第54話 それぞれの再会 その1
◆
――――綺姫視点
「今夜に備えて仕込みに入りま~す」
私はランチタイムのピークが過ぎたのを見計らってディナーの用意と賄いの簡単な準備を始める。昨日は咲夜の愚痴から始まり次に私の星明への想いを二人に話して今日に望んだ。そしてバイトの配置換えをお願いして星明を調理補助にしてもらった。
「綺姫、切った野菜はここで良いかな」
「うん、使うのはこっちで他は冷蔵庫でお願いしま~す」
前髪が無くなり顔が見えるようになって更にカッコよくなった私の運命の人。なんか二人はフィルターがかかってるとか、ただの雰囲気イケメンだとか言ってたけど違うから。普通にカッコいいから。
「ああ、だけど本当に俺で良いのか、調理なら瑞景さんの方が」
「違うよ、だからなんだよ」
星明がそう言うのは想定済み。なぜなら昨日、二人とシミュレーションしたから。ちなみにシュミレーションと間違えて覚えててタマと咲夜に直されたのは秘密です。そんな事より昨晩の内に受け答えの練習はバッチリなのです。
「だからって?」
「うん、瑞景さんが体調不良とか用事で動けない時も有る時とか考えて、そんな時のために補助だけでも……えっと、とにかく覚えておいた方が良いって話で!!」
確か昨日の夜はそんな話だったはず。そういう話に持って行って後は流れでって咲夜も言ってたし、アドリブで押し通せば星明が勝手に考えて動くから大丈夫だってタマも言ってた。
「なるほど理解したよ……まあ、それに」
「それに?」
「俺も綺姫と一緒にいられるのは……その、嬉しいから」
少し恥ずかしそうに笑って言う顔は私の好きな顔で同時になぜか懐かしく感じた。星明の部屋で何度か見た顔だからだと思う。あの部屋で生活したのは二週間弱なのにもう懐かしく感じていた。
「え? うん!! アタシも一緒だと楽しいよ!!」
「じゃあ午後も頑張ろう、俺も可能なだけサポートするから」
その言葉だけで閉店まで頑張れそう。そして実際その通りになった。今日の夕ご飯の賄いは私と星明にだけは少し特殊な混ぜ物も入れて準備万端。そりゃもう今夜を楽しむために私は全力です。
◆
「よし店の戸締りは大丈夫だ……あれ? 皆は?」
「星明、皆は先に行ったからアタシらも帰ろ!!」
夕食後に、ごねる八上さんを皆で説得して星明と咲夜をそれぞれのロッジに戻してもらうと私は計画を実行に移す。そう、これも昨晩の内に三人で考えた策だった。
――――昨晩(女子側ロッジ)
「じゃあ明日は八上さんが駄々こねるだろうけど押し切りま~す!!」
「「異議な~し!!」」
私の言葉に二人が笑顔で答える。そして次の議題は部屋が戻った後の課題で咲夜は少しでも良い雰囲気になることで私の方は二人きりになったら星明の真意に迫るという話でまとまった。
「じゃあ、明日は忙しそうだし早く寝ましょ?」
タマがあくびをしながら私達にスマホの時計を見せて言うと日付けが変わって既に一時間以上が経っていた。
「え~、せっかくだからアタシは星明の話をもっと聞いて欲しいよ~」
「私も、その……周りには嘘ついて全然違う人と付き合ってるって言ってたから、もう少し話したいって言うか……」
咲夜も同じ気持ちでまだまだ話し足りないようでタマは苦笑いして寝たがってるけど逃がさない。実はタマは私達に黙っていたことが有って先ほど白状させたばかりだった。
「今回の夏の間で私達をカップル成立させようとしてたなんて、最初に言ってくれれば良かったのに~!!」
「そ、そうよバレたとはいえタマを信じてコッソリ話したのにさ……」
実はタマと瑞景さんの二人は私たち四人の状況を完全に分かった上でコントロールしていた。つまりは黒幕だったのです!!
「いや黒幕って……フィクサーって言いなさい。そもそもあんた達が肝心なとこでビビりそうだから知らない方が動かしやすいって思ったのよ、大人の配慮ってやつ」
タマが言うには星明が思った以上に煮え切らない面倒な性格だったとか八上さんが何考えてるか分からないと気付けばタマの愚痴を聞くターンになっていた。
「ま、まあ明日は三人とも頑張ろ~!!」
「そうね、そっちも健闘を祈るわアヤ」
「ウチは普通にフォローに回っから頑張るのはあんたらだけだしね」
こんな流れで作戦会議はまとまった? 感じで今夜に望む私たちだった。
――――現在(帰り道)
「それにしても今夜も多いね黒服さん」
「そうだね、まあ明日のパーティーが終われば引き上げるとは思うが」
そんな他愛のないことを話しながらロッジに到着すると私は星明を急かしてお風呂に入るように誘導した。今夜は逃がさない……絶対に!!
◆
――――星明視点
俺は久しぶりに熟睡しスッキリした目覚めを迎えた。やはり綺姫との行為後はぐっすり眠って元気になれる。この三日間は不眠とは言わないが長くて三時間くらいの浅い眠りを繰り返し快眠とは言えない状況が続いていた。
「ふぅ……よく寝た、これも綺姫のお陰だよ」
まだ横で眠っている想い人を起こさないよう頭を撫でながら、これくらいの役得は良いだろうと俺は自分の行動を心の中で正当化する。
「ふへへ、星明ぃ~、ずっと……にぃ、いよ~」
「夢にまで俺が出てるのか? 迷惑をかけてないと良いけど」
そしてベッドから出て何か飲もうとドアを開けた瞬間、俺は目が合っていた。だが、それは変だ。このロッジ内には俺と綺姫しか居ないはずだからだ。
「ひっ!?」
「えっ、あ、君は……?」
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