第56話 それぞれの再会 その3
俺たちは困惑していた。特に綺姫は茫然として状況を理解しておらずアルカ君の手を握って震えているから俺が前に出る。構えている銃はたぶん本物だ。前にジローさんに見せてもらったことが有る。
「いきなり何ですか? まずは話を……」
「いいから口を開くな。こちらは、この国の法に縛られない特別権限も保持している、繰り返す、手を上げろ!!」
そう言って問答無用で五人の黒服は俺たちへの包囲を狭めた。いきなりのことで頭がパンクしそうだが向こうは「アルカ様」と言った。なら交渉の余地は有ると思う。
「とっ、とにかく一度話し合い――――っ!?」
話し合いをと言おうとしたタイミングでパンと音がした。黒服の一人が空に向けて空砲を撃ったのだ。そのことに気付いたのはアルカ君が泣き出したからだ。
「うっ、うわあああああん、綺姫お姉ちゃん!?」
「だ、大丈夫だよ、アルカ君、ね?」
「いきなり撃つとか正気か……」
綺姫が震えた声で言うが俺も恐いし絶体絶命だ。大人しく手を上げて話すしか無いと思い綺姫を見た。だが状況が一気に動いたのは正に、このタイミングだった。
◆
「動くな!! 次は脅しじゃ――――「まず冷静になるのは、あなた達です!!」
どこからともなく凛とした声が響くと同時に包囲していた黒服たちの内、三人が倒れ残り二人も銃を取り落としていた。
「なっ……これは!?」
「なっ、なぜです奥方様!?」
そこにいたのはメイドのエプロンドレスにカチューシャを付けた美女、モニカさんだった。今、何かが起きたのだろうが俺や綺姫には全く見えなかった。
「黙りなさい、状況判断も出来ず民間人に銃を向けるとは何事ですか!!」
「ママッ!?」
さっきまで綺姫の手を握っていたアルカ君が真っ先に走り出すとモニカさんの足に抱き着いていた。わんわん泣いて母親に甘える姿に安堵すると同時に少し羨ましさも有った。俺には一度も無い経験だから。
「で、ですがアルカ様の身柄を確保するようにと、あの方から!!」
「あの人は今は会談中、その間の雑事の権限は全て私に移譲されています。意味は分かりますね?」
なおも食い下がる黒服たちに対し一歩も引かず有無言わせず黙らせる貫録はメイドと言うよりもクイーン、まるで女王のような威厳が有る。
「はい……大変失礼いたしました、モニカ様」
「分かれば結構、残りは私の方でやりますので、あなた達は報告に戻りなさい」
しっしっと手を振る様子は何というか凄いテキトーな感じで、さすがに指示を受けた黒服たちも納得が行かないのか食い下がった。
「それはっ……ですが!?」
「あなた達が何人いようとも私以下なのは証明済みです。ふっ、そうですね……もし私を止めたければ救世主でも連れて来なさい?」
「ぐっ……畏まり、ました……行くぞ」
今のは何かの隠語だろうか? だが、それを聞いた黒服たちは悔しそうにしながらホテルに戻って行く。
「ふぅ、民主派が回して来た犬共が調子に乗って……さて、アルカ怪我は無い?」
「うん、ごめんなさい……」
黒服たちが居なくなるのを確認すると、しゃがんで頭を撫でながらホッとした表情を見せる姿は母親のそれで、アルカ君を優しく抱きしめた。
「……後でパパとも話しましょう、さて二人とも、とんだ騒ぎに巻き込んでしまいましたね、申し訳ございません」
「い、いえ今のは……一体何なんですか?」
茫然としている俺たちの方に向くと「そういえば三日ぶりですね」と気楽な調子で先ほどの怜悧な顔から初対面の時のような強引で飄々とした態度に戻っていた。
「詳細を知りたければ、お教えしますが後戻りが出来ませんよ?」
「それは……何も聞くなと?」
「いえいえ、あなた達を巻き込みたくないというメイドの気遣いです」
そこまで言われたら何も言えない。隣の綺姫もコクコク頷くとモニカさんは良い返事ですと言った後に多少の世間話くらいはしたいと言って俺たちをホテルの自室へと招待してくれた。
◆
「すっご~い!! これがロイヤルスイート!!」
「広いだけで掃除するのが面倒な部屋ですけどね」
当然のように最上階に案内された俺と感動する綺姫を尻目に妙に現実的なモニカさんは苦笑しながら紅茶を用意してくれた。そして部屋には秋奈さんも居て、その腕の中には女の子の赤ん坊がいた。
「あっ、女の子!! もしかしてアルカ君の妹?」
「う、うん……マリヤって言うんだ」
なぜか照れているのは妹を見せるのが恥ずかしいのか、それとも相手が綺姫だからなのか気になる所だ。どうも朝から綺姫に懐いてるような気がする。そんな二人を見ていたらモニカさんが口を開いた。
「今回は本当に感謝します。貴方たちには二度も助けられました」
「大袈裟です……それよりアルカ君のことですが」
そこで俺は今朝のことをモニカさんに話した。綺姫はアルカ君や秋奈さん達と遊んでいる方が良さそうだから任せ俺が報告をすることにした。
「そうでしたか、それは本当に申し訳ありませんでした。あの子は少し特殊でして」
「はぁ、特殊ですか……でもホテルからロッジまでは」
特殊とかそういうレベルでは無いと思うのだがと疑問符を浮かべたが詮索はしない方が良いのは先ほどのモニカさんの態度で分かっているから深くは聞かない。
「そうですね、私と夫も昨晩は義母とマリヤの方に集中してて迂闊でした」
そんな話をしていると乱雑にバタンとドアが開く。いきなりでモニカさん以外はビクッとすると入って来たのは旦那さんだった。
「モニカ!? アルカは!?」
「あなた落ち着いて下さい。善良なカップルが息子を届けてくれましたよ」
「なっ、どういう意味だ……君たちは喫茶店の……」
一応は海の家なんですけどね……ま、どう見ても喫茶店なのは否定が出来ないんですけどね。
「どうも、三日ぶりですね……」
「ふっ、モニカみたいなことを言うな君は」
さすが夫婦だ。よく分かってらっしゃると苦笑していると旦那さんの後ろからホテルの従業員らしき女性がノックをして入って来た。
「失礼します区長、お客人が部屋の前まで……」
「そうか仕方ない、じゃあ通してくれ」
「その必要は有りません区長、勝手に入室させて頂きました、タイムイズマネー、日本人の区長でもご存知ですよね?」
旦那さんが言うとドアの向こうから声が聞こえ入室して来る。そして俺にはその声に聞き覚えが、すご~く有った。
「ああ、分かっているよ八岐女史」
「えっ!? やっぱり……七瀬さん!?」
「ほぉ……あんたが何でこの超VIPの部屋に居るのかしら? 私でも二時間待たされたのに、とにかく久しぶりねセイメー?」
入って来たのは
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