第107話 絶望は突然に その2


「なんで、こんなタイミングで」


「そんなの知りませんよ……捜査協力しろって言うだけで」


 教頭と男性教諭がダダ漏れの会話をしているとコンコンとノックの音がした。そしてイライラした感じで何度かノックが続く。


「校長、どうします?」


「別室で待ってもらっ――――「その必要は有りません、すぐ終わりますのでね?」


 強引に室内に入って来た背広姿の人物の二人の内の一人を俺は知っている。過去に二度ほど会ったことの有る知り合いで驚いた。


「工藤警視!?」


「やあ、すこ~しお邪魔するよ葦原くん、それに天原さん?」


 気さくに挨拶してきた人は以前にも綺姫の件で俺達の前に現れた人で、もう一人も見覚えが有ると思っていると綺姫が「取り調べの人だ」と呟いた。だけど警察官が何の用だろうか謎だ。




「奥さま、まさか子供のケンカに警察を介入させるのですか!?」


 須佐井父の言葉に全員が静葉さんを見るが答えは違った。静葉さんは警察を呼んでいないし関係も無いと言った。本当に困惑していて一同の動きが止まっていると意外な人物が口を挟んだ。


「優人さん来るの早過ぎ、そもそもタイミング合って無いんですけど?」


 いきなり竹之内先生が愚痴っぽく工藤警視に言うと注目が集まる。呼んだのは先生だったのか、それに苦笑して手を合わせると謝罪しつつ工藤警視は言った。


「いや、実は別件で今回は上の言う通り動いてるだけでさ……」


「ちょっと、それ私も聞いて無い!! まさか七海先輩関連ですか!?」


「それは後でリアムさんから話行くから……とにかく落ち着いて霧華ちゃん」


 なおも食い下がる竹之内先生を必死に落ち着かせようとする工藤警視の構図はどう見ても警察と弁護士には見えなかった。すると隣のもう一人の刑事がうんざりした様子で二人に話しかける。


「工藤、それより俺の方を先に済ませたいんだが?」


「はい、お先にどうぞ先輩」


「お前も向こうで大変だな……さて、じゃあ一緒に来てもらうよ須佐井尊男くん?」


 そう言うと隣の先輩刑事は須佐井の前に来て近くのガードマンにも拘束を解くように言った。頷いて二人が離れると竹之内先生と目が合ったように見えた。


「は? なっ、なんだってんだよ~!!」


「うちのタカちゃんを皆して何なのよ!?」


 ヒステリックに叫ぶ須佐井と母は滑稽こっけいだが事態の急展開に俺も綺姫も付いて行けなかった。この場の刑事たち以外は誰も理解が追い付いていないだろう。


「お母さん、申し訳ありませんが彼を署まで連行しますのでご同行を」


「その、刑事さん、さすがにいきなりは……」


 そう言って止めようとする須佐井父だが顔は真っ青だ。向こうからすれば一難去ってまた一難といった心情に違いない。しかし刑事は無情にも懐から紙を取り出し言った。


「もう紙は出てるんですよ、お父さん?」


「ぐっ……尊男、お前……窃盗に住居侵入など何をしでかした!?」


 令状を見て驚愕の表情を浮かべ叫んだ須佐井父は床にへたり込んでいた。須佐井母は狂ったように「タカちゃんが~」と騒いで大混乱だ。


「まさか……何でだよぉ~!? 足は付かないって……くそっ!?」


「須佐井が逃げた!!」


 俺が言うと須佐井が脱兎のごとく逃げ出しドアを開けている。


「大丈夫だよ葦原くん」


 工藤警視が俺の声を受けたが余裕な表情で言うが須佐井は廊下に出ていが、そこまでだった。廊下で「ぐえっ!?」という悲鳴が聞こえ俺たちも外に出ると既に制服警官に取り押さえられ抵抗する須佐井がいて廊下は騒然としている。


「廊下にも……警官が」


「そりゃ基本さ、逃亡も証拠隠滅の可能性も有るからね……そうだろ? 下着泥棒の須佐井尊男くん?」


 そして工藤警視の言葉に俺達や廊下にいた生徒たちは今の耳を疑う言葉に一瞬だけ沈黙し、次の瞬間には大騒ぎに発展した。



――――綺姫視点


「あ、あの……刑事さん、今のって……」


「すまない……君の耳には入れる気は無かったんだが、ついね」


 その工藤警視の言葉で理解した。そういうことだったんだと全部納得した。この間の父さんの話を思い出すと辻褄も合う。だって須佐井は私の家の鍵を持ってるし、それ以前から家に出入りもしていた。


「じゃ、じゃあ……やっぱりアタシの下着を盗んだのは……」


「それは、この場では……」


 質問する私に刑事さん達は口をつぐんで沈黙した。でもそれが答えだと理解して私も黙っていると発狂したように叫んだ人がいた……須佐井の母の波江さんだ。


「ありえません!! うちの……うちのタカちゃんが、タカちゃんが下着泥棒なんてありえませんのおおおおおおおお!!」


 そして盛大に自爆した。これが夏休み前に私の家で起きた事件の犯人が須佐井尊男だと全校中に知れ渡った瞬間だった。


「そんな……尊男、なんで……ど、どうして?」


 昔の呼び方に戻るくらい動揺している私に須佐井は逆上し叫んだ。


「お前が……お前が悪いんだ!! 変な奴らに連れてかれて二度と戻って来ねえと思ったから、だっ、だから!! お前のパンティーくらいカレシになる予定の俺が好きにしても自由だろっ!! 何が悪いんだよ!!」


 その言葉に私は愕然として固まって次の瞬間には涙が頬を伝っていた。

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