第196話 最悪の覚醒と世界の真実 その3


「葦原、お前まだ意識が有るのか!?」


「な、何とか……でも、これは、ぐっ!?」


「よく聞け、お前はヤベー奴に体を乗っ取られそうになってる、だから気絶させてソイツを消す治療を千堂グループが行う、分かったか!!」


 俺は意識を乗っ取られそうになりながら秋津さんの言葉で思い出していた。俺が暴走した際には武力を持って抑止し最悪の場合は死も厭わないという内容で、その場合の綺姫の保護はグループが全力で行うという取引だ。


「よく、分かりました。例の契約、第三項二号、ですね!?」


「そうだ!! 少し痛いが我慢してろ!!」


 しかし秋津さんに返事をする前に俺の意識は再び奈落に落ち奴が出て来て黙らされてしまった。


「くっ、あと少しだト言うのに……人間ゴトキがぁ……」


「お生憎だな魔王、テメーが完全復活する前なら俺らでも対処できんだ!!」


「俺ノ正体を……奴の関係者カ」


 秋津さんや他の隊員たちは銀に輝くガントレットから炎や雷を出していた。正に魔法としか表現できない。だが驚いたのは俺を操っている何者かが、それを無効化し更に隊員たちを倒して行く事だ。


「くっ……腐っても本場か、疑似魔法じゃ対応が……やっぱ殴る方がいいな!!」


(いや、殴るって俺を!? 体は俺のだから勘弁してくれ)


 俺が心の中で言うと外に出ている奴も「同感だ」と言って秋津さんの攻撃を避けていた。


「話ガ分かルじゃないカ依代、覚醒ヲ嫌がっていたのニ今日ハ協力的ダナ」


「協力的? まさか……葦原!! 聞こえてるなら注意しろ!! 奴と意識を同調させるな、飲み込まれるぞ!!」


「余計な事を!! 言うナ!!」


 俺の今の状況なのだが意識だけ残っている感じで外の戦いを観戦している感じだ。たぶん今のを聞く限り秋津さんの言葉は正しいと思う。

 俺は今、薄いブルーの照明で照らされている空間で突っ立っている感じだが奴の意識が強くなると青いエリアが少しづつ狭くなっていた。


(これが無くなったら乗っ取られる?)


「ソウダ!! その邪魔なチカラ!! 奴ガ介入しているのかぁ!?」


 この青い光は前に見た覚えが有ってⅠ因子の抑制薬を飲んで気絶した時に守ってくれた光に似ている。その青い空間いや部屋のような場所は狭くなりジワジワと浸食されているように見えた。


(だんだん黒くなってる……)


 たぶん全てが暗闇になったら俺の意識も無くなるんだろうと何となく理解した。そして今の俺には何も出来ないというのも理解してしまった。



――――綺姫視点


「あ、あの止めて、下さい!!」


「綺姫さん現状の説明したはずですが? それに事前に彼との話も付いてます」


 それはその通りで間違いないけど私は納得できない。星明も私も助けてもらえると聞いて条件を飲んだ。こんなの話が違う。


「それでも!! こんなの酷いです!!」


「貴女は分かっていませんが、もし葦原くんの力が解き放たれれば八年前の世界の危機が……今の貴女やほとんどの人間は記憶が無いから分からないでしょうが……」


「八年前って……色んな人が言ってたけどアタシが引っ越して星明と離れ離れになった時に何が有ったんですか!?」


「それは……今は言えません」


「じゃあ、じゃあ誰が星明を助けてくれるんですか!?」


 埒が明かないとは正にこの事で私の頭じゃ理解できない。しかも目の前の女性は分かっているのに私に本当の話をしてくれない。


「今は信じてくれとしか言えない……会長、例の許可は?」


「中国が粘っていて難しい状況です。許可さえ出れば彼を呼べるのですが……」


 思案顔で話し合う先生と七海さんには何か策がありそうだけど私は今すぐ星明を助けたい。恋人を助けてって言う私は何か間違っているんだろうか? いや、もう間違ってても良いと思う。世界より星明が大事だから!!


(アヤ、行きな!!)


(葦原を助けるんでしょ? じゃあ二人で逃げなきゃ!!)


 私が動こうとしたら後ろにいたタマと咲夜がヒソヒソと話しかけて来た。二人は私が星明を助けに行くのが分かったようで援護するから二人で逃げろと言った。私は一も二も無く提案に乗って走り出す。


(うん!! 二人ともお願い!!)


