第189話 タイムリミットまでの過ごし方
海上の言葉に綺姫の顔を見るとコクリと頷いた。そして最後に瑞景さんを見ると少し悩んだ後に渋々うなずいた。
「そうだな海上、浅間……聡思さんは一部知ってると思いますけど全部話します」
三人を巻き込む可能性は有るが仕方ない。何も知らないまま巻き込むより知らせた方が良いとは思う。幸い千堂グループには先生と信矢さんから話してもらえば大丈夫だろうし今は瑞景さんも居る。
「まあ、三人なら大丈夫だと思うよ」
「オッケー出たよ星明!!」
瑞景さんは少し迷った様子を見せたが結局は今までの事情を隠さず三人に話す許可を俺たちは得た。
◆
――――綺姫視点
「――――長くなったが以上が俺と綺姫の隠してた事情の全てだ」
今まで有った話を一気に話し終えると星明は深く息をつく。長く話したようでも実際は十分弱で三人は複雑な表情をして最初に口を開いたのは咲夜だった。
「なんか凄い大変だったんだ二人とも……」
「うん、夏休み前から色々と大変だったよ」
思い返せば星明との出会い、いや再会してからは今までの人生で一番濃い時間だったと思う。いきなり親に捨てられ私を騙してた最低男にも見捨てられた時は全て終わったと思ったけど違った。
「運命論は嫌いだったんだけどね……俺は」
「アタシは、そ~いうの好き……かも」
記憶を失い家の事情や夜の街さらに千堂グループなどの強大な力に翻弄され続けながら抗い続けた星明は運命とかは嫌いだったらしい。でも今は少し違うみたい。
「だってアタシと星明が再会できたのは運命だと思うから」
「ああ……今は俺もそう思う、俺たちは再会する運命だったんだ」
再会した時から変わらない優しい目、この瞳だけは私は忘れなかった。だから高校に入学した時から星明の視線が気になってたし無意識に惹かれてたんだと思う。
「そんで二人はこれからどうすんの?」
私と星明が感傷に浸っていると静かに口を開いたのは今まで黙って話を聞いていたタマだった。
「どうするって何が?」
「いやさ、あんた達って今の話だと卒業と同時に隔離なんでしょ? だからどうすんのって意味よ」
私と星明は顔を見合わせて「あっ……」と今さら気付いた。私達の病気は基本的に治療方法も含めて詳細は不明だ。そして卒業と同時に二人揃って完成予定の施設に入院がほぼ確定している。
「I因子の研究は進んでいないし隔離治療は年単位は基本だと思うよ」
「じゃあ何年も会えなくなるって意味じゃんアヤ!!」
瑞景さんの言葉に咲夜が反応して思い知らされた。ここ数ヵ月は平穏過ぎて忘れていたけど私たちは時限爆弾で治療法はおろか期間すら分からない。最悪の場合は一生かもしれないんだ。
「でも、星明……大丈夫、だよね?」
「分からないし断言できない。少なくとも綺姫は俺より症状が軽いから俺より早く解放されるはずだよ、ただ俺は……」
「そんな……」
星明の言葉に愕然とした。そして星明の表情は最初から分かっていたという顔で私にこの事実を気付かせないようにしていたようにも見えた。
「ねえ、ミカ兄、今さら入院中止とか無理なんでしょ?」
「ああ、少なくとも千堂を敵に回したら日本を含め、この世界では生きていけない……もちろん俺程度じゃ庇う事すらできない」
その言葉に沈黙する私だったけどタマは違った。
「だったら卒業まで好きな事しなきゃでしょ!! 二人は!!」
「どういう意味だ海上?」
「葦原それにアヤも三月までに好きな事たくさんしなって意味!! 二人揃って今まで貧乏くじ引いて来たんだし!!」
そこでタマのしてくれた提案は分かりやすくて私達は隔離が決まってるんだから受験も進路も決められない。でも逆に言えば三月までは好き放題できるって意味だ。
「だから好き放題しろと?」
呆れた様子で星明は言うけど良いアイディアだと思う。私も受験勉強とか嫌だし、するなら花嫁修業とか秘書検定だったしと考えてた。
「案外いいかも知れねえぞ星明、二人で過ごすも良し、俺は学生で暇だし瑞景さんも大丈夫だろ? それに咲夜も割と暇だしな?」
「え? 何で咲夜?」
そう言って咲夜を皆で見ると少し焦った顔をした後に珍しくキリッとした顔に代わって口を開いた。
「えっと、実は私って進学じゃ無んだよね~」
「え? 咲夜ってフリーターになるの!?」
「アヤ……あんたが私をどう思ってるか良く分かったから!!」
おかしい、咲夜は私と成績は大差無くて悪かったはず、ただ私の方は最近は急激に成績が良くなった。理由は単純で星明と一緒に勉強してるからで二学期は平均点が大幅に上がってクラスで驚かれたくらいだ。
「すまない浅間、俺の綺姫が余計な事を言った、それで進路の話を聞いても?」
「まあ旦那に免じて許してやるわアヤ、それで私さ……実は有る会社のコンテストに応募しててさ……受かった」
そう言って見せてくれたのは私でも知ってる某ブランドのデザイナーコンテストの合格通知だった。
「マジで咲夜!?」
「本当だ……これって洋服のデザイナーってこと?」
タマも知らなかったようで咲夜は聡思さんと顔を見合わせて、してやったりという得意な表情だ。
「まあね、独学で勉強してて色んなとこに応募してたんだけど、受かった!!」
そして私達は三人で抱き合って祝った後に歌い出した。忘れてたけどカラオケボックスなんだよね私達がいる場所はね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます