第192話 災厄の因子の目覚め その1

――――星明視点


 まず俺が感じたのは圧倒的な嫌悪感で声と何より表情で正体が分かった。目の前の男が誰なのか理解してしまった。


「お前が……何で日本に?」


「星明、知り合い、なの?」


 綺姫は目の前の男の正体に気付いてない。髪は伸び放題で髭もボサボサで体中は血塗れ、かつてクラスの中心で校内でも屈指のイケメンと言われていた風貌が今は見る影も無い。分からないのも当然だろう。


「ああ、綺姫も知ってる奴さ……そうだろ、須佐井すざい尊男たかお!!」


 俺の言葉に奴は再び下卑た笑みを浮かべニタァと表情を変えた。その瞬間、真っ先に動いた人がいた……信矢さんだ。


「悪いが鎮圧させてもらう!!」


「んだぁ!! てめえ邪魔すんな!」


 いつの間にか信矢さんの手には警棒のような物が握られていて須佐井に全力で叩きつけていた。明らかに強烈な一撃で奴は軽くよろめいていたが次の瞬間にはイラっとした顔をして警棒を掴み片手でへし折った。


「くっ、何て腕力だ……脅威度はB以上だな、特別製のスタンバトンを食らって倒れないとはね……二人とも逃げるよ!!」


「えっ?」


「綺姫!! 逃げよう!!」


 信矢さんの言葉に咄嗟に綺姫の手を取って校内に逃げ込む。その後ろを守るように信矢さんが付いて来るが須佐井が叫び声を上げ追って来た。


「逃がすかああああああアアアアアッ!!」


 下駄箱を抜け階段を駆け上がる俺達に迫るがギリギリで信矢さんが牽制の蹴りを入れ階下に突き落とした。


「ぐっ、でめえ、ジャマアアアアア!!」


「ちっ!? 鉄板を蹴ったみたいな感触だ……こうなったら……二人とも先に逃げてくれ!! 工藤先生にすぐ連絡するんだ!!」


「はっ、はい!!」


 そのまま信矢さんは俺の返事を聞かずに須佐井を睨み付けながら懐から何かを出した。それはメガネだった。そしてそれをかけると溜息を付いた。


「ナンダァ?」


「ここからは私が相手をしよう……久しぶりですが獣のような相手には通常より戦えますから……ねっ!!」


 そこから二人の戦いが始まったが俺は脱兎の如く逃げ出した。振り返るのを堪え綺姫を抱えたまま走り出していた。


(それでいい恐らく長くは持たない、七海先輩が気付いてくれれば……すまない快利くん読み間違えた、叶うなら早く二人を助けに来てくれ!!)


 信矢さんが悲壮な覚悟を持って須佐井と相対していたなんて俺たちは知らずに急いで職員室へ向かっていた。どこかで信矢さんなら大丈夫だなんて思っていたんだ。



――――綺姫視点


「ね、ねえ星明……なっ、何で!? どうしてアイツが!?」


「分からない、でも今は工藤先生のところに!!」


 今の私は両腕に抱かれて運ばれているけど少し違和感が有った。星明にしては足も速いし動きも普段より俊敏だ。そして職員室に入ると更に変で人が三人しか居ない。その三人は工藤先生と怪しい赤いローブの二人組だった。


「なっ!? 二人とも何でここに!?」


「信矢さんと一緒に、襲われて逃げて来て……」


「そう言う事か、君達、これは明らかな条約違反だ!!」


 工藤先生は急に向かい合っていた赤いローブの二人組に叫んだ。でも条約違反ってどういう意味なんだろう?


「この世界の人間共の条約など知らんな」


「ああ、我らはあの方を迎えに来たのだからな!!」


 そう言うと二人は工藤先生に襲い掛かった。先生は咄嗟に構えると懐から何か黒い物を取り出した。


「っ!?」


「うそぉ、銃……」


 星明の息を飲む叫びと私の声が漏れたと同時に先生は躊躇無く引き金を引いた。いくら怪しい人達でもやりすぎだと思う。でも目の前では更に信じられない光景が広がっていた。


「この世界の武器はやはりこの程度……」


「くっ、装備が無いとコイツら相手には……二人とも!! 急いで校舎を出ろ!!」


 銃で撃たれたのに目の前の赤いローブの男たちはケロリとしていた。そしてローブの奥で怪しく目を光らせた。


「で、でも須佐井が追って来てて!!」


「須佐井、何で奴が……? とにかく逃げるんだ!! 千堂の本隊が来れば彼に連絡がつく!!」


 その間にも赤いローブの男たちは先生に襲い掛かっていた。見ると昔の騎士が使いそうな剣を取り出し一方の先生は信矢さんが使っていた警棒と同じ物で防いでいた。もう完全に非日常で私の頭はパンク寸前だ。


「先生!! 俺達どうすれば!?」


「葦原、10分だ!! 10分で千堂の戦闘部隊が来る!! それまで逃げ切れ!!」


 そう言って先生は相手に銃を撃つと相手のローブがハラリとめくれて中から出て来たのは異様だった。アメリカのSF映画の宇宙人みたいな感じで肌の色が青く目が真っ赤な男の顔が見えた。


「えっ!?」


「なっ!? 特殊メイク?」


 私達は一瞬だけ呆けた後に今度は職員室から逃げ出した。後ろで銃声が響いていたけど星明は振り返らず私を抱いたまま走り出した。


「今のは何なんだよ」


「分かんないよぉ!! それよりどうしよ星明!?」


「どうしようもない!! 今は逃げるしか!!」


 そんな話をしていたら気付けば私達は自分達のクラスに来ていた。そして偶然にもドアが開いて出て来たのは咲夜だった。


「な~にしてんのよ朝から二人して」


「浅間っ!? ここは危険だ急いで逃げるんだ!!」


「は? あんた何言って――――え?」


 俺と綺姫が浅間に怒鳴っていたタイミングで俺たちの横を何かが飛んで行った。そして廊下の窓にぶつかり落ちた。それは血塗れの信矢さんだった。



――――星明視点


「ぐっ……さすがはI因子の、かくせい、たい……もう本物に、近付いて……」


「信矢さん!!」


「メンドウなニンゲンだった……奴の関係者かぁ?」


 そして後ろから赤いローブの二人組を従えて歩いて来たのは須佐井だった。赤いローブの二人組も来たという事は工藤先生も敗れたのだろう、最悪だ。


「くっ、まだだ……二人を守るのは……彼との約束だ」


「カレ? ソウカ、貴様……奴の知り合いか?」


「さあ、ね……」


 血をペッと吐きながら信矢さんはニヤリと笑って言った。フラフラになりながらも立ち上がる姿は勇ましく俺は心の底から尊敬と羨ましさ、そして怒りを覚えた。


「こ、これは……?」


「ああ、やっと正体を見せタ……ヤハリ本来の器は違う」


 須佐井がニタニタしながら言うと俺を睨み付けた。どういう意味だと思う前に俺の中でさらにドクンと何かが脈打つように体中が熱くなった……これは暴走の兆候だ。

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