり卑しい生まれか」


「 医者という割には知識だけが先行し周囲を見る事が出来ないんですね、それで患者のケアとか出来るんですか、父さん?」


 そして即座に私を守るようにお義父様に食って掛かったのは星明だった。やめて~今は私のために喧嘩しないで~。


「二人とも今は天原さんへの説明が先です。さて、この病気はウィルス性に近い物なんだけど感染しても普通は病気にならない人がほとんどなんだ」


「そうなんですか、じゃあ星明は珍しいって事ですか?」


 そんな病気になっちゃうなんて運が無いな星明もと言うと春日井さんは今の話に付け加えるように説明を再開した。


「う~ん、そこが少し面倒なんだけど結論から言うと葦原くんがのが原因なんだ。むしろ心が強いから選ばれてしまった。いや、発症したと見るべきなんだ」


「どういう意味ですか?」


「あの、春日井さん……まさか心因性の感染症なんて言いませんよね?」


 星明も疑問符を浮かべて静葉さんも続いて質問するが今のは私でも分かった。心が原因で感染した……という感じだと思う、たぶん。


「その通りです。ただ感染条件が極めて複雑で正直な所、僕はこれを感染症と呼ぶのはいささか無理があると……っと、すいません脱線してますね」


「いえ、大丈夫です。俺が特殊なⅠ因子ウィルスが原因で暴走するのは分かりました。それで監視していたのも……」


 つまり整理すると星明の病気の原因がⅠ因子、それで暴走する。で、それは世界で二件しか見つかってない特殊な病気で原因は星明が強いから? うん、意味が少しも分からない。


「じゃあ、これで僕の説明はおしまい。次は君のターンだ」


「それは質問しても良いという意味ですか?」


「その通り」


「では、俺の病気は……そのⅠ因子って治療が可能なんですか?」

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