第108話 怒りの覚醒
「ううっ……ひどい、こんなの……ひど過ぎるよぉ……」
「綺姫!!」
もう色々と限界で涙が止められなかった。声が聞こえたけど今は感情がぐちゃぐちゃで分からない。ただ悲しみだけが私を支配して訳が分からなくなって来る。さらに畳みかけるように須佐井が口を開いた。だけどその内容は衝撃的だった。
「あ~、ウケんだけど、お前が泣いてんの初めて見た、いつもバカみたいに笑ってて……すっげえウザかったんだよ!!」
「……え? 今……何て言ったの?」
「ああ言ってやるぜ!! 昔からウザかっ――――「もう黙れええええっ!!」
後ろから凄い速さで何かが通り抜けたように感じた瞬間、須佐井は拘束していた警官ごと殴り飛ばされていた。
「星明っ!?」
「はぁ、はぁ、僕のヒメちゃんを……泣かすなああああああ!!」
「えっ!? な、何で星明が……」
それだけ言うと星明は逃げようとする須佐井を捕まえ殴り飛ばして掴んで、また殴った。でも私の小さい頃の呼ばれ方を何で星明が……?
「なんでだっ!? うげっ!? 陰キャに負けるとかありえねっ――ぐほっ、うっ」
「お前が、ヒメちゃんを泣かすなら……僕はっ!!」
でも今は悩んでる暇は無い。だって星明の目が普段の症状が出た時よりも数段は狂暴な目に見える。これがジローさん達が言ってた時の暴走かも知れない。私の知ってる症状が悪化した時の比じゃない程に星明の目が血走ってる。
「葦原くん……もう気絶しているから、止めるんだ!!」
「え? 僕は……うっ、くっ……はぁ、はぁ……俺はこいつを!!」
「ぐっ!? 凄いっ……これが、例の因子!?」
星明を押さえ付けながら工藤警視が何か呟いているけど私は自分のやることを思い出す。泣いてる場合じゃない、これは私にしか出来ない私の役割なんだから。
「綺姫ちゃん、今は危ない!! 星明くんの症状が出てる」
「天原さん下がって」
静葉さんや竹之内先生が言うけど私は構わず押さえられてる星明に一目散に走り出した。そして工藤警視を突き飛ばして抱き着いた。
「うわっ!? いてて……こっちもすごい力だ……」
「何してんだ工藤!!」
後ろで刑事さん達の怒声が聞こえたけど私は構わず星明に深く深くキスをした。やっぱり私はバカだから、こうやって体を使って止めることしか出来ない。
「星明、大丈夫だよアタシ、もう大丈夫だから!!」
「ヒメ……ちゃん?」
「んっ……ちゅっ、ふぅ……今、助けるから!!」
そう言って何度もキスをする。すると星明の眼から力が抜けて行き徐々に優しい目付きに、昔から私が大好きなあの目に戻って行く。
「あや、き……」
「もしかしてまだ足りない? アタシはいくらでも!!」
「い、いや……もう大丈夫!! 大丈夫だから……それより離れて」
星明が私の肩を掴んでゆっくり離れようとしたから私は逆に抱き着いた。
「いや!! もう少しだけこのまま」
「で、でも……皆に見られてるよ?」
そう言われて私は廊下にいた生徒たちに注目されているのに気付いた。だから恥ずかしくなって星明に抱き着いて顔を隠した。そんな私を星明は優しく撫でて次の瞬間には大喝采が私達を包み込んだ。
◆
――――星明視点
「綺姫、もう立てる?」
「い~や立てない♪ それに恥ずかしい~♪」
その割には声が弾んでるのは気のせいだろうか。一人で立てないと言って抱き着いたままなのは確信犯だろうが気付かない振りだ。
「はいはい皆さん離れて~、先輩とにかく被疑者の確保を」
「もうやってる!! ほら立て!!」
野次馬をどかしながら工藤警視たちは廊下で気絶している須佐井を部下達に指示して確保していた。しかも逃亡されないよう手錠もかけている念の入れようだ。
「うわぁ……マジじゃん」
「須佐井先輩、逮捕されてる~」
「てか下着泥棒とか」
生徒たちがザワザワし出してスマホで撮影している生徒も出る始末だ。そんな中で工藤警視が振り向いて苦笑していた。
「では、我々はこれで被疑者確保のお手伝い感謝します葦原くん、天原さん?」
「ううっ……」
「急いで署に連行するぞ!!」
須佐井が目を覚ましたようだが既に警官二名に拘束されている上に警視たちも今度は逃がさないよう警戒している。もう未成年でも手加減する気は無いらしい。
「は、はなせぇ!! 何だこれ? どうしてだよおおおお!!」
最後に叫んだまま須佐井は連行されて行った。そして工藤警視たちが居なくなった瞬間、廊下は再び大騒ぎになったから俺達は教師陣に急いで校長室に戻された。ちなみに須佐井母が先ほどから静かなのは失神したからだ。
「須佐井さん、さすがに……もう」
「ええ、息子の退学処分、謹んで受けさせて頂きます」
さらに須佐井の父は後日、改めて話し合いの場をと言い出した。俺と綺姫にも正式に謝罪し俺の怪我の賠償も弁護士を通して話したいそうだ。これに静葉さんや竹之内先生も同意し学校側は即日、須佐井尊男の退学処分を決定した。
「……その、尊男のお父さん?」
「何かな天原さん?」
そして全部が終わったタイミングで少し震えながら綺姫が口を開いた。
「あの、前に会った時と少し雰囲気が違うなって……」
「ん? 失礼だが君とは今日が初対面では?」
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