第194話 最悪の覚醒と世界の真実 その1
「オレノ、オレノモノ、綺アアアアアアア!!」
「ヒッ!?」
星明が倒れたら次の狙いは私だった。もう私には恐怖しかなくて迫る悪魔に小さく悲鳴を上げるしか出来ない。
「アヤ逃げて!!」
その中で真っ先に声を発したのはタマだった。その声に私を含めた廊下の生徒達が弾かれたように動き出した。その中で須佐井は私に迫って来た。
「やらせるか!!」
だけど私に迫っていた須佐井は後ろから蹴り飛ばされていた。そして私の真横に着地したのは工藤先生だった。
「先生!?」
「すまない、起きるのに少し時間がかかった……歳は取りたくないな」
見ると先生は口の端から血を流してて背広の下のシャツは赤くなっていた。そして先生に後ろから飛び蹴りを受けて吹き飛んでいた須佐井は唸り声を上げて起き上がる。まるで獣のようだ。
「ギザマァァァ!! 邪魔、する……なぁ!!」
「これが半覚醒状態、快利の話だとフェイズ2か……完全体でも無いのに、厄介な」
「かい、りって誰ですか?」
「ふっ、俺の元教え子だ」
その名前を先生が口にした瞬間、立っていた赤ローブと須佐井の表情が変わった。更に星明に殴られていた赤ローブも飛び上がっていた。
「なっ!? カイリだと……」
「ま、まさか、元ゆっ――――「ああ、俺の大事な元教え子でお前らの天敵だ」
そう言って不敵に笑う先生だけど私や他の生徒を背中に庇いながら後ろ手に何かサインを出していた。それは緊急時に教えられていたサインで確か……。
(逃げろ……だったよね、このハンドサイン)
でも倒れている星明を放っておいて一人で逃げられないし、どうしようと思ったタイミングだった。
「うっ、くっ……まだ、だ」
星明が目を覚ましたから安心して思わずへたり込んだ。
◆
――――星明視点
どれくらい気を失っていたのだろうかと思うと隣で座り込んでいる綺姫を見て即座に起き上がった。
「綺姫、大丈夫?」
「それはこっちのセリフだよぉ~!!」
座り込んだ綺姫に手を貸して引き上げると胸に飛び込んで来て抱き着かれた。抱き締め返しているとゴホンと聞こえて見ると工藤先生が呆れた顔をしている。
「二人とも……気持ちは分かるが逃げろ」
「先生、どうやら逃げるしか……ぐっ!?」
「星明?」
体が熱い、燃えるようだ。これも因子の影響だろうか……だけど俺の因子が暴走すれば今の須佐井にも対抗は出来るのは証明済みだ。ならば今こそ戦うべきじゃないだろうか?
「ダメだ、それは……絶対に」
「工藤先生、ですが、ここは俺が!!」
まるで俺の考えを読んだかのように先生は俺の考えを否定した。エスパーか何かだろうか工藤先生はと思うが先生の話は続いていた。
「葦原、君の手にしている力は忌むべきものだ、ダメだ目覚めさせては」
「確かに須佐井みたいに狂暴な化物にはなりそうですが……」
「違う、違うんだ……あれは前段階、本当に覚醒したら、君は世界の敵になる」
世界の敵? いよいよもって先生の言ってる事が意味不明だ。そんな話をしている内に俺達の背後で須佐井が動き出していた。
「グルルウァ、陰ギャ、メガネェ……テメーが、テメーノォォォォ!!」
「来るか……だがっ!!」
今度も早い動きだが先ほどと違って見切れる動きだ。それに気絶前より体も軽い気がするから俺は奴を迎え撃つために構えた。
「アヤ、オガズウウウウウ!!」
「ヒメちゃんに手は出させない!!」
この状態の須佐井なら相手にしても問題無いと、なぜか分かったから俺は拳を前に突き出す。すると簡単に奴の顔面に直撃する。まるで吸い込まれるように的確に拳がヒットし須佐井が吹き飛んだ。
「す、凄い……」
「これがI因子の力ってやつ?」
誰かの声が聞こえた。綺姫じゃない女の声……振り向くと海上と浅間がいた。どうやら今の俺は二人の声すら判別できないほど興奮しているようだ。
「葦原……お前、今すぐ、くっ……」
「先生、下がってて下さい……俺なら大丈夫だ問題など無い」
「え?」
綺姫の不思議そうな声が聞こえるが大丈夫。今の俺には力が有るから八年前とは違う。あの時のようにはいかない……え? 八年前?
「な? 俺は……何が?」
「くっ!? やはり……葦原その力をこれ以上使うな!!」
工藤センセイがナニかイッテイル? 問題はナイ。オレはアヤキを守るためなら……そう守るためだ何も問題無イ。
「オオオオオオ!! 陰キャメガネエエエエエエ!!」
「俺は、オレガ……僕が、守る!!」
そうだ、守らなきゃ綺姫をヒメちゃんを!! 家で孤立して寂しかった僕を連れ出してくれた彼女を!! だから……今度は俺が、僕が!!
「星明、目が……」
「止めなくては、このままじゃ葦原も対象にされる!!」
「対象って、どういう意味ですか先生!?」
「排除の、対象だ……」
何か後ろでゴチャゴチャ話しているが問題無い。俺が目の前の奴を倒せば解決するんだから……何も問題無い。
「オマエガ、俺の、オデノォォォ、アヤ奪ったアアアアア!!」
「……違う、それは違うぞ須佐井」
「後カラ出て来てぇ、オデノ獲物ぉ、女ぁ、アヤ奪ッタアアアア!!」
その言葉を聞いて俺はフッと冷静になった。だって奴の須佐井の言う事は間違っているからだ。
「だから違うんだよ……お前が、お前が後から出て来た!!」
「ぐぁっ!? ナァニィイィ!?」
奴の拳がまた外れ逆にこちらの拳が容易くに奴の腹に直撃する。今度も奴の動きは丸見えで一気に叩き込むと奴は片膝を付いた。
「お前は自分の方が先にヒメちゃんを好きだとか勘違いしてるが……」
「はぁ? ナニヲイッテイル?」
暴走して言語も怪しい奴を見ていると逆に冷静になれた。だから奴に言ってやりたい言葉が自然と口から出て来た。
「僕の方が……僕の方が先に好きだったんだよ!! 最初っからな!!」
「ぐっ、はぁっ!?」
「ああ、そうだよヒメちゃんは幼馴染で、大事な子で、だからお前みたいな偽物には渡さない!! 絶対にっ!!」
最後に右の拳を全力で叩き込むと奴の顔面に直撃し面白いくらい遠くまで飛んだ。そして廊下の奥まで吹き飛んで最後はドアに叩きつけられると動かなくなった。
「陛下!?」
慌てた赤ローブ二人が須佐井の方に駆け寄るがピクリとも動かない。どうやら僕の、いや私の勝ちのようだな……紛い物め。
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