 後ろから先生と七海さんの声が聞こえるけど二人と警官たちを遮ったのはタマと咲夜それに避難していなかったクラスメイト達だった。


「あなた達!! 危険です綺姫さん今すぐ戻って下さい!!」


「アタシ、バカなんで、ごめんなさ~い!!」


 これでも体力はそこそこ有るから私はダッシュで星明の元に走り出す。後ろでは皆と大人たちの言い争う声が聞こえてチラリと振り返る。


「天原、それに海上たちも今は非常に危険なんだ!!」


「親友が男のために命張るって言ってるのに大人が頼りないからでしょ!!」


「私らに本当の事を隠すから!! アヤ、行って!!」


 二人を中心に私を追おうとした警官や先生の足に捕まったり妨害して必死に抵抗してた。たぶん私は間違ってると思うし星明は絶対に怒ると思う。だけど星明が居ない世界なんて耐えられない。


「くっ、勇輝くん!! 天原が!!」


「ちっ!? 天原……ったく、しゃ~ねえな危ねえから俺の後ろから声かけろ!!」


「え? マスター?」


 何とか星明の近くまで来た私の前に立ちはだかったのはマスターこと勇輝さんだった。だけどマスターは私を止めようとせず星明の出してる魔法? みたいなのを防ぎながら言った。


「葦原はまだ飲まれてねえ、だから声かければセーフかもしれねえ!!」


「え? そうなんですか?」


『秋津さん命令違反です!!』


 マスターの耳のインカムから七海さんの怒鳴り声が聞こえた。あれは凄く怒ってそうだ。後でお説教だと思うと少し憂鬱だ。


「会長……いや、お嬢!! たまにはガキの我儘くらい聞いてやれ!!」


『分かっているのですか? 最悪の場合は彼を呼ぶ事になるんですよ!!』


 彼って誰? その人を呼べば解決なら早く呼んで助けて欲しい。もし星明を助けてくれるなら私は何でもする。


「確かに快利に無茶はさせられねえ。だけど俺らにはどうしようもねえ、だったら可能性の高い天原に頼むしかねえだろ!!」


『全く、本当に空見澤の人間はバカばかりで、やっと安定した世界を……多くの犠牲で保った平穏を全て無にする気ですか!! 彼らの献身も全て!!』


「その犠牲の一つが今、目の前で困ってんだろうが七海お嬢!!」


 また八年前の話、たぶん大きな事件が有って私達が記憶を無くした原因なんだと思う。そして七海さんは世界や多くの人を守りたいと言ってる……気がする。


「とにかく星明!! 色々と大変だから起きて~!!」


「綺姫逃げっ――――ほう、コイツが抵抗因子持チ……なるほド、この男の強さの意味……キサマか!!」


 星明の目が赤く光って次の瞬間には私に襲い掛かって来る。だけど眼前で秋津さんが攻撃を防いで私を守ってくれていた。


「やっぱ戻ったか!? 惚れた女の声ってのは効くもんだ!!」


「ほ~し~あ~き~!! 早く起きないと二度とあのコスプレしないよ!! 夜のバニー!!」


 大声で叫ぶけど目の前の星明の体を乗っ取っている別人はニヤリと笑って私を睨み付け口を開いた。


「愚かな、そんなもっ――――「綺姫!! 人前でそれ以上はダメだ!!」


 やっぱり星明って意外と外面を気にするから秘密がバレそうになると全力で隠すからね……狙い通りだった。


「星明、大丈夫!?」


「何とか……でも今はこの場から離れる!! あと綺姫その事は言うの禁止!!」


 そう言うと星明は廊下の窓ガラスを割って外に飛び出した。ここって高いのにと見ていると秋津さんも「よくやった!」と言った後に星明を追って何の躊躇も無く窓から飛び降りた。



――――星明視点


「おいおいバニーガール好きか?」


「綺姫限定で、ですよっ……早く倒し、て下さい!!」


 追撃してきたのはマスターだけだと思ったら校庭には何十人ものエージェントと思しき人間がいて完全に包囲されていた。しかも俺がバニーガール好きだと多くの人間にバレてしまった最悪だ。


「分かってる!! くっ!? これは……退避っ!!」


「時間切れだぁ!! 力は戻ったぞ!! 人間共!!」


 マスターの言葉の後に俺の中の存在が放った言葉を最後に俺の意識は押し戻され青い空間に戻っていた。そして次に外を確認すると俺を中心にクレーターが出来ていてマスターを除く全員が倒れ伏していた。


「くっ、これが新生魔王の力かよ……聞いてた以上だ」


「新生魔王……?」


 マスターの言葉に俺は困惑するしか無かった。魔王とか何の冗談だとと思ったと同時に頭の中に強烈な記憶の流入が起こった。そして俺は思い出していた八年前の光景を……俺の中に奴がいる原因を、全ての記憶が戻ったんだ。

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