第136話 災いを呼ぶ名前 その1


「少し焦り過ぎたか……まだまだな俺も」


「ミカ兄?」


 笑みを浮かべたまま頭をボリボリかいて私達を見る瑞景さんは困った風で、もういいんじゃないと私は思ったけど星明とタマの目は疑ったままだった。


「確かに俺は見ていたさ……そりゃ相談されたからな珠依に」


「それだけじゃないでしょ、これは何?」


 そう言ってタマはスマホの画像をスッと出す。そういえば私たちは瑞景さんを疑った根拠はこれだったのを思い出した。


「それは二人を守るためさ当然だろ?」


「それじゃ根拠が弱過ぎますよね?」


「その通りだ!!」


 星明の指摘に八上さんが言うと瑞景さんは「困ったな……」と呟いて笑みを浮かべているけど、それは焦った顔ではなく本当に困惑している感じで私には不思議に見えた。まだまだ余裕が有るように思えたから。


「あのぉ、仮にアタシと星明を守るためでも何でですか?」


「いや、だから心配で――――「学校に乗り込んでまで、ですか?」


 私と星明が須佐井に殴られそうだった時に瑞景さんと八上さんは、ギリギリのタイミングで須佐井を止めてくれた。

 あれが無ければ星明は大怪我してたし須佐井を誰が止められたか分からない。感謝してるけど体を張ってまで私や星明を助ける理由が気になるのは当然だと思う。


「もちろんさ、実は俺の志望先というかバイト先がここでね」


「えっと秋山綜合警備保障? ガードマン?」


「まあね、それで実は護衛の勉強になると思ってね、いや~ごめん、二人を練習に使ったんだ、このと~り」


 そんなバカなと星明が言うしタマも違うと言うけど瑞景さんの話は続く。この会社へ卒業と同時に就職予定で、だから都合がいいから練習台にしたかったという話だった。


「えっ!? そんな言い訳」


「じゃあ逆に聞くけど俺がまさか正義の味方で、君達を陰から助けていたとでも?」


「いや、だけど……それで護衛ごっこを?」


「ごっこは酷いな、これでも自分なりに護衛計画を立てたんだよ?」


 星明も困惑している。確かに先に話された「護衛ごっこ」の方が可能性としては高いと私も思ってしまった。



――――星明視点


「いやっ、でも!? じゃあ今日は何でですか?」


「今日は皆が変だったからさ、だって俺の言う事に全部なんか言うし違和感が有っただけさ」


 俺の横で首を縦に振る綺姫も変だと思うと言って続くように海上が口を開く。


「じゃあ何で咲夜たちに見向きもしなかったの?」


「見てたよ? 二人がチュロスを買って大きいから半分にしたのも、ミラーハウスに入る時に浅間ちゃんがこっそり聡思くんの腕に抱き着いてたのも、ほら写真だ」


 そう言ってスマホを見せて来ると確かに追跡中の時の一幕だ。そんな素振り見せていなかったのに、でも証拠は有る……どうなってるんだ?


「いつの間に……」


「もちろん動画を撮られてるのも気付かない振りさ、むしろ皆で何か企んでるって確信したからネタバラシを待ってたんだよ」


 完璧な言い訳だ。だが前提が変だ。将来のために護衛の真似事? それは絶対に違う。だが同時に俺や綺姫を監視する理由が怪しいとはいえ提示されたのは大きい。現状で疑う根拠が無い。


「で、でも……」


「珠依、今回は俺も悪かった、皆を騙すような形で済まなかった」


 そう言われて頭まで下げられたら追及は無理だ。明らかに怪しいけど自白する気は無いし、他の理由も分からない。先ほど瑞景さんが言ってた裏で俺達を守っていた正義の味方だったんだ!! という話は論外だ。


「いや、頭を上げて下さい瑞景さん」


 海上も釈然としない顔だから疑っているし聡思さんも同じだ。こんな事は絶対に違うのに飲み込まれている感じだ。しかし同時に俺は自分の甘さを実感していた。

 ここまで追い詰めれば自白すると思っていたし海上との当初の話で、このタイミングで真相を聞けると考えていたからだ。明らかに一手足りなかった。


「信じてくれるかい星明くん?」


「ええ……今は」


「ありがとう、じゃあさ、お節介ついでに一つ、いいかな?」


 まだ何か有るのか? この後に及んで何だと俺はいぶかしんだ。だが瑞景さんは俺たちの予想外の一手を打って来た。


「皆の目的は俺だったのかも知れないが俺は別の目的が有った」


「何の目的が有ったんすか?」


 そう言って悪態を付いて先を促すのは不貞腐れてる聡思さんだ。俺も同じ思いだが瑞景さんの目的って一体なんなんだろうか?


「俺の目的は聡思くんだよ」


「俺? いや意味が分からないっすよ」


 聡思さんも俺も完全に予想外だった。狙いは俺と綺姫だと思っていたからだ。何で急にこんなことを言い出すんだ瑞景さん? これで俺はさらに困惑したが次の一言で衝撃を受けた。


「俺は君と浅間ちゃんに早く付き合って欲しい、だから君のトラウマの原因の相手を調べさせてもらった、先ほどの関係の伝手つてでね?」


「ま、待ってくれ瑞景さん今その話は――――「聞かせて下さい瑞景さん!!」


 その言葉にいち早く反応したのは浅間だ。それで聡思さんも焦って完全に本来の目的を見失っていた。俺も止めようとしたら綺姫が手を強く握ったから一瞬、反応が遅れてしまった。


「おい咲夜、今は――――「聡思兄ぃは黙ってて!!」


 その間に瑞景さんはゆっくりと真実を口にした。


「君を騙し、君の居場所を奪ったサークラ女の名が須佐井照陽てるひ、あの須佐井尊男の実の姉だったんだね」


 その言葉で俺は固まった……須佐井の姉だと? 今までの計画が全て吹き飛ぶほどの新事実だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る