第195話 最悪の覚醒と世界の真実 その2
「な? 紛い物?」
「星明~!! すっごいよ~!!」
俺の今の脳内に出た謎の感想をかき消すように聞こえたのは最愛の人の声。思わず振り返ると泣き笑いの顔をした綺姫がいた。
「綺姫……」
「良かった~、あとカッコよかった!!」
また抱き着かれるとホッとする。今度こそ正真正銘あいつから須佐井から綺姫を守れたと実感した。
(どうだ? 素晴らしいだろう俺の力は?)
「えっ?」
誰かの声が聞こえた。どこからだ? 頭に響くように聞こえたが綺姫や先生それに周囲の人間の誰も気付いていない。気のせいかも知れないが嫌にクリアに聞こえた気がした。
「星明?」
「ああ……ごめん、でも大丈夫だよ」
「本当に大丈夫か葦原!?」
綺姫と工藤先生が不安そうに声をかけて来るが問題は無い。むしろ問題が有るとすれば奴らの方だと思う。そうして俺は廊下の奥へ視線を向けた。
「グルゥアァ……オデが陰ギャなんかニぃ……マゲダァ?」
「「陛下!?」」
そして赤ローブの肌が青い変な奴らも生きている。だからトドメを刺さなくてはいけない確実に……そうだよな?
(ああ、そうだ大事な女を守るには必要な事だろう?)
「分かってる……そうだよな、なら倒さなくちゃ」
俺は自然と自分の中の何かに語りかけていた。それが何か分からずに恐ろしいモノとは気付かず答えていた。
◆
――――綺姫視点
「ほし……あき?」
「待ってて、ヒメちゃん……いま、始末してクルから……」
その言葉を残して星明は消えた。そのままの意味で私達の目の前から消えていた。そして次に見た時には廊下の端にまで飛ばされた須佐井たちの前に現れた。
「最悪だ……覚醒している」
「せ、先生? もしかして」
「もし今グループの部隊が来たら……来たのか!?」
先生が言うと同時に下の階で悲鳴と怒号が聞こえ現れたのは警察の特殊部隊みたいな恰好をした数十人の人達だった。更に後ろからは見覚えの有る女性と、その護衛と思しき警官までいた。
「何なのよこれ!?」
「先生どうなってんの!?」
タマと咲夜が工藤先生に詰め寄るけど先生は「下がってろ」と言うだけで特殊部隊と率いて来た女性、千堂グループ総裁の七海さんを見て目礼していた。
「ご苦労様です工藤先生、状況は?」
「まさか直接とはね……それに優人、お前まで……」
「それだけ危険なんだ兄さん」
その護衛の中には工藤警視つまり目の前にいる工藤先生の弟で私も取調べとかでお世話になった人もいた。
「工藤警視!?」
「やあ天原さん久しぶり、兄さんは厳しかったろ?」
前と同じく気さくに話しかけてくれたけど表情は以前より硬く廊下の向こうを見ている。その視線の先には星明と須佐井一派が居る場所だった。
「それで工藤先生いえ彰人先生、状況は?」
「……恐らくフェイズ3、半覚醒状態です……会長」
「そうですか、ふぅ……ただ今より対象を三名から四名に変更、可能なら捕獲を、最後に対象者、葦原星明は捕獲を優先!!」
その命令を受けて十数名の人間が一斉に動き出す。さらに七海さんの護衛の警察官や後から来た応援の警官らが生徒の避難誘導を始めた。だけど私は七海さんの口から出た言葉に衝撃を受けていた。
「あの、今、なんて? 聞き間違っ――――「現時刻を持って葦原星明、彼は世界の敵になりました……」
「は? え?」
星明が世界の敵? 意味が分からないんだけど……何を言ってるの? だって私達はグループに保護されるはずで意味分かんない。
「あの!! どういう事なんですか!?」
「あなたは……瑞景くんの……事情は聞いてると報告は受けましたが?」
タマが七海さんに文句を言ってるけど七海さんは冷静だった。私はそんな話を聞いて無いと言うと七海さんは溜息を付いて契約書を最後まで読んだかと言って来た。
「契約書?」
「ここの三番目の項目です。葦原くんは読んだ後に私に質問までして来ましたから理解してると思っていましたが?」
そういえばクリスマスの時に星明が何度か質問してたけど私は書類へのサインに忙しくて読んで無かった。
「え~っと、そのぉ……」
