第148話 隠される真実と裏側 その2

――――星明視点


「そんで二日後の今朝、あいつが自殺したって……」


「他には何か聞いたんですか?」


 俺が聞くと捜査機密で教えられないと言われ他は何も知らされてないそうだ。そして最後の照陽の顔が夢に出るほどで忘れられないと聡思さんは語った。


「今朝は悪かった咲夜……」


「良いけど、前みたいに拒絶されたみたいで嫌だった」


 浅間がブスッとして言うが今日一日の不安そうな顔を見てれば言いたくなるのも分かる気がする。それだけ今日の浅間は情緒不安定だった。


「悪い、俺があの時にって思ったら不安になって……」


「それは考え過ぎですよ聡思さん」


 だから俺は思わず口が出ていた。咄嗟の言葉なのに不思議なもので、こういう時の口から出まかせは慣れたもので内心、自分自身で驚いた。


「考えてみて下さい、警察の監視下で自殺されたのなら聡思さんが頑張っても止められる訳が無いじゃないですか」


「それは……だけど!!」


「そ、そうだよ葦原の言う通りだよ聡思兄ぃ!! 」


 上手く乗って来た浅間も俺の意図を読んだのかは分からないが合わせてくれた。たぶん必死なんだろう好きな人のために……。そういえば俺を殊更イジっていたのも聡思さんへの八つ当たりが原因だったな。


「そーですよ日本の警察凄いんですから!! 取調べされたアタシが言うから間違い無いですよ聡思さん!!」


「あ~、そういえばアヤって取調べされてたっけ……」


 そこで綺姫は最初は取調べが恐かった事、二日目からは優しかったけど調子に乗り過ぎると怒られたりカツ丼は貰えなかったと語った。


「そ、そうなのか……」


「そうなんです!! アタシ警察のお世話になったんで!!」


 綺姫……それは褒め言葉じゃないと俺は言ったのだが綺姫は止まらず謎の取調べマウントを取ってドンドン話は明後日の方に流れて行く。


「気にし過ぎ……か?」


「そうですよ!! アタシも今朝は驚きましたけど仕方ないですよ!! だから今夜は嫌な事を忘れるために星明とイチャイチャします!! だから聡思さんも咲夜とイチャイチャしてあげて下さい!!」


「ちょっ!? アヤ!!」


「アヤらしいアシストね……葦原、今夜がんばんな」


 海上がニヤリと笑って言うが目は笑っていない。明らかに空気を読んで言ってくれたらしい。俺以外は気付いていないようだが今の話での瑞景さんに何か思う所が有ったに違いない。




「じゃあ俺らは先に帰るけど……海上は良いのか本当に?」


「ええ、ミカ兄が迎えに来てくれるんで、それにお邪魔でしょ?」


「もうタマまで言わないで……でもサンキュ、じゃあ行こ聡思兄ぃ」


 あれから数時間、今日も五人で夕飯を食べ終わる頃には聡思さんも浅間も落ち着きを取り戻し自分なりの整理を付けられたようで安心した。そこに浅間の母親からの通知で二人は家に帰る事になった。


「じゃあ星明それに天原と海上も悪かったな今日は」


「気にしないで下さい。俺も事件の話を聞けて良かったです」


 そう言って二人を玄関まで送り三人になって戻ると居心地の悪い沈黙がリビングを支配した。


「海上……今日の話だが」


「うん、分かってるミカ兄が黒なのは確実ね」


 それだけ言うと黙ってしまった。俺も何と声をかけていいか分からない。


「え? どういう事なの星明?」


 そして一人分かっていない綺姫が俺と海上を交互に見て困惑していた。


「あくまで俺の主観だけど、たぶん瑞景さんの背後、話に出た警備会社と警察は繋がってるんだと思う」


「うん、秋山総合警備保障……普通に業界では大手ね」


 スマホを弄りながら件の会社のホームページを表示して海上は言った。警察との合同訓練や指導などもしているようで何人か警察OBも入社しているらしい。天下り先……つまりズブズブな関係だ。


「アタシどっかで聞いた事が……」


「ああ、俺もどこかで」


 何か引っかかるが今はそれよりも海上だ。やはり瑞景さんが怪しいのは確定的だろう。グレーが黒に変わったし何より恐いのは目的が不明な所だと思う。


「ミカ兄は何がしたいの? 分かんない……」


「だが少なくとも俺達に害意が無いのだけは確かだ」


「へ? そうなの?」


 綺姫が再び不思議そうに聞いて来るが、これは確実だと思っている。むしろ露骨に俺達を守ろうとしている動きだ。


「ああ、もし俺達に害意が有るのならチャンスは何回も有った」


「そうね、でも二人を守っているなら何から? 須佐井は海外なんだし」


 それが分からないから悩んでいる。仮に瑞景さんが本当に俺達を守るにしても何から守っているのかが分からない。


「う~ん、瑞景さんに聞いてもダメなんだよね?」


「前回の答えじゃな……無理だと思う」


 そこで俺達は三人して黙っていると海上のスマホからピコンと通知を告げる音が聞こえた。どうやら問題の人物が到着したらしい。


「とにかく解決はしたんだし……良いのかな?」


「そうだよタマ!! それに姫星祭はもうすぐだよ!!」


 綺姫の言葉に俺も海上も頷くと気持ちを切り替える。どんな形にしろ浅間と聡思さんの問題は決着して二人は付き合い始めた。当面の危機は去ったし今はそれで良いのかも知れない。

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