第190話 現れる脅威 その1
◆
――――星明視点
「いや~、歌ったよ~!!」
「そうね~、久しぶりよね、こういうのって」
前を歩く綺姫と海上の会話を聞きながら俺は今日の出来事を反芻するように思い出していた。あの後、浅間の就職や海上の受験勉強などの話を聞いて俺達は今後どうするかを決めていた。
「でも良かったの葦原?」
「ああ、綺姫がしたい事が俺のやりたい事だ浅間」
そして隣では浅間と聡思さんが不安な顔をしているが先ほどの俺の選択は誤ってないと思う。
「だからって、アヤの両親探しなんて……」
「綺姫の望みだしね、それに俺のツテを使えば追えると思う」
あれから綺姫が何をしたいかと皆から問われた後に少し考えた後に出した結論がこれで俺は賛成した。
『あの両親にガツンと言いたい!!』
『分かった、じゃあ入院する前に綺姫のご両親を捕まえよう』
これに他の四人は反対したのだが俺は構わないと強引に決定した。俺としても綺姫との付き合いを正式に報告したいと思っていたし後は父と本当の母の件でも聞きたい話も有った。
「だけどよ瑞景さんに聞けば一発なんじゃねえの?」
聡思さんの言葉で俺たち三人で瑞景さんの方に視線を動かすと少し先を歩いていた瑞景さんは困ったように口を開いた。
「ああ、それなんだが……あの二人は今は千堂グループでも追えなくてね」
「そんな事って有るんですか?」
俺の疑問に瑞景さんはグループも万能では無いからと言いつつ厄介な組織が関わっている可能性が高いとだけ言って言葉を濁した。そのまま聞き辛くなって話は終わり数日後から俺達の最後の学校生活は始まった。
◆
「そんで見つかりそうなの~?」
「それが……」
そして一ヶ月が経ち二月も半ばを過ぎた今日この頃だが海上の問に俺たちは答えられなかった。つまり未だ綺姫の両親を見つけられていない。ジローさんや四門さん、それに他の裏社会の知人にも頼んだが二人の行方は掴む事は出来ていなかった。
「さすがは刹那の借金夫妻だ……」
「お願い星明、真面目な顔してバカ親の通り名言うの止めて」
「ごめん、でもご両親の行方に何か心当たり……無いよね?」
分かってたら悩んでいないと言って机に突っ伏してグッタリしていた。俺も苦笑しながら教室に戻って来た浅間も困り顔をしている。
「その様子じゃ無理そうね、一応は我が校の新聞部にも声かけたんでしょ?」
「ああ、小野か……そう言えば新学期になってから大人しいな」
そう言って小野の机を見ると黙々とタブレットをスワイプしていて何か作業中のようだ。俺たち以上の何か新しいオモチャでも見つけたのだろう。
「小野っちには私が頼んだけどナンベー調べるので忙しいんだつて~」
「南米? 何で?」
綺姫が机で
「興味が有りますか!? 皆さん!!」
叫んでやって来た小野に対して俺以外の三人は呆れた感じで答えていた。
「いや別に興味は……」
「南米なんて興味無いし」
「星明~、なんべーってどこ?」
綺姫……南米くらいは分かってて欲しかった。しかし南米か、そういえば奴の追放先も南米だった。あれから三ヶ月以上も経つが真面目に更生しているのだろうか?
「これです!! 怪奇、謎の山奥の炭鉱実験施設が壊滅!!」
何やら小野は興奮して英語のサイトを見せて来たが半分以上も内容が分からないと言うと日本語翻訳をかけて見せて来た。それによると南米の鉱山で事故が有ったそうで作業員が大量に行方不明になったらしい。
「ただの事故じゃないか……」
「違うんですよ葦原さん!! 次にこちらのサイトです!!」
別なサイトでは現場から違法な実験施設を地元警察が発見したとの発表が有ったらしい。しかし、その後は誤報だったと再び発表が有ったらしい。
「やっぱり事故じゃないか」
「この鉱山の所有企業は『千堂工業』だったんです!!」
これも千堂グループの関連企業か、まあ世界的な企業だし南米に鉱山くらいは持っているだろう。どうやらダイヤモンドの発掘所だったらしい。
「はぁ、そんなのより小野っち~、私の親関連は~?」
「そちらは成果無しです……」
新学期に入ってから一ヶ月、綺姫は俺とは違うツテで両親を探していた。その一つが小野のネットワークなのだが空振りだった。そもそもグループが追えないだから一介の高校生には無理だと思う。
「そうか……ま、無理も無いな」
「実は成果が無いので暇つぶしを……でも大変ですね綺姫さんも、葦原くんとの関係が正式に決まって落ち着いたら今度は両親が行方不明だなんて……」
そして学校では俺と綺姫の関係は相変わらずだが一つ学校側に嘘を付いた。それは過去の嘘の上塗りで綺姫の両親は海外で行方不明という話だ。だから探しているという形で綺姫と俺は情報収集をしていた。
「実際に連絡付かないし行方不明みたいなもんだよ!!」
実際に逃亡中だから仕方ない。ちなみに綺姫の両親の借金だが俺の残っていた口座の金と二人の夏のバイト代で半分を出した後に何と父が残りを全て出してくれた。
将来的に実家のゴタゴタを後から持ち込まれても困るから手切れ金代わりと言っていた。つまりこれは綺姫だけは我が家に認められたという意味だ。
「だから早く二人を見つけないと」
「そうだね!! それで何か他に無いの小野っち~?」
金銭面に関しては蹴りが付いたから後は報告だけだ。綺姫は嫌がるだろうけど入院前に挨拶はすべきだと思う。
「特には……おや? なんか昨日、猛獣が都内に出たみたいですね~」
小野の見つけた記事はコンビニで猛獣の類が暴れ回ったような生々しい傷跡と荒れ果てた様子、そして被害者のコンビニ店員が重傷で意識不明という話だ。しかし問題なのは傷跡の方で俺と綺姫が良く知っている物だった。
「これって……」
「綺姫の家のと同じ傷跡だ……」
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