第49話 バイトと出会いと進展と? その2


「えっ、葦原……なんで?」


「だよね星明!!」


 困惑する浅間の声を聞きながら俺は綺姫の動きと言動を見て自分の判断が正解だったと確信する。言い方は悪いが綺姫の行動原理は単純だ。そして俺は夜の街で様々な人間模様を見て来た経験から綺姫の気持ちも手に取るように分かる。


「まあ葦原……じゃなくて星明が言うなら次の休憩の時に行くか?」


「うん……って、何で葦原の言うことならなのっ!?」


「ああ割と馬が合って、な?」


「ええ、そうっすね聡思さとしさん」


 俺達が「イエ~イ」とハイタッチすると浅間が恨みがましく俺を睨んだ。陽キャな気分を味わいたかったのに台無しだ。


「な、何で、もう名前呼び……そんな……私が葦原に負けた!?」


「良かった、星明に男の子の友達が出来てる!!」


 綺姫の反応は上々で俺の読みは確信に変わった。ならば俺は綺姫の望むように動いた方がいいだろう。その方が海上たちからの覚えも良いだろうし何より綺姫が喜んでくれる。そうすれば少しは……なんて考えていたら急にズキンと頭が痛んだ。


「うっ、くっ……何だ?」


「星明どうかし――――」


 しかし綺姫の言葉は急な来店を告げるドアベルのカランと言う音で阻まれた。


「失礼します、少々よろしいでしょうか!!」


 来店のお客さんだと俺は少し痛む頭を無視して背後に振り向く。綺姫と他の二人も反応したが全員が一瞬にして固まった。


「え?」

「は?」


 俺と浅間はただただ驚いていた。その来店した客の恰好にだ。


「マジなのか?」

「えっと、メイド……さん?」


 聡思さんは冷静なように振る舞っているが口を開けて少しアホっぽい顔になっていて綺姫は目の前のメイド服姿の女性を見てポツリと呟いた。


「申し訳ありませんが、私の……主の気分が優れなくなりまして少し休ませて頂けませんか?」


 その優雅な礼は俺ですら分かるくらい堂に入った見事なものでテレビやネットで見るようなアキバのパチモンとは一線を画している。その本物の気迫のような何かに俺たち四人は気圧されていた。


「えっと……」


「まあ、とにかくどうぞ、えっと救急車とか呼びますか?」


 俺たち高校生組がおろおろしている中で真っ先に動いたのは聡思さんだった。言い訳すると俺は頭痛が残っているから咄嗟に反応が出来なかった。だが聡思さんほど冷静に対処するのは難しかったと思う。


「不要です、少し特殊な持病ですので休ませて頂ければ……どうぞ」


 なぜならメイドさんは凄まじい美女だったから発作が起きていた可能性が有ったからだ。しかし怪我の功名とは正にこのことで頭の痛みで発作も抑えられていた。


「ええ、ふぅ……すいませんね、少し休ませて頂きますね」


「わぁ……綺麗……」


「こっちも美人とか……」


 そして入って来たのは妙齢の女性、俺の見た感じでは四十代くらいの清楚な女性がメイドさんに手を引かれて入店する。少し顔は青白く苦痛に歪んではいたが美貌は損なわれておらず頭痛が無ければ危険だった。


「おい咲夜、取り合えず水を、星明は裏の二人を呼んで来てくれ」


 俺と浅間は弾かれたように動き出す。後ろから綺姫の声も聞こえた。


「あ、あの八上さんアタシは!?」


「天原さんは表をクローズに、んで戻ったらお客さんの話を聞こう咲夜お前もだ」


 そう言われた浅間は元気よく返事をして生き生きとしていた。ふっ、丸分かりだな俺の勘では浅間はあんなことを言っているが聡思さんが好きなのだろう。片思いをしている身としては気持ちは分かるぞ浅間。




「ふぅ、だいぶ落ち着いたわ……ありがとう皆さん」


「改めて感謝申し上げます皆様」


 まだ少し眩暈がするらしいが落ち着いたらしい女性とメイドさんから、お礼を言われた。本当に少し休めば大丈夫だったのには驚いたが本人から心因性の病気だと説明され納得した。


(俺と同じで心の病、精神病か……大変だなこの人も)


「それで、お客様どうしましょうか?」


 瑞景さんが尋ねるとお付きのメイドさんが頷くと女性の方が落ち着いたのか穏やかな口調で喋り出した。


「申し訳ないけど、もう少しだけ休ませてもらっていいかしら? 迎えの連絡はもう頼んだので」


「それは構いませんが……」


 瑞景さんは困惑していたが俺は別なことが気になっていた。いつの間に連絡なんてしたのだろうか、俺が裏に二人を呼びに行った間かもしれないがスマホを使ったり確認する素振そぶりを一度も見せないから少し不自然な気がした。


「奥様、こちらは喫茶店のようですし何かを注文した方がいいのかと」


「奥様って……もう!! あなたの方がむしろ、ふふっ……でも分かったわ小腹も空いたから、このサンドウィッチとストレートティーをお願い出来るかしら?」


 二人だけの意味深なやり取りに困惑する俺たちだが一早く立ち直った瑞景さんが素早く指示を出していた。


「はい、ありがとうございます綺姫ちゃん、お願いできる?」


「はい喜んで~!!」


 綺姫それじゃ居酒屋バイトだと俺は内心ツッコミを入れながら後を追って紅茶の用意を始めた。今日だけで何回もやったから淹れるのも慣れたものだ。綺姫の方はまだ時間がかかるから先に俺が紅茶を出し間を繋ぐ。


「こちら、ご注文の紅茶になります」


「ありがとう」


 ふぅと息を吐いて紅茶を一口飲んだ女性いや貴婦人は表情を和らげていた。続いてメイドさんの方にも紅茶を置いた。


「いただきます…………ふむ、マイナス50点ですね」


 なんかメイドさんに採点されたんですけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る