第55話 それぞれの再会 その2


 正直、俺はホッとしていた。目の前に現れたのが熊みたいな猛獣や押し込み強盗だったりしたらアウトだっただろう。だが目の前に現れたのは……。


「あっ、ううっ……ひっ!? だれぇ?」


「君は……誰だ? いや待て……確か最近」


 そこに居たのは小さな男の子だった。服は子供にしては身なりが良く近所の悪ガキというよりはお坊ちゃまといった感じで年齢は俺の見た所、小学校に行ってるか怪しい年齢だと思う。


「ママ、パパぁ……どこぉ……?」


 だが、それより俺はこの子供に見覚えが有った。つい最近の出来事で俺はすぐに思い出した。


「君はメイドのモニカさんと旦那さんの子供の……名前はたしかアルカ……くん?」


「ううっ、うわああああああああん!!」


 名前を呼んだ瞬間ビクッとした後に大声で泣き出してしまった。寝起きの頭には良く響くし、まるで頭痛みたいに脳への強烈な痛みが俺を襲う。


「こ、子供の泣き声ってこんな響くのか……」


「ちょ、ちょっと星明どうしたの……って、その子どうしたの!?」


 後ろを向くと綺姫がドアから顔だけを出して俺と男の子、たぶんアルカ君を見て大声を上げていた。そして、その声にビックリしてまた彼は泣き出してしまう。


「うっ!? い、いや実は……起きたら」


「あれ? この子……モニカさんと旦那さんの!?」


 綺姫も思い出したようで部屋から出て来るがシャツに下着を付けただけの姿で俺も上半身裸でトランクスだけだ。子供相手でもマズいと考えた俺達は急いで着替えることにした。




「何で、ここに居たのかな?」


「ううっ……ひっく」


 ダメだ泣いていて話が全く進まない。どうすべきか……子供の相手なんてしたことないからと困っているとエプロンを付けながら綺姫が唐突に言った。


「う~ん、じゃあ朝ごはんにしよっか? 二人とも座って待ってて」


「「へ?」」


 奇しくも男の子と俺の声が合わさったが綺姫は我関せずと言った感じで朝食の用意を始める。一方で俺たちは顔を互いに見合わせると黙って座ることになった。


「おいし~!!」


「そっか~、お姉ちゃん頑張ったからね~!!」


「でもママの方がもっと、おいし~!!」


 このガキ俺の綺姫の料理にケチ付ける気かと思ったのだが、また泣かしたら大変だと思って必死に抑えた。


「そっか~、モニカさん料理凄い上手だったしね~」


「うん、ルリカママも同じくらいできる~」


 誰だそれとか思うが子供の言うことだから恐らくルリカという友達の母親のことだろうと俺は推理した。だから俺は食事で口の軽くなった彼に尋ねてみた。


「えっと、君はアルカくん……だよね?」


「うん!! 秋山 在流加アルカ四歳!!」


 やはり名前はアルカで良かったみたいだ。それにしても四歳なのにキチンと喋るな。俺が小さい頃なんて……その瞬間またしてもズキッと頭痛がした。


「っ!? うっ……」


「星明!?」


 俺の表情の変化に気付いた綺姫が慌てたように動くが俺は手で制して大丈夫だと示した後に口を開いた。


「もう大丈夫だよ……そうだ名乗ってなかったけど俺は葦原星明だ」


「アタシは天原綺姫だよ~、よろしくねアルカ君」


「うん、お兄ちゃん、お姉ちゃん!!」


 名前はまだ一発では覚えられないようだが認識されたようだ。そこで俺達は話を聞いて行くと彼、アルカ君はホテルで暇を持て余し遊んでいたら気付くと森の中にいたそうだ。


「気付いたらって……ホテルから割と距離が有ると思うが」


「分かんない」


 そらそうだ。俺も分からないからなと言ったら笑っていた。今の言い方は例の旦那さんに似ていたらしい。


「パパに似てる……ってそ~だ、パパに怒られる……勝手に使ったから」


「勝手に何を使ったのかな?」


「え、えっと……鍵?」


 綺姫が尋ねると鍵と言った。なるほど鍵を勝手に使って出て来たと言う話か。待てよ……じゃあ今頃はアルカ君を探しているんじゃないだろうか。俺はそう考えると綺姫に言ってすぐに他のロッジの二組に連絡を取った。




「じゃあ、行ってきます」


「ああ、店は俺らに任せろ……ど~せ暇だしな」


 聡思さんがニヤリと笑って俺と綺姫それに両腕を俺たちに掴まれたアルカ君を見て言った。


「あと、ついでに叔父さんにこのメモを、八上支配人を呼び出してくれって言えば通じると思う、ダメだったら別に渡さなくて良いからよ」


「分かりました。じゃあ行こうかアルカ君?」


「うん、お兄ちゃん!! 綺姫姉ちゃん!!」


 どうして綺姫だけ名前呼びなんだ?とか思ったが言わないでおこう余計なこと言うと、また泣き出すかもしれない。


「それにしても、今の三人って親子みたいじゃん」


「たしかに珠依の言う通り、若夫婦とお子様って感じだね」


 海上と瑞景さんに、からかわれながら店を他の皆に頼むと俺と綺姫はアルカ君を逃がさないように注意して散歩コースを歩いてホテルに向かう。初日にも行ったし何度か巡回したから道順は分かっているが森は小さい子には危険だ。


「でもさ子供はまだ早いよね、星明~!!」


「まだ? 確かに俺たちの年齢では普通じゃないが……」


 俺が言うと露骨にガッカリしていたが俺は別な事を考えていた。子供は計画的に作るべきだと思うのが持論で実際、俺は失敗作のように本当の両親から言われたことも有ったから安易に作るのはダメだと思う。だから常に避妊は心掛けていた。


「それにしても何か違和感が……」


 歩きながら俺は昨日とは違う雰囲気を感じながらも隣の二人が話すのを見て家族かと物思いにふけってしまう。そしてホテルのエントランスが見えた時だった。


「大人しく手を上げろ!!」


「アルカ様から手を離せ誘拐犯が!!」


 いきなり周囲を五人の黒服、しかも拳銃を構えた男達に囲まれた。そうだ、変だったのは昨日まで巡回していた黒服が今日は、ここまでの間に一人も居なくて静か過ぎたことだと気付いた時には遅かった。


「ほ、星明~どうなってるの~!!」


「俺が知りたいよ……」

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