第164話 原因発覚? その2
◆
――――星明視点
一番気になるのはそれだ。俺の病気は治るのか。治りさえすれば俺は今度こそ誰彼構わず襲うなんて奇行は起こさないし何より綺姫の負担が減らせる。大事な彼女を守ることが出来る。
「それは現時点では難しいとしか言えない」
「そう……ですか」
「だが心配しないでくれⅠ因子の除去と研究は千堂グループも”彼”も急務だと考えている。現に君の抑制剤を作っているのはグループの研究者なんだ」
俺の症状を抑えた例の薬の出所は千堂グループだったのか。そんな風に思っていると父が口を開いていた。
「春日井くん、その抑制剤があれば星明は正常でいられるのだな?」
「数年は大丈夫だとグループの研究者は試算しています。ただ今回は星明くんに合わせて作った専用薬、そのプロトタイプで一時的に抑えているだけだそうです」
俺専用に薬を調合したのか。新薬の研究はそれこそ長い年月と膨大な予算をかけて行われると聞くが、それを俺のためだけにしたと春日井さんは言ったのだ。それを聞くと静葉さんと父も驚いていた。
「星明くんに合わせて作ったですって!?」
「……つまり未認可……いや、それどころか」
「ええ、表には絶対に出せない薬です。臨床試験の報告も受けましたが効果が彼にしか出ない薬で数ヵ月で作られた突貫作業の新薬です」
新薬を用意し抑えるまでしないと危険な病気だとは思わなかった。原因不明だし奇病だとは思っていたが、まさかここまでなんて完全に想定の範囲を越えていた。
「あ、あのぉ~、春日井さん良いですか?」
「なんだい天原さん?」
その状況を黙って聞いていた綺姫がおずおずと手を上げると少し恥ずかしそうに口を開いた。
「えっと……じゃあ何で星明、アタシとエッチした時は治ったんですか?」
「「「あっ……」」」
当たり前過ぎてすっかり忘れていた。俺や他の大人も言われてから気付くほどで確かに綺姫とした時は他と違って症状が大幅に緩和されたし抑制もされ安定していた。
「ああ、その説明を忘れていたよ。Ⅰ因子は先ほども言ったけど心が原因で発症する。正確には強い意志を持つ者に対してのみ発症する。だから心因性と呼ばれているそうだ。そこで問題だ天原さん」
「は、はい!!」
「葦原くんが強い意志を持つ原因、つまり動機は何だと思う?」
強い意志、原因って……まさか、いや、それなら納得は出来るけど。でも、そんな事が有り得るのか?
「え、え~っと、わ、分からないです」
「綺姫だ……」
そう、俺の心の支えは綺姫だ。綺姫に笑っていて欲しいから彼女を守るためなら俺は何でもやった。それこそ周囲の人間全員に嘘を付いたり綺姫本人ですら騙してまで彼女を守ろうと必死だった。俺の行動の原因は全て綺姫だ。
「分かったようだね葦原くん……そう、君の病が進行し症状が変化したのは天原さんを守るという意志がより強固になったからだ。そして、その意志は同時に因子に対し最も強い免疫力も持つと研究結果が出ている」
「えっ、そ、そうなんだ……なんか嬉しいけど、複雑なような」
綺姫としては複雑なのは当然だろう。病気の原因と抑制の両方が綺姫に端を発しているとは言い換えればマッチポンプに近い状態だ。
「つまり原因も全て綺姫ちゃんなのね春日井さん?」
「そうなりますね静葉さん」
春日井さんが俺と綺姫を交互に見た後に静葉さんに答えたが彼女は頷きながらも何か疑問が有りそうな表情をしているのが気になった。その間にも春日井さんの話は続いていた。
「そして僕らは天原さんのような存在を
安全装置……言い得て妙だが俺の安定のための綺姫というなら納得だ。俺を暴走から守り安定させられるのは綺姫だけだし周囲に対して安全を確保できる能力は文字通り安全装置と呼ぶしかないだろう。
「……でも、やっぱり変よ」
「何がですか静葉さん?」
「だって星明くんの発症が確認されたのは小学生のはずよ、最近出会ったばかりの二人じゃ今の話は成立しない」
そうだった俺の感染は綺姫と出会う前だ。春日井さんの話に引き込まれ静葉さんに指摘されるまで納得してたが明らかに矛盾している。
◆
改めて俺の過去を整理する。俺が家を追い出されたのは中学の終わり頃で原因となった症状は小学生当時に出ていた。つまり発症は小学生頃と考えるのが自然だ。
「だから今の話は無理が有ると……って、あなた?」
「やはり、そういう事か春日井くん」
静葉さんの言葉を無視して父だけが複雑な表情をして春日井さんに話しかけていた。その様子に蚊帳の外の俺達は黙って二人の話を聞くしか無かった。
「ええ、調べはついてますよ葦原院長……証言も証拠も有りますし、たとえ本人達は忘れていてもね?」
そう言うと春日井さんは俺と綺姫を見て苦笑している。何やら二人にはまだ隠し事が有るらしい。
「何の話ですか二人とも?」
「葦原くん、それに天原さん、二人は八年前から前の記憶は有るかい?」
「「えっ?」」
八年前? つまり俺達が9歳前後の時だ。あの頃は母も離婚して無かったが、俺はトラウマ的なシーンを見たせいで逃げるように外で遊んでいた。それ以外は……あれ? そういえば他は特に覚えて無い。
「アタシは……幼馴染と遊んでた……はず?」
「それって須佐井と?」
「えっと……た、たぶん?」
更に前の記憶を思い出そうとしたが俺も綺姫も記憶が曖昧だった。そういえば幼馴染という割に綺姫は須佐井との思い出は例のカチューシャの話以外は全て中学以降の話ばかりで、よく有る小さい頃の思い出が少ないと思う。
「確定だ……やはり感染者は二人だったか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます