第50話 バイトと出会いと進展と? その3
「まず水が適温ではありません、それにポットはおろかカップすら温めていない。そもそも、この短時間なら茶葉の蒸らしも足りてないでしょう 硬水ではなく軟水なのは日本だから助かっているようですね……」
隣で貴婦人が苦笑しているが、お構いなしにメイドが色々と指摘してくるが何を言ってるのかチンプンカンプンだ。軟水? 硬水? なんの話をしているんだ?
「え? そんなのマニュアルには……」
「なるほど淹れる人間がそもそも素人……この店のマスターはどちらですか?」
そこで俺は黙ってしまった。そもそも夏の間だけ任されただけのバイトで、この見た目が喫茶店のような海の家にマスターなど最初からいない。
「お客様、申し訳ありません……実は……」
瑞景さんが代表して俺たちの事情を話すと目の前のメイドは「なるほど」と頷いた。そして笑った。
「事情は理解しました。ですが仮にも客商売、わたくしのようにメイド道を究める必要は有りませんが少しお粗末では? 学園祭の出し物ではないのですから」
「それは確かに……そうっすね」
その言葉に瑞景さんよりも今回の仕事を任された形の聡思さんも落ち込んでいた。ぐうの音も出ない正論だと俺も思う。
「あのっ!! お客さんでも言い方って有るんじゃないっ……ですか!! てか聡思
「咲夜……」
プルプル震えて聡思さんの前に出てメイドを睨む浅間は一歩も引かない様子で海上と瑞景さんは焦って浅間を止めようした。だが他ならぬメイドの方が二人を手で制して言葉を続ける。
「努力は必ずしも報われませんし、お客様はそんな店側の事情など知りません。言われても迷惑かと思いますが?」
「そっ、それは……で、でもっ!!」
「すいません、お客さんコイツ昔から頑固で、後で言っておきますんで」
なおも引かない浅間に聡思さんが間に入って頭を下げ一緒に浅間の頭も手で掴んで無理やり下げさせていた。夜の街でも何度か見た事のある光景だ。
「まあ、良いでしょう……子供相手にムキになり過ぎました謝罪します」
そこでメイド側も軽く頭を下げ場は収まった。貴婦人の方は軽く溜息を付いていたがメイドの暴走をどう見てたんだろうか。そんなことを考えていたらカウンターから声がかかる。
「あ、あのぉ~、いいですか? お客さん」
「あ、そういえば忘れてた、綺姫できたの?」
そうだ目の前のやり取りで俺の綺姫が調理していたのを忘れていた。海上が慌てた様子で見に行くと綺姫のサンドウィッチは準備万端だ。そしてそれを運んで来た綺姫は少しビクっとしてメイドを見た。
◆
「ご、ご注文のサンドウィッチ出来ました~」
「ありがとう、お嬢さん」
貴婦人の方は相変わらず穏やかで優しい。一方でメイドの方は綺姫を見ると無造作にサンドウィッチを手に取り一口。何か言おうものなら今度は俺だ。綺姫は全力で守ろうと俺は覚悟を決めていた……さあ来いメイド。
「美味しいわ、この卵サンド」
やはり貴婦人は普通のリアクションだ。そしてメイドの方を見ると目を点にしていた。また何かケチ付ける気か綺姫の手作りを食べれているだけで感謝しろと言いたいのを我慢して奴の言葉を待つ。
「素晴らしい……素材は平凡ながら工夫がなされてますね、レタスの水気も程よくハムの風味も損なっていない、卵の方も……ふむ、やりますね貴女、メイドポイントを10点差し上げましょう」
しかしメイドの答えは俺の予想を超えていて綺姫をベタ褒めだった。
「えっ? あ、ありがとうございま~す?」
そもそもメイドポイントって何だ? という疑問は聞いても答えてくれなさそうだ。そして綺姫に近付くとレシピを聞いていた。
「なるほど、食べるラー油ですか……」
「そうなんですよ~、昨日練習してて使えるかな~って」
「なるほど、これは勉強になりました」
なぜか綺姫と意気投合していた。てか食べるラー油なんて入れていたのか綺姫。凄い気になるから後で材料が余っていたら頼んでみよう。そんな事を考えていた時だったカランと音がして店のドアが開かれた。
「失礼……」
「すいません、お客さん今お店は閉めていて……えっ?」
音がして最初に反応したのは海上だった。そして入って来たのはグレーの背広姿の大柄な男性だ。背が俺より頭一つ以上は大きくて男性陣の中で一番身長が高い瑞景さんより大きいから180センチは余裕で越えてそうだ。
「知ってるさ……こちらで俺の母と妻が世話になっていると先ほど連絡が来たのだが、あっ、いたいた」
そう言うとズカズカ早足で入ってくると男性は貴婦人の方に近寄りホッと胸をなでおろした様子だった。
「母さん、無茶したらダメだって、墓参りには明日行くって約束したじゃないか」
「分かってはいたのだけど、少し懐かしくなってね……心配かけてごめんなさい」
この大柄の息子さんも普通に顔がイケメンで美形の親子か……いや待て、今あのメイドが妻って言ったのか?
「いいよ今回は母さんのために組んだスケジュールだからね、それよりもだ肝心のお前は何してんだよ?」
「それはもちろん、秋奈お義母さまの付き添い兼護衛ですが?」
そういってメイドは優雅にスカートの端をつまむと綺姫と二人で少し目を離した隙にサンドウィッチを作っていた。
「俺には店の子と仲良く料理してるようにしか見えないんだが?」
「ええ、若く素晴らしい才能を見つけましたので少し、ね?」
そう言うと綺姫とサンドウィッチ作りを再開してしまった。こっちは完全無視だ。
「まったく、ま~たメイド道とか言い出したか……すまないな君たち、妻が迷惑をかけたようだな……」
すんげえ振り回されて迷惑かけられましたとは流石に言えないので綺姫以外の俺たち五人は苦笑するしかなかった。
「心外ですね。私はメイド道を探求していただけですが……あなた?」
「はぁ、お前は相変わらずだな……モニカ」
苦笑する男性いやメイドの旦那さんも呆れていた。たぶん常時このような感じで旦那さんもメイドな奥さんに振り回されているんだなと直感で俺は理解した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます