第109話 天国と地獄 その1
須佐井父の言葉を受け俺と綺姫が固まった。他の大人たちは俺達に怪訝な目を向けて来るが今はそれどころじゃない。
「え?」
「ああ失礼、忘れてたよ」
その須佐井父の言葉は理解が出来た。綺姫が小さい頃それこそ小学生の低学年の話で、それ以来会ってないから綺姫の容姿も変わっている。それに綺姫も合点がいったようで口を開いた。
「昔ですし覚えてないのも――――「昔? 先日の病院のロビーの話では?」
「「えっ?」」
「病院で御曹司の隣にいたのが君だったのを忘れていたよ」
そして再度、俺や綺姫それに静葉さんに家族の非を詫びた上で気絶している妻を抱えると校長室を出て行った。
「……綺姫さっきの」
「大丈夫だよ……それより体は大丈夫?」
それに頷いて今度こそ俺たちを取り巻く一連の騒動は終わりを迎えた、新たな謎を残して……。だけど今は須佐井も追放できたし校内で綺姫の安全が確保できたし良しとしよう。
◆
――――須佐井尊男 視点
「ううっ、離せぇ……」
あの陰キャ野郎、アッシーに殴られ俺の自慢の顔はボロボロだ……ちくしょう。しかも今は廊下を警察に連行されて見世物になってる。
「うわぁ……」
「下着ドロがこっち見てる、こわ~い」
「きんも、こっち見んな女の敵!!」
一学期まで俺に媚び売ってた女どもが一斉に俺を見下しやがって、俺だってお前らブスはお断りだ。
「は~い、道を空けて下さい!!」
それにしても、この優男の力が強過ぎる。柔道で体を鍛えてる俺の力でビクともしねえなんて達人かも。だが急に俺の顔に冷たい何かがぶつけられた。そのままタラ~っと卵の黄身が落ちて制服が汚れる。
「ってぇ……んだよぉ……」
「君、止めなさい!!」
見ると二年のネクタイをした冴えない男がいた。そいつが俺を睨み付けている。ブサイクが俺様を見るんじゃねえよカスが。
「お前が
「はぁ? 誰だ、それ?」
女なんて高校に入ってアヤの代わりに何人も抱いたから覚えてねえ。それで後始末に金が必要になった。しかも金は姉ちゃんに借りるのも限界で、だからアヤのブラとパンツは高値で売れて助かった。いい匂いもしたしよ。
「お前のせいで妹は!?」
「君、これ以上はコイツのように連行することになるが?」
刑事が言うと悔しそうな顔をしてて胸がスカッとする。雑魚キャラは下がってろよ世の中はイケメンが優遇されんだよボケが。
「……何もしてくれなかった警察の癖に……くそっ!!」
「とにかく道を空けて、君も何か有るなら後日ここに連絡しなさい」
「工藤、早く行くぞ!!」
だけど見世物状態は終わらず俺の屈辱的な扱いは続く。浴びせられる罵詈雑言に舐め切った視線は屈辱だ。学校に戻ったら女は全員犯してやる。そのまま連行され気付けばパトカーの前に俺はいた。
「ウチら須佐井くんのクラスメイトで~」
「最後の挨拶、ダメですか?」
「俺が見てるんで先輩、先に車で」
女の声がするから顔を上げるとそこには最悪な顔が二つ、海上と咲夜だ。アヤを使って後から抱こうと思ってたクラスの二人だ。だけど俺を裏切って陰キャ側に付きやがった。
「お、おまえら……」
「須佐井、ずいぶんイケメンになったね?」
「ほんとウケるわ~、犯罪者さん?」
陰キャにボコボコにされた顔を見て煽りやがって……許さねえ。でもコイツらを使えば上手く逃げられるかもしれないナイスアイディアだ俺。
「お前らが俺を裏切らなければ……でも今からでも逃がすなら」
「はぁ……裏切るとか、ウチらはアヤの親友で最初からお前はオマケだから」
「そうそ、アヤ抜きなら最初からお断りだし」
「は? でも俺はイケメンだぞ?」
こいつらが何を言ってるのか理解できない。俺はイケメンだから女を抱いてやってるんだ。女も喜んで抱かれてた奴ばっかだった。でも何人か抵抗したけど面倒だから買った薬で眠らせて楽しんだな。
「マジキモい、あと退学が決まった須佐井に良い話を聞かせてあげる」
「は? 俺が退学ぅ~? てか良い話とか何言ってんだ?」
「あんた逮捕されてんだから一発退学でしょ諦めな、じゃあタマ、後よろしく」
そう言うと咲夜は刑事の方に行って何かを話していて海上が俺を見て口を開く。
「それじゃ良い話だけど……アヤの初めての相手は葦原だよ」
「は?」
言ってる意味が理解できない。あんな一生童貞くさい陰キャが俺のアヤと……チョロいと思ってたのに仲良くなってから無駄にガードが硬くて三年もかけたアヤと奴が寝たのか?
「アヤの初体験は、あんたが見捨てた日の夜に葦原に優しく抱いてもらったって」
「は? あのクズ陰キャが!! 俺より先に!!」
あんな陰キャのクズ野郎がだと? 俺だって下着でサイズをやっと知った、あのエロい体を味わったのか……いや待て、じゃあコンビニで会った時は既にあいつはアヤを抱いていたのか。
「まあ聞いてよ、それをアヤは嬉しそうに話してアンタにも感謝してたよ」
「は?」
アヤが俺に感謝だと……ま、そうだろうな俺はイケメンだから感謝されるのは当前だ。そのまま海上を見ると俺に笑顔を向けた後に耳元で叫んだ。
「あんたが腰抜けで自分を捨ててくれたから大好きな星明に初めてをあげられたってさ!! じゃあねクズ野郎!! 一生ウチらの前に現れんな!!」
いきなり俺の大事な急所を思いっきり蹴り飛ばしやがった。その激痛に俺は悶絶し崩れ落ちる。
「うっ、ああっーーーー!? うぅ……ぐっ……」
ちくしょう……いてえよママぁ……。その痛みに苦しみながらまた気を失った。
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