第149話 隠される真実と裏側 その3
◆
「それで瑞景さんは他に聞いて無いんですか?」
「何も……先輩らに聞いてみようか?」
相変わらずの笑顔を浮かべて俺の言葉を受け流すと何でも無いと余裕の表情だ。話してくれる気は無いと見て間違いない。
「いえ、そこまでは……それに今は文化祭の準備に集中しようと思うんで」
「そうか、僕も聡思くんと二人で行こうかな。そういえば君らのクラスの出し物は何かな?」
そう言われて俺は固まった。そういえば俺のクラスの出し物って何だ?
「あれ、ウチも知らないんだけど……」
海上も同じで準備は任せろとクラスメイトらが言っていたから完全に忘れていた。結局、俺達のクラスは何をするんだ?
「あ、それはね
「「「
綺姫の言葉で俺たち三人は謎の声を出していた。
◆
――――瑞景視点
帰りの車内では先ほどの話題で持ち切りだった。
「まさかクラスでそんな事になってたなんて……」
「綺姫ちゃんに言われるまで気付かなかったのかい?」
「うん、迂闊だった。実行委員の仕事ばっかで」
しかし屋台屋とは何だと聞けば屋台で売ってる系の物を複数売る模擬店だそうだ。三日間有る文化祭でたこ焼き、クレープ、焼きそば等を作るらしい。
「だけど珠依、複数の料理提供なんて出来るのかい?」
「分かんない、マジでノータッチだったから」
でも何とかなると笑っている。その笑顔は力無く笑っているのが目に見えて分かってしまう。だが特に何も言わず久しぶりに恋人らしい会話をして俺は彼女を自宅へと送り届けた。
「じゃあ、またね珠依」
「うん、ミカ兄……あの、さ……危ない事だけは止めてよ?」
「ああ、もちろんさ」(難しいな、それは)
それだけ言って別れると俺は自宅へ戻る途中にスマホに通知が有ったのを確認する。二件の内一つは星明くんだ。探り半分という内容で想定済みだが問題はもう一つだった。
「もしもし、俺です……はい、分かりました」
すぐに返事を出すとバイト先いや将来の就職先からの連絡が来た。どうやら今回の依頼主からの連絡で会って直接お礼をと言われたそうだ。なぜか今回お鉢が回って来たのは俺だった。
「はぁ、最悪の場合が起きた時にバイトの俺だけを切る気か……俺が千堂の息のかかった者なのはバレてるみたいだな……末端なのにな困ったもんだ」
今から会う相手と顔を合わせるのは三度目で今回の事件の仕掛け人だ。だから指定された場所も相手のホームグラウンドだった。俺の勘では今回の後処理の確認と立ち合いに違いない。
「憂鬱だ……行くか」
俺は溜息をつくと停めていた車のエンジンをかけると目的地へ向かう。目的地が十分弱で到着できる圏内なのが幸いだ。そして到着すると大き目の屋敷が有った。周囲には少し離れて似たような家々が建っている。
「典型的な郊外の高級住宅街……ただビルは無い、昔ながらと言った感じか」
屋敷の門が開き誘導され庭の一画に車を停めながら俺は呟いた。今日は見た事の無い女性が誘導だ。
「どうも、新しい方ですか?」
「分かりますか額田さん、ですよね? 新人の佐々木です」
ペコリとお辞儀をする黒髪にメガネをかけたショートカットの女性はかなりの美人だった。名乗った彼女はこれから会う予定の人物の秘書だそうだ。そういえば彼女に秘書が付いてるのを俺は見た事が無かった。
◆
「こちらでお待ち下さい、すぐに二人とも参りますので」
その言葉に頷いて出て行く佐々木さんを目で追うが明るい場所で見ると改めて見ても美人だ。元モデルか何かだろうか。
「待たせたね額田くん」
「ええ、またお会いしましたね……須佐井 詩月さん」
そう言って会釈するが互いに目は笑っていない。そして肝心のもう一人が来ていなかった。
「あの……今日は須佐井社長は?」
「ついに倒れた……こう連続して子供が不祥事を起こせば当然さ、先ほどまで工藤警視が説得して何とか納得してもらったけど気絶するように眠ってるよ」
なるほどと相槌を打つと残りの交渉は俺と彼女の二人でする事になった。
「以上だ……これで須佐井建設の跡取りは僕だ、千堂会長に伝えて欲しい今後は表でも裏でもこき使って欲しいとね?」
「分かりました。ところで前から気になってたんですが、いつまで男装なんてしてるんだい? 須佐井詩月ちゃん?」
「これはこれは……年下から”ちゃん”付けは少し照れるな」
そう、須佐井詩月はれっきとした女だ。初対面時には気が付かなかったが後で資料を見せられ驚いた……性別欄が女となっていたからだ。
「なぜ男装してるのか、そして大学まで女子高で寮生活だったか気になる所です」
「それはプライベートだから……と言いたいけど事情は話すべきだね、今回の件に関わって来るしね」
そう言うと彼女は立ち上がったが背も高い。さすがに俺と同じでは無いが女性の中では平均を優に超えている。
「どちらに?」
「付いて来て欲しい、須佐井家の秘事だからね、だから当事者のいる地下に行こう」
その地下に俺が入るのは初めてだ。前回は俺では無く秋山警備保障の先輩が尊男を引き取る際に入ったと聞かされた。部屋を出ると先ほどの秘書の佐々木さんもいた。どうやら彼女も付いて来るらしい。
「大丈夫なのですか?」
「ええ、彼女は信頼できます。というよりも実は私の高校の先輩なんです」
「そうなんですか」
会釈されにこやかな笑みも美しいな佐々木さん。少し魔性的な気がするが残念ながら俺は珠依一筋だから効かないんだ。
「あら強い人……詩月この人、厄介よ」
「知ってるさ、だから愚かな姉の捕縛を頼んだんですよ」
ニヤリと口の端を吊り上げ忌々しそうに言うと彼女は地下への扉を開けた。そして、とある地下牢の前で止まると中の人間に話しかける。
「やあ、照姉ぇ……居心地はいかがかな?」
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