第48話 バイトと出会いと進展と? その1
◆
「よし、何とか店は回せそうだな」
客足が途絶えた店内に客も完全に居なくなったタイミングで瑞景さんが言った。オープンから大体三時間弱が経過しているが意外と繁盛して驚いた。
「ああ……にしても
「八上くん、星明くんにも言ったが
「あっ、ああ、でも一応は年上だから、まあ俺も瑞景さんで」
しかし八上さんが恐縮するのも理解できる。この
「でも瑞景さんは本当に普段は何されてるんですか? 学生だと聞きましたが……」
綺姫の話では学生だと聞いていたが本人からは社会人だと話された。いや広い意味では大学生でも仕事をしていれば社会人だがと疑問に思っていたら予想外な答えが返って来た。
「ああ、少し前にスカウトされて今は大学は休学中で中途半端な状態でね」
在学中にスカウトとか本当に存在するのかと別な疑問が湧いたが少し複雑らしく海上にも学生のまま誤魔化して欲しいと頼んでいたらしい。だが、そこで冷静にツッコミを入れたのは八上さんだった。
「いやいや、じゃあ今は何やってんだ、スカウト先に行かなくていいのか?」
「まあ、それは秘密で、ただスカウト先から返事待ちで家で暇してたら珠依から連絡が来たからね」
調整とか色々有るんだと言われたが謎過ぎる。とにかく特殊な仕事場にスカウトされ今は暇だから恋人を助けに来たという状況なのは理解した。
「あの、八上さん」
「なんだよ、てか俺も
「そうですか、じゃあ自分も星明で大丈夫っす」
実はバイト中に何度か話した感じ話しやすいんだこの人。瑞景さんは凄い良い人だし気を遣ってくれてるのが分かるけど八上さんは自然体で助かる。浅間の知り合いだから構えていたが普通に良い人だった。
「それで……なんだ?」
「いえ……そろそろアレ何とかした方がいいかと」
そこで俺達三人はなるべく触れずにいた方を見る。視線の先には客がいた時は良かったが居なくなった途端カウンターに突っ伏して元気の無くなっている浅間がいた。
「ああ……ったく咲夜の奴どうしたんだ? あいつはもっと笑ってた方が……くっ、普通にキモいな今の……わりいが任せる同級生だろ?」
「いえ、俺もそこまで仲が良いわけでは無いので」
謝罪はされたが今でも理由が分からず勝手にキレられてた側なので正直なところ扱いもめんどうで俺も普通にNGです。
「あ~彼女のダチって関係だからビミョーか……まあ、あんなんだけど根は悪い奴じゃないからよ」
「はい……自分も綺姫の友人という感覚でして」
俺がそう言うと隣の瑞景さんが少し驚いたように眉をピクッとさせた後に笑顔になっていた。今の会話で笑う所は無いと思うけどな。そんな俺達がどうすべきかと考えていたらカランとドアベルの音が響く。
「みんな!! 外にもお客さん一人も居ないから休憩まわそ!!」
「シフト通りなら最初はウチとミカ兄だけど大丈夫そう?」
外の清掃というか簡単な見回りを兼ねた確認を終えた二人が戻って来た。ちょうど最後の客が退店した時に瑞景さんの指示で出てもらっていたのだ。
「それでどうだったホテル側は?」
「あっ、そっちの報告が先だったね!! やっぱり凄い人だったよ、こことは大違いで、どっかの王国の人が来るんだって~」
綺姫はお姫様とか来るのかな? と可愛らしいことを言っていたが王国か、石油王でもやって来るのだろうか? だが、こんな片田舎のリゾートホテルになんて来るメリットが存在しない。
「ここは首都でも大都市でも無いのにな……」
「叔父さんにも協賛の企業は分かってるけどVIPについて秘密にされてるらしい。オーナーと本社のお偉いさんしか知らされてないんだと」
八上さんの話に俺は絶句した。現場の責任者に詳細を知らせないとか致命的を通り越して異常だと思う。そこを俺が疑問に思っていたら瑞景さんも同じだったらしく口を開いていた。
「そのVIP次第だけど警備プランが大変だろうな……混乱も避けられないだろうし、どうやって動くのか興味は有るかな」
「それより二人は休憩して来なよ、アタシのカルボナーラ冷めちゃうよ~!!」
たしかに綺姫のお手製のパスタが冷めるのはよくない。二人にそう言うと苦笑しながらバックルームに入って行った。頼りの海上たちが居ないのは不安だが今の時間は周囲に客も居ないから大丈夫だろう。
「ま、ランチやディナー以外は客層もホテルの従業員や警備の人間の中で酔狂な客が来るくらいだって叔父さんは言ってたしな」
「そっ、そうなんだ、聡思兄さん、他には何か、えっと……叔父さんは元気?」
なるほどと俺が相槌を打っていたら浅間が急に会話に入って来た。チラチラ見ていたから気になってはいたのだが……。もう一つ気になるのはその後ろで「頑張れ!! そこだ行ける!!」と拳をグッと握って呟く綺姫だった。
「あ? そうか咲夜も叔父さんにちゃんと挨拶するか? 昔お世話になったしな」
「えっ? うっ、うん!! 後で二人でなら行かないこともないけど!!」
「いや、そうか別に無理しなくて――――「行くべき!! 行くべきだよ!!」
ここでセコンドのように浅間の後ろにいた綺姫が動いた。そして今ので俺は綺姫の行動の意図を理解し口を出すことにした。
「八上さん、ちょうどいいから次の休憩にでも行って来たらどうですか?」
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