第193話 災厄の因子の目覚め その2
「まさか……因子同士が、共鳴、してる……のか?」
「信矢さん?」
信矢さんの言葉に俺は今の暴走する寸前の状態がI因子による作用だと理解した。だが謎なのは共鳴という言葉だ。何となく嫌な予感がして聞こうとしたが先に口を開いたのは須佐井だった。
「やはり因子の存在を、奴の関係者か?」
先ほどまで片言だったりニタニタしていた須佐井が急に流暢に喋り出すのに違和感を感じながら俺は綺姫と浅間を守るように前に出た。すると俺を遮るように赤いローブの二人組が出て来て須佐井に言った。
「お控え下さい陛下、まだ、その者の体は馴染んでおられないのでしょう?」
「うむ……だが私はこの体の持ち主の願いを叶える必要ガある」
何を言ってるのかさっぱり分からない。陛下だと? 須佐井は海外留学中に王様にでもなったのか?
「くっ……すま、ない、やはり向こうの相手はキツい、ね」
「信矢さん!! 大丈夫なんですか!?」
「ああ、だが今は……逃げろ、狙いは君と綺姫ちゃんだ」
そう言うと信矢さんは立ち上がり銃の引き金を躊躇なく引いた。しかし予想外な、いや俺達は予想していた展開が目の前で起きた。当然のように銃は無効化された。
◆
「何か壁みたいなので弾かれた!?」
「もしかしてアニメとかであるバリアーみたいな?」
綺姫の言葉に少し落ち着いた様子の浅間が言うが声は震えていた。今の状態が異常事態だと理解したようだ。
「分からない、だが浅間は関係無い逃げろ」
「えっ、あ、でも……」
「ソレハ、どう、カナぁ? ざくやも俺がオカススススス!!!」
また狂ったように須佐井が奇声を上げた。情緒不安定というレベルでは無い。完全にイカレている。そして俺は数日前の話や最近の出来事を思い出し一つの結論を導き出した。
「お前が街を、それにジローさんや四門さん達を襲ったのか!?」
「シラネェよぉ、俺は、私は、痕跡を……タドッタだけだぁ!!」
そう言うとケタケタと不気味な笑い声を廊下中に響き渡らせた。すると周囲のクラスから他の生徒たちも出て来てしまう。
「……つまり星明くんと綺姫ちゃんを追ってたのか」
「どういう意味ですか信矢さん!?」
「奴は海を渡って君達を追って来たという意味さ」
「何で?」
「フクシュウダアアアアアアア!!」
次の瞬間、須佐井は俺に飛び掛かって来た。俺は咄嗟に綺姫を信矢さんの方に放り投げ防御の態勢を取ると無意識に奴の腕を掴み押さえ込んでいた。
「くっ、あれ? 信矢さんは吹き飛ばされたのに、何で俺は?」
「今の君はI因子が作用して同じ力の保有者には対抗が出来るはずだ!!」
だが対抗と言うよりも俺の方が押している節すら有った。それに以前の暴走時よりも力を押さえ込めているし力は馴染んでいた。
「じゃ、じゃあ星明が倒しちゃえば!!」
「ダメだ、星明くんにI因子の力を使わせたら、っ……うっ!?」
綺姫と信矢さんが話している途中だったが信矢さんは次の言葉を続ける前に急に前に出て倒れた。よく見ると腹に何かナイフのような物が刺さっていて綺姫を庇ったのが分かった。
「信矢さん!!」
「ぐっ、これは、危険、だな……さぁ、ちゃん、ごめっ」
そう言うと意識を失っていた。それを見て俺は目の前のナイフを投げた赤いローブの男を睨み付け突進していた。
「きっさまああああああ!!」
不思議と周囲が遅く見えた。そして赤いローブの男の顔面を殴り飛ばす。先生が負けた相手なのに俺はそいつを数メートルも吹き飛ばしていた。さらにそいつは口から青い血を吐いていて、もう完全に理解が追い付かない。
「まさか因子がもう一つ覚醒とは……ではコヤツが?」
「ああ、ソウダ、オリジナルだ、この体は因子を移されただけのソンザイに過ぎない」
「また喋り方が、まるで二重人格だ」
「まあ、似たようなモノだオリジナル、名を聞かせろ」
須佐井が留学先でまさかの二重人格になっていたなんてと驚いて思わず俺は名乗っていた。
「…………葦原、星明だ」
「そうか、俺の本当の体は……」
「本当の体? 何を言ってるんだ?」
「何も知らずとも良い……貴様も依代なのだからなぁ……」
ユラリと動いたかと思うと一瞬で俺に近付いて来た奴に俺は反応が出来ていた。これがI因子の力なのか、これなら俺でも戦えるかもしれない。信矢さんは使うなと言っていたが今は使うべきだ。
「だって……綺姫を、ヒメちゃんを守れないから!!」
須佐井と別人格の蹴りを腕で防ぎながら俺は殴り掛かる。しかし簡単に避けられた。向こうの方が早い?
「動きは素人……この感染体に比べたら戦の心得が無い……か」
「感染? さっきから一体お前は!?」
「話しても理解出来んさ!! 今のお前ではな!!」
「がはっ!? どう……して?」
今度は拳は迫るがそれを防いだ瞬間に腕を掴まれ最後は投げ飛ばされた。一本背負いで投げられた俺は背中から叩きつけられ意識を失った。
◆
――――綺姫視点
「星明!!」
「何なのよ、これ……」
星明は投げ飛ばされたけど呻いているから大丈夫だと思う。でも目は閉じて不安しか無い。そして横では咲夜が茫然として呟いた。その声に返事をしたのは教室から出て来たタマだった。
「ちょっと、今の何? 二人が見えなくなった瞬間、葦原が……それに、あの二人と吹き飛ばされた奴は何なのアヤ!?」
「え、えっとぉ……あいつは須佐井らしいの、赤いローブの二人は分かんない」
何でアイツがとタマが叫ぶが今の言葉で周囲の生徒たちも須佐井に気付き始め一気にざわめきが広かった。
「ああ、そうか……こいつらも対象か、良いだろう好きにしろ」
「アリガトおおおおお!! オマエラあああああ!! 全員ブチコロシテ、オカシテ、めちゃくちゃにシテやるうううう!!」
須佐井が二重人格とか星明と話してたけど本当だった。今までの冷静な状態から一気に襲って来た状態に戻って目が血走っていた。
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