「では改めて、対象者甲と乙(葦原星明と天原綺姫)の因子が制御不能または発現した場合は強硬手段を持って鎮圧、不可能な場合は駆除対象となる、ここです」
「本当だ、書いて有る……アヤ」
横で咲夜が覗き込んで見た後に「物騒な契約書」とだけ言っていた。こ、こんなの私は知らないし読んで無かった。
「恐らく葦原くんは貴女に心配をかけないように教えなかった……そんな所でしょうね、そこで伸びてる私の後輩にそっくりです、救護班!!」
七海さんが叫ぶと信矢さんは、お腹から血を出したまま運ばれて行った。そして下の階で「シンのバカ~!!」と聞き覚えの有る声が響いていた。
「あ、狭霧さんの声……」
「こんな事だろうと思って連れて来ました、そして現有の最高戦力も……頼みますよ秋津さん?」
「ああ、分かってるぜ、お嬢じゃなくて会長……アキさんは行けるか?」
そして護衛の警察官に紛れていたのは千堂グループのロゴの入った制服を着た人だった。私はその人にも見覚えが有った。
「あっ、『しゃいにんぐ』の店長さん!?」
「おう、天原は下がってろ心配すんな弟子の兄貴を助けるくらい俺が何とかしてやるからよ、良いな会長?」
そこに居たのは星明の弟つまり香紀くんの道場の師匠で以前にも助けてもらった秋津愛莉さんの旦那さんだった。もっと言うと香紀くんを取り合ってる秋津家の長女の海咲ちゃんのお父さんだ。
「あの、一体どうなってるんですか!?」
「メンドイ状況だが一言で言うとヤベー魔王が葦原の中から出て来そうで俺らが気絶させて入院させるって話だ。ちなみに須佐井とかいうガキは手遅れだ」
いよいよ私の理解が追い付かないし意味不明過ぎてポカンとしていると七海さんが慌てたように口を挟んで来た。
「あのですね勇輝さん、世界の記憶が封じられてる今の段階で封印対象者に説明はダメだとあれほど……記憶の齟齬も激しくなるから危険です」
「わりいわりい会長、隠し事は苦手でな、それに隠すのも限界だろ? 今回は処理できても次は分からないしな」
そんな話をしながら秋津さんは腕に銀色の肩から腕を覆うような手甲のような物を装着していた。後で聞いたらガントレットW01式という物と言われたけど意味不明だ。
「では改めて対象者三名を殲滅、一名を確保……なお最悪の場合を想定し例の国とのホットラインを繋げます!! 時間は二十分です!!」
そう言ったと同時に秋津さんと特殊部隊の人達が動き出す。驚いたのは全員が星明と同じように目の前から消え次の瞬間には星明たちの周りに現れ包囲していた事だ。
「な、何なんですか!? あれ!?」
「まるで魔法じゃん……」
咲夜が言うと後ろの七海さんはニッコリ笑って私達に言った。
「正解です。あれは魔法を疑似的に再現した現象ですから」
◆
――――星明視点
綺姫と俺を狙う敵を殲滅するために俺は三人と戦闘に入っていた。だが力の増した俺の前に赤ローブ二人はアッサリ倒せたが須佐井は厄介だった。
「ギザマァ、やはりオリジナル……づよい」
「当然だ、不完全なコピーが完成されたオリジナルに勝てると思ったか? お前は保険なのだ……え? 俺は、な、何を?」
「ダガァ、支配権はマダァ、完全デハナイだろウ?」
「ソウダ、だが、ここまで覚醒できれば力は使える……だから、お前は用済みだバックアップ……消えよ、この体の持ち主もそれを望んでいる」
体が言う事を聞かない。それに俺じゃない誰かが俺の口を使って喋ってる。俺の体は一体どうなってる? だが俺を無視するように事態は更に混迷を極め進んで行く。
「大人しくしてろよ、葦原ぁ!!」
「ちっ!? この世界の住人カ!?」
俺じゃない俺、おそらく体のコントロールを奪っている奴が叫ぶと乱入して来た人には見覚えが有った。
(しゃいにんぐのマスター!? 香紀の師匠が何で?)
「一応名乗らせてもらう、千堂グループ総裁直属、武装班エージェント秋津勇輝だ。ま、勇者までの繋ぎは出来ると思うぜ?」
その言葉を発した瞬間、体のコントロールが弱まった。だから俺は叫んでいた。
「誰か説明してくれ!!」
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