最終章「決断する二人の関係」

第191話 現れる脅威 その2


「何で、これが?」


 綺姫が警察で何度も聞かれたそうだが結局は謎とされたままの大きな爪痕のような傷、綺姫の家にも有ったアレが映っていた。


「それより小野、何でこの記事を?」


「いえ、この記事って都内になってますけど実は割と近所です」


「どういう意味だ?」


「地理的な意味です、橋を渡ったら反対は都内って良く有るじゃないですか」


 確かに俺の実家と今住んでいるマンションも隣県の関係で例の空見澤も似たような地理関係だ。俺達の住んでいる場所は県境で都内の事件と言っても近所で起きた事件で小野が引っかかった理由もそれだった。


「それだけか?」


「いえいえ、この事件これで四件目みたいです」


 タブレットを再び覗き込むと同様に襲われ傷跡が残された場所が他に三ヵ所も有ったらしく全て、この一か月間で起きたそうだ。


「確かに物騒だが……」


「アタシの親と関係無くない?」


「確かに、ご両親とは関係無さそうですけど、お二人には関係有りそうですよ?」


 そう言って小野は俺たちにだけ見えるように別なネット記事を見せて来た。


「これは!? バイトで泊まった!?」


「ラブホだ~!!」


 その声に教室中の注目が集まるが今は無視だ。一応は海上と浅間がクラスを黙らせているが俺も綺姫も小野を急かした。


「そうです、綺姫さんが前に自慢気に話していた秘密のアルバイト先、その現場だけがピンポイントで襲われています」


「ねえ待って、四番目の現場のコンビニって……まさか!?」


「ここも近所ですね場所は――――「アタシの元バイト先だ……」


 思い出した、このコンビニで須佐井の本音を聞き出しボイスレコーダーで録音した店だ。この現場の四ヵ所が俺と綺姫に関わっている場所だとでも言うのか?


「偶然だよな?」


「私が気付くような共通点ですし何とも……」


 偶然だと思いたい俺もいるが何となく偶然では無い気がした。偶然にしては出来過ぎていると一抹の不安が過ぎった。そして数日後さらに俺たちの周りで不審な出来事が発生した。



――――綺姫視点


「え? ジローさんのお店が?」


「ああ、襲われたらしい」


 その三日後に今度は星明がバイトしていた夜の街、値ノ國ねのくに通りのアタシも働かされそうになった店が襲われたと連絡が有った。犯人は怪しい風体の男という以外分からないらしい。


「ジローさんは現場に居なかったらしいけど何人か被害者が出たらしい」


「そうなんだ……それって良くある抗争ってやつ?」


「だと思う、最近は物騒だね……」


 二人で朝食をとりながら話しているとインターホンが鳴る。今の話で少し警戒して確認すると居たのは信矢さんでホッとした。


「どうしたんですか信矢さん?」


「ああ、君達も知ってるだろうけど八岐の関係者が襲われている」


 信矢さんが来訪の目的を言った上で今日からは登下校は車で送迎と決まった。


「俺達と関係が? ヤクザの抗争では?」


「違うよ、まず君は一つ勘違いしている、これはヤクザの抗争なんかじゃない」


「え? じゃあ何が?」


「分からない、だが防犯カメラの犯人らしき男の顔は確認出来ないが相当に危ない奴で単独犯だ、ヒットマンや鉄砲玉じゃない」


 証拠のカメラの動画は星明だけ見せて貰ったけど動画には下手なスプラッター映画よりもドギツイ映像が映っていたらしい。私には見せられないと二人して言われたから相当なんだろう。


「根拠はこれだけですか?」


「いや、実は襲われたのは店だけじゃない八岐金融もなんだ」


「なっ!?」


「それって四門さんのとこですよね!?」


 今度は私も思わず会話に入ってしまった。そして尋ねていた。


「ああ、例の元司法書士の金貸し屋だ、彼は無事だが彼の弟、たしかゴローだったかな、彼が重傷でね千堂の病院に入院したよ」


「ゴローさんが……重症?」


「ああ、彼は僕の所属する道場の門下でも有るから強さは折り紙付きだ……そして彼は犯人を見たらしい、目を真っ赤に血走らせ両手が血塗れの男だったそうだ」


 それが気を失う直前に四門さんに話した内容だそうで今なお意識不明らしい。


「そんな……」


「八岐家を狙うなら八岐次郎や八岐四門より上の者を狙うだろうからね。彼らはしょせん中間管理職だ」


「つまり狙うなら蛇王会のナンバーツーのジローさんの父である八岐一弥さんとか八岐金融の社長の蛇乃進へびのしんさんか」


 なんか私の知らない名前が出て来たけど後で聞いたら、それぞれジローさんと四門さんの父親で義理の兄弟だと教えられた。


「それで皆さんは無事なんですか!? 六未さんとか!?」


「ああ、彼女も応戦したらしいが気絶させられたそうだ、その時に相手が変な事を言ってたらしい」


「変な事?」


 星明が尋ねると信矢さんは頷いて答えたが内容が意味不明だった。


「ああ、復讐とかリベンジとか叫んで狂ったように笑いながら去ったらしい」


「それが抗争じゃない一番の根拠ですか?」


「そうさ、ヒットマンはベラベラ喋らないし鉄砲玉なら捕まってから喋る、何より奴と相対した人間らの証言で相手は薬物中毒者みたいでね」


 これも必ずしも正解じゃないけど可能性は低いらしい。八岐家の関係者を狙っているから現在は再び渡米している七瀬さんにも護衛を出したそうだ。


 そして千堂グループは関係の有った私達に万が一の事が有ってはいけないからと早急に信矢さんを動かしたらしい。


「そうだったんですか……」


「という訳で今日からは君らのドライバーだよ、準備が出来たら声をかけてくれ」


 そう言っておどけたように言うと信矢さんは部屋を出て行った。そして時間になると私達は車で送迎された。しかし到着した先の校庭では悲惨な光景が広がっていた。


「これって……」


「何が?」


 校庭では数人の恐らくは陸上部の朝練の生徒がジャージを血まみれで倒れていた。そして中心に立つ男はボロボロの布切れのような物を身に付けていた。それを血で真っ赤に染め立ち尽くし私達に気付くとニヤリと笑って言った。


「みぃつけたぁ……クソ陰キャ、アヤぁ!!」

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