第85話 絶体絶命
「はぁっ!? 陰キャが何言ってんだよ!!」
「あくまで俺は彼を代弁しただけだが?」
そう言って俺は須佐井の取り巻き二人を注視する。さあ、どう動くかな? 今ならお前らは助かるぞと俺は見た。そして俺の狙いは結実した。
「えっと、矢野……そ、そう、だよな~!?」
「ああ榊、だって俺らタカが天原のこと本気で心配してると思ったから、それなのにクラス全員を騙していたんだ!! ケンカの話も!!」
素晴らしいぞ榊ここまで堂々と裏切ると逆に不安になるが今回は大成功だ。そして矢野の方は本気で騙されてたっぽいな……だが、これで須佐井の味方はゼロになる。ヒソヒソと女子の話声も良いアクセントになって須佐井の顔は真っ青だ。
「それで須佐井くん? 信頼する友人はまだいるかい?」
(お前のクラスでの力、全部奪ってやる。今後の綺姫の学校生活のために!!)
「ふっ、ふざけんな!! 陰キャメガネぇ!! てめっ――――」
だが須佐井が言い終わる前に教室のドアが乱暴に開かれ女子生徒が一人ダッシュで出て行った。何だ? 今の動きは? 思わず海上を見るが首を横に振られる。どうやら作戦に関係無い動きのようだが、ここで俺は綺姫が居ないのに気付いた。
「あれ? 綺姫?」
「葦原……あそこで何か話し込んでるから見て来るね」
浅間に言われ見ると綺姫が女子生徒たちに囲まれて笑っている。その笑顔は一学期に見たもので日常に綺姫を戻すことが出来たと実感できた。だから思わずフッと笑みがこぼれる。
「ふっ……良かった綺姫、日常に君を戻せて……俺は」
しかし俺は知る事になる。油断すると必ず隙が生じ失敗するということを『勝って兜の緒を締めよ』という言葉の意味を身を持って体験することになる。俺は追い詰め過ぎた相手の暴走というものを計算に入れてなかった。
「てめえ、てめえ!! 陰キャメガネえええええ!! 今、俺を笑いやがったな!!」
「葦原!! 危ないっ!!」
俺が目を離したほんの一瞬だった。海上の助言も虚しく俺は須佐井に飛び掛かられて次の瞬間、左頬に衝撃が走った。ジローさんほどじゃないけど結構痛い。
「がっ……ううっ」
「へっ!! 口だけの陰キャが!! 最初からこうすれば良かったんだ!!」
俺は顔面への一発をもらった後に教室の机や椅子と一緒に床に倒れた。机や椅子が散らばり大きな音と同時に女子の悲鳴も聞こえたが、それを聞く間も無く次の攻撃が俺を襲う。
「ぐっ、がはっ!?」
「おらっ!! 陰キャ、こんの陰キャが!! ふっざけんな!! 口だけ野郎!!」
今までの鬱憤を晴らすかのように須佐井は一切の容赦無く俺を踏みつけた。大丈夫だ……まだ少し余裕は有る。な~んてカッコいいことを言いたいが実際キツい。
「ぐっ……あぐっ!?」
「アハハハハ!! 最っ高だぜええええ!! おらっ!!」
少し意識も朦朧とするのは頭を打ったからかも知れない。踏みつけられ腹や胸も痛んで呼吸も苦しくなって来た。女子の悲鳴が更に大きくなり教室の中は一気に混乱の
◆
――――綺姫視点
「星明!?」
「アヤ、ストップ!! 出て行ったらアンタも巻き込まれるから!!」
須佐井が逆上して星明に殴り掛かって今は踏みつけていた。そして口の端から血を流す。まるで、あの日の夜のようで私は一気に頭が真っ白になった。
「で、でも、星明が!!」
「ちょっと男子ぃ~!! 誰か須佐井くん止めて!!」
誰かが叫ぶ中タマが教室を出てどこかに走って行くのが見えた。それより今は星明を助けようと動く私を咲夜が必死に止める。危険なのは分かるけど星明は踏みつけられ声を上げている。許せない……ズキンと頭が痛むくらい嫌な光景だ。
「で、でもよ……」
「あっ、ああ……だって、さぁ」
「ほんと誰か須佐井を止めて~!!」
サワっちや他の女子が悲鳴に近い叫びを上げるが男子は及び腰だ。取り巻き二人もどう動くか悩んでるみたいで遠巻きに見ている。このままじゃ星明が……。
「陰キャは這いつくばって!! 俺の下で!! 不様に倒れてるのがお似合いなんだよカスが!! 死ねよカス!!」
「星明っ!!」
動こうとすると咲夜と他の女子たちに先生が来るまで待とうと言われ押さえられてしまう。もがくけど三人相手で私は動けなかった。
「ぐっ……はぁ、最後は、暴力か、ほんとにサイテー……だな須佐井?」
「うるせえ!! 死ねよ陰キャあああああ!!」
そして須佐井が近くの椅子を掴むと星明に向かって振り下ろそうとした。私は最後の力で皆を振りほどくと星明の方に向かって走りだす。
「星明っ!!」
「あ、綺姫っ!? くっ!?」
だけど私の行動は失敗だった。私に気付いた星明が素早く立ち上がって逆に庇おうと私を背中から抱き締めて須佐井の攻撃からを私を守ろうとしてくれた。私は怖くて目をつぶってしまった。
◆
――――星明視点
「ぐっ……」
「あっ……うっ」
次に来るはずの衝撃に備え俺は綺姫を守るため抱きしめた。須佐井が椅子を振り上げる所までしか見れてなかったが、あれが振り下ろされれば俺は大怪我を負うだろう。だが、それでも綺姫は守れる。
「くっ……あれ?」
「え?」
だが俺達に対して来るはずの衝撃も痛みもいつまで経っても襲って来なかった。恐る恐る俺は目を開くと背後を見た。
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