第57話 それぞれの再会 その4
「そ、それは……」
俺が返答に窮していると状況を全て把握しているような完璧なタイミングで口を挟んだのはモニカさんの旦那さんだった。
「八岐女史、彼は妻の友人で私の客でも有る、できれば話は後でお願いしたい」
「そうですか……セイメー、後でスマホに連絡入れるから、またね~」
スマホを手で振って示す七瀬さんは旦那さんと隣の部屋に行ってしまった。あの人が日本に戻って来るとはジローさんから聞いていたけど……何でここに? それに旦那さんと何の話を?
「あの方とお知り合いですか?」
「はい、バイト関連で昔お世話になったことが有る人です」
「なるほど、彼女はアメリカで夫らに売り込みに来たそうですが私は良く知らされて無いのですよ」
七瀬さんが売り込んだって……相変わらずだな、そして目の前の人や旦那さんは凄いVIPなのは確定した。正直な所アルカ君の話だけして帰ろうと思っていたからタイミングを完全に逸していた。
「あ、そうだった、俺たちバイトが……」
「そうでしたね申し訳有りません。この度は当家及び部下が大変失礼いたしました、わたくし共はあと四日ほど滞在予定です、これに懲りず何か有ればご連絡を」
そう言って渡された名刺には『メイド道探究者 秋山モニカ』と書かれた名刺と裏にはスマホアプリのSIGNの招待コードが載っていた。
「これは……」
「お気付きでしょうが国家権力を少し使える身分に有ります。あなたは当家と、とある王国の王太子候補に大きな貸しを作りました、有効に利用なさい」
ニコリと笑み浮かべるモニカさんは俺をからかっているようだが中身はとんでもない内容だ。アルカ君の正体そして何よりこの人や旦那さんの正体を下手に調べようものなら後戻りが出来なくなるのは確実だ。
「で、でも……それは」
「ま、平たく言いますと何か困ったら我が国の救世主が助けるという意味です」
「あの、先ほどから救世主って何の話ですか?」
そのワードが気になっていた。おそらくは何らかの隠語なんだろうが俺は生憎そんな言葉聞いたこともない。
「そのままの意味です……では名残惜しいですが綺姫さんとあなたをバイト先まで車で、お送りましょう」
まだ遊びたいというアルカ君を納得させるのに少し時間がかかったが俺たちはモニカさんと彼女の直属のSPに守られ帰る事が出来た。戻ると店の前を掃除していた浅間に驚かれたが、それだけで後は夜まで普通にバイトをして過ごした。問題はディナータイム後に起きた。
◆
「今日は忙しかったな……」
「売り上げ数えたけど昨日の三倍行ってる……」
海上の言葉に俺は何となく嫌な予感はしたが黙っておく事にする。綺姫は大喜びでボーナスとか出るかな~とか脳天気なことを言っていた。前のコンビニバイトではクリスマスとか元旦は時給に追加されていたらしい。
「まあ、その辺りは叔父さんに上手く言ってみるさ」
「お願いします、八上さ~ん」
「ま、天原のお願いなら頑張るか!!」
今の綺姫の一言で浅間の眉がピクッと反応したが当の本人らは気付いていない。聡思さんは純粋に綺姫が天使だと思ってるし綺姫はお金が欲しいだけなのだ。
「浅間、落ち着け綺姫に他意は無いから」
「分かってる……てか、あんたにフォローされると色んな意味で負けた気になるわ」
そんな日常の雰囲気が戻って来てクローズまで三十分を切った時にカランとベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
瑞景さんが一番に反応し声をかけて俺も振り返りながら口を開こうとして固まった。今朝見た人と他にも知り合いが二人もいたからだ。
「よっ、セイメー、スマホの返事ないから来ちゃった」
ニヤニヤ笑う俺の師匠は両サイドに夜の華を侍らせ入店して来た。聡思さんもだが意外にも瑞景さんも三人を見てボーっとしている。だが、それも仕方ないと俺は思う。
「本当にバイトしてる、まるで学生みたいだねセイメー?」
「それに髪型も変わったのね……ふ~ん前より良い男になった?」
「七瀬さんだけじゃなくて……なんで菊理姉さんと橘姉さんまで!?」
なんせ七瀬さんの両サイドに居るのは夜の街『
「お~、セイメー最近はよく会うな……」
「ってジローさん!?」
その後ろからグッタリした様子で歩いて来たのはヤクザ屋さんの八岐二朗さんだった。いつものような覇気が無いから普通の人に見えてしまった。
「二朗兄さん情けないなぁ……せっかく美女が三人もいるのに~」
「お前らの接待で俺も舎弟も大変だったんだぞ……」
どうやら一難去ってまた一難、今度はこの人達の相手をしなくてはいけないようだ。思わず振り返ると綺姫と目が合った。
「あはは、どうしよ星明……」
本当にどうしようか……昼とは違う意味で怖いのがこの集団だ。しかも海上たちにもジローさんらとの関係は話してないから説明が死ぬほど大変で有り体に言えば最悪の再会だ。
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