第53話 自覚と自重の狭間 その2
「えっと、じゃあ何から話すかな……まあ俺は去年大学入ってさ、あ、今は二年なんだけどよ……それで、自分でも割とオープンなオタク趣味でさ、だから、えっと二人とも特撮とかSFとか知ってるか?」
早口に話し出した聡思さんは止まらず、俺たち二人が喋る暇を与えず喋り続けた。そして止まったタイミングで俺が何とか口を挟む。
「光の巨人とか仮面なバイク乗りとかですか?」
「そうそう、それだそれ……昔から正義のヒーローとか好きでさ近所のダチとか集めてヒーローごっことかやってて、その延長線上で大学でも特撮とかSFとか好きな奴らが集まるサークルに入ったんだ」
特撮・SF・アニメなどのサブカルチャーを集めた『サブカル研究会』というのに入学して一週間で所属したそうだ。高校時代も友人はいたが同じ趣味を共有できる者は少なく、だから自分と同じ趣味を持っている人間と話せることが楽しかったと言った。だが聡思さんの発言は全て過去形だ。
「俺は大学ではバイトがメインでサークルは入らなかったな」
瑞景さんの話を聞きながら二人とも講義はちゃんと受けてないのかとツッコミそうになったが聡思さんが話したそうにしてるから「どうぞ」と先を促した。
「夏休みまでは「コミセ」って言う俺らみたいな連中が集まる集会みたいなのが有ってさ、最近はテレビとかでニュースになってるけど知らないか?」
俺は知らなかったが瑞景さんが夏と冬に年に二回有るあれだね? と言うと聡思さんはテンションが上がって、参加した時の話を聞いて無いことまで丁寧に話してくれた。本当に良い思い出だったんだろう。
「サークル活動って学内だけじゃないんですね、参考になります」
「ああ、ま、だけど星明もこっからの話はマジ大事だから聞いとけ俺の失敗談だ」
その言葉で聡思さんがいよいよ本筋に入るんだと分かった俺は少し身構えた。
◆
「それがコミセ後からサークルの一人が友達だって紹介して新人が入って来たんだ」
「その人に問題が?」
「まあ聞けよ星明、そいつさ……バリバリのギャルで最初は住む世界違うし冷やかしに来たって思ったんだ、でも俺はすげえ美人で内心喜んじまってよ」
聡思さんはオタクに優しいギャルとかいう現実では存在しないような人間に憧れていたらしく自分にも春が来たと舞い上がっていたと自嘲していた。
「まさか聡思くん……それって」
「さすが瑞景さんは分かるか……当時の俺に言ってやりてえ……まあ、色々有ったんだけど、その女は『サークラ』だったんだ」
サークラとは何だろうか聞いたことが無いと俺が言うと二人は神妙な顔をした後に俺に説明してくれた。サークルクラッシャーの略らしく二人の説明ではサークルを乱す者で主に女性が多くサークル内の人間関係をグチャグチャにするそうだ。
「なるほど、サークル内で複数人と付き合い内部崩壊させると?」
「まあ、そういうこった……で、俺も当然、声かけられたんだよな……六番目に」
その時は既に副会長まで手を出していたらしい。女子会員も数人いて注意はされていたらしいがサークルに呼び込んだ人間と女が巧みに動き発覚が遅れたらしい。そして何も知らない聡思さんはホイホイ騙されてしまった。
「ま、俺が六番目だって言ったから後は分かりませんか瑞景さん?」
「つまり聡思くんが喋って発覚した感じかな?」
「ええ……そしたら会長以外の全員と付き合ってるのが判明して俺を落として次が本丸だと思ったのにとか言われて……」
初カノだからと嬉しくて周囲に自慢したことで事態が発覚したらしい。最後は会員同士で殴り合いになり会長が止めなければ大変なことになっていたみたいだ。そして仕掛けた女と協力者は大成功だと言ってサークルを去った。
「そんな奴、大学は野放しなんすか?」
「まあ、しょせん学生同士の揉め事だ……解決は自分達でって話じゃないかな?」
瑞景さんの指摘通りだったらしく、そもそも会長以外は全員が罠にはまった気まずさからサークルを去り中には大学を辞めた者まで出てしまった。聡思さんも例外ではなく講義以外は家でネットに引き籠る生活になったのが現状だそうだ。
「情けない話は続くがよ……その件が有るまで咲夜がギャル系の恰好して部屋に見せに来たりして相手してたけど、サークラ後は勝手にキレて二度と見たくないとか言っちまってな」
「それから浅間を遠ざけていたんですか?」
その女を思い出すから反射的に大声で部屋から追い出したり関わるなとか言って険悪になったらしく聞く限り浅間は悪くない。疎遠になったのはトラウマも有るが自分が情けなくて浅間と顔を合わせ辛くなったのが真相らしい。
「なるほど、でも浅間ちゃんは違いそうだけど?」
「だからっすよ、俺みたいなバカと関わってるより彼氏とか作った方がアイツのためだって、だから彼氏出来たって聞いた時はホッとしたんですよ」
そこまで聞いて俺は一つ気になったことが有った。だから聡思さんに聞いてみる事にした。
「あの、聡思さんって浅間のことをどう思ってるんですか?」
「あ? そりゃあ、可愛い妹みたいなもんだ、だから情けない兄を気にしてないで自由にして欲しいって……二人とも、どうしたんだ?」
この人、浅間に好かれてるって自覚が無いのか……あれだけ露骨にアタックを受けているのに分かってないのか?
「それは君も一緒だと思うけどな……」
「何がですか瑞景さん?」
「まあ、俺に言えることは変に自覚が無かったり無駄に自重するよりも自分の心に素直に生きた方が良いってことかな」
今の言葉は聡思さんへ向けてだと思うが俺の心にも少し引っかかった。でも自分の心に素直にか……なら俺の心は決まっているが……。